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終章:真実の恋
第33話:恋人たちの日常
全ての戦いが終わり、王都に、久しぶりの穏やかな冬が訪れていた。
空は高く澄み渡り、冷たい空気が肌を刺す。だが、暖炉の炎がぱちぱちと音を立てる団長室の中は、春の日だまりのように温かかった。
俺は、公爵家の次期当主という立場でありながらも、「本人の強い希望」という、国王陛下お墨付きの特例で、今も騎士団に籍を置かせてもらっている。
もちろん、シリルの隣にいたい、という下心がないわけではない。
父には「団長の元で、まだ学ぶべきことがある」とかなんとか、もっともらしい理由を伝えてあるが、本当のところは、このかけがえのない時間を、一日でも長く続けたかったのだ。
***
その日、俺たちは、王都から数日の距離にある国境の砦へと、視察任務のために馬を並べていた。
冬の森は静まり返り、馬の蹄の音と、時折交わす俺たちの言葉だけが、凛とした空気に響いている。
「アシュトン、寒くないか」
シリルが、心配そうに俺の顔を覗き込む。
「ええ、大丈夫です。あなたにもらった、この外套がとても温かいので」
俺がそう言って微笑むと、彼は満足げに頷いた。
俺が今着ている、純白の毛皮で縁取られた豪奢な外套は、数日前に彼が「お前に似合うと思ってな」と、少し照れくさそうにプレゼントしてくれたものだ。その肌触りは格別で、まるで彼の腕に包まれているかのような安心感があった。
夜、国境の砦に到着した俺たちは、一つの大きな部屋を割り当てられた。
もちろん、表向きは「騎士団長とその補佐」という名目だ。だが、二人きりになれば、俺たちはただの恋人同士だった。
パチパチと音を立てて燃える暖炉の前で、俺は冷え切った手を温めていた。
すると、後ろから大きな腕が伸びてきて、俺の体をすっぽりと包み込んだ。
「……シリル」
「まだ冷えているな」
彼は、俺を後ろから抱きしめたまま、俺の冷たい指先に、自分の指を絡ませてくる。そして、その手に、はぁ、と温かい息を吹きかけた。
「ひゃっ……!」
くすぐったさと、彼の優しさに、俺の心臓が大きく跳ねる。
「シリル、もう大丈夫ですって。子供じゃないんですから」
俺が照れながら言うと、彼は俺の肩口に顔をうずめた。彼の銀色の髪が、俺の首筋をくすぐる。
「俺にとっては、お前はいつまでも守るべき存在だ。……たとえ、お前がどれだけ強くなろうともな」
その仕草は、まるで大きな猫が飼い主に甘えるようで、俺は思わず笑ってしまった。
その夜、ベッドの中で。
まずは、彼が丁寧に俺のブーツを脱がせてくれ、冷え切った足先を、彼自身の大きな手でマッサージしてくれる。血の巡りが良くなっていくのが分かり、長旅の疲れがじんわりと溶けていくようだった。
「……気持ち、いいです」
「そうか」
彼は、満足げに微笑むと、今度は俺の冷えた足先を、自分の太ももの間に挟んで温めてくれた。
「これで、少しはマシだろう」
「……過保護すぎますよ、あなたは」
俺は、呆れながらも、その温もりに身を委ねた。
彼の匂い、彼の体温、彼の心臓の音。その全てが、俺を安心させてくれる。
「お前を、甘やかして、骨抜きにして、俺なしでは生きていけない体にしてやりたいと、常々思っている」
真顔で、とんでもないことを言う。
俺は、彼の言葉に顔を赤らめながらも、彼の胸に顔をうずめて、小さな声で答えた。
「……もう、とっくになってますよ。あなたのせいで」
その言葉に、彼は満足げに、そして嬉しそうに、俺の体を強く抱きしめた。
そして、どちらからともなく、俺たちは自然と唇を求め合う。
最初は、鳥が羽で触れ合うような、優しいキス。
それが次第に、熱を帯びていき、互いの舌を絡め合う、深く、そして長いキスへと変わっていく。
彼の大きな手が、俺の寝間着の中へと侵入し、素肌をゆっくりと撫で上げていく。そのたびに、俺の体はびくりと震え、甘い疼きが全身を駆け巡った。
「……シリル」
俺が、彼の名前を呼ぶと、彼は、俺の目を見つめて、言った。
「今夜は、お前を、どこまでも甘やかさせてくれ」
その夜、俺たちは、何度も、何度も、互いの体を求め合った。
それは、ただの欲情の発散ではない。
互いの存在を確かめ合い、愛を伝え合う、神聖な儀式のようなものだった。
***
翌日、砦の視察を終えた俺たちは、騎士たちと共に帰路についていた。
その先頭を歩く、ジェイクが、わざとらしく大きなため息をつく。
「やれやれ。団長も、アシュトンが絡むと、ただの甘やかし旦那になっちまうんだからな。見てるこっちが、胸焼けしちまいそうだぜ」
その言葉に、周りの騎士たちがどっと笑う。
俺は、顔を真っ赤にしながら俯くしかなかった。
だが、その視線のどれもが、温かいものだと、もう俺には分かっていた。
彼らは、俺たちの関係を、心から祝福してくれているのだ。
隣を歩くシリルの横顔を、そっと盗み見る。
彼は、相変わらず涼しい顔をしているが、その口元は、微かに笑みの形を描いていた。
ああ、幸せだ。
こんなにも、満たされた気持ちでいられるなんて。
破滅から始まった俺の物語は、今、この人の隣で、どこまでも甘く、そして穏やかに続いていく。
この幸せが、永遠に続くようにと、俺は、冬の澄み切った空に、そっと祈りを捧げた。
空は高く澄み渡り、冷たい空気が肌を刺す。だが、暖炉の炎がぱちぱちと音を立てる団長室の中は、春の日だまりのように温かかった。
俺は、公爵家の次期当主という立場でありながらも、「本人の強い希望」という、国王陛下お墨付きの特例で、今も騎士団に籍を置かせてもらっている。
もちろん、シリルの隣にいたい、という下心がないわけではない。
父には「団長の元で、まだ学ぶべきことがある」とかなんとか、もっともらしい理由を伝えてあるが、本当のところは、このかけがえのない時間を、一日でも長く続けたかったのだ。
***
その日、俺たちは、王都から数日の距離にある国境の砦へと、視察任務のために馬を並べていた。
冬の森は静まり返り、馬の蹄の音と、時折交わす俺たちの言葉だけが、凛とした空気に響いている。
「アシュトン、寒くないか」
シリルが、心配そうに俺の顔を覗き込む。
「ええ、大丈夫です。あなたにもらった、この外套がとても温かいので」
俺がそう言って微笑むと、彼は満足げに頷いた。
俺が今着ている、純白の毛皮で縁取られた豪奢な外套は、数日前に彼が「お前に似合うと思ってな」と、少し照れくさそうにプレゼントしてくれたものだ。その肌触りは格別で、まるで彼の腕に包まれているかのような安心感があった。
夜、国境の砦に到着した俺たちは、一つの大きな部屋を割り当てられた。
もちろん、表向きは「騎士団長とその補佐」という名目だ。だが、二人きりになれば、俺たちはただの恋人同士だった。
パチパチと音を立てて燃える暖炉の前で、俺は冷え切った手を温めていた。
すると、後ろから大きな腕が伸びてきて、俺の体をすっぽりと包み込んだ。
「……シリル」
「まだ冷えているな」
彼は、俺を後ろから抱きしめたまま、俺の冷たい指先に、自分の指を絡ませてくる。そして、その手に、はぁ、と温かい息を吹きかけた。
「ひゃっ……!」
くすぐったさと、彼の優しさに、俺の心臓が大きく跳ねる。
「シリル、もう大丈夫ですって。子供じゃないんですから」
俺が照れながら言うと、彼は俺の肩口に顔をうずめた。彼の銀色の髪が、俺の首筋をくすぐる。
「俺にとっては、お前はいつまでも守るべき存在だ。……たとえ、お前がどれだけ強くなろうともな」
その仕草は、まるで大きな猫が飼い主に甘えるようで、俺は思わず笑ってしまった。
その夜、ベッドの中で。
まずは、彼が丁寧に俺のブーツを脱がせてくれ、冷え切った足先を、彼自身の大きな手でマッサージしてくれる。血の巡りが良くなっていくのが分かり、長旅の疲れがじんわりと溶けていくようだった。
「……気持ち、いいです」
「そうか」
彼は、満足げに微笑むと、今度は俺の冷えた足先を、自分の太ももの間に挟んで温めてくれた。
「これで、少しはマシだろう」
「……過保護すぎますよ、あなたは」
俺は、呆れながらも、その温もりに身を委ねた。
彼の匂い、彼の体温、彼の心臓の音。その全てが、俺を安心させてくれる。
「お前を、甘やかして、骨抜きにして、俺なしでは生きていけない体にしてやりたいと、常々思っている」
真顔で、とんでもないことを言う。
俺は、彼の言葉に顔を赤らめながらも、彼の胸に顔をうずめて、小さな声で答えた。
「……もう、とっくになってますよ。あなたのせいで」
その言葉に、彼は満足げに、そして嬉しそうに、俺の体を強く抱きしめた。
そして、どちらからともなく、俺たちは自然と唇を求め合う。
最初は、鳥が羽で触れ合うような、優しいキス。
それが次第に、熱を帯びていき、互いの舌を絡め合う、深く、そして長いキスへと変わっていく。
彼の大きな手が、俺の寝間着の中へと侵入し、素肌をゆっくりと撫で上げていく。そのたびに、俺の体はびくりと震え、甘い疼きが全身を駆け巡った。
「……シリル」
俺が、彼の名前を呼ぶと、彼は、俺の目を見つめて、言った。
「今夜は、お前を、どこまでも甘やかさせてくれ」
その夜、俺たちは、何度も、何度も、互いの体を求め合った。
それは、ただの欲情の発散ではない。
互いの存在を確かめ合い、愛を伝え合う、神聖な儀式のようなものだった。
***
翌日、砦の視察を終えた俺たちは、騎士たちと共に帰路についていた。
その先頭を歩く、ジェイクが、わざとらしく大きなため息をつく。
「やれやれ。団長も、アシュトンが絡むと、ただの甘やかし旦那になっちまうんだからな。見てるこっちが、胸焼けしちまいそうだぜ」
その言葉に、周りの騎士たちがどっと笑う。
俺は、顔を真っ赤にしながら俯くしかなかった。
だが、その視線のどれもが、温かいものだと、もう俺には分かっていた。
彼らは、俺たちの関係を、心から祝福してくれているのだ。
隣を歩くシリルの横顔を、そっと盗み見る。
彼は、相変わらず涼しい顔をしているが、その口元は、微かに笑みの形を描いていた。
ああ、幸せだ。
こんなにも、満たされた気持ちでいられるなんて。
破滅から始まった俺の物語は、今、この人の隣で、どこまでも甘く、そして穏やかに続いていく。
この幸せが、永遠に続くようにと、俺は、冬の澄み切った空に、そっと祈りを捧げた。
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