月下、血の香りに導かれて ~吸血鬼の狂愛は血の香り~

なの

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エピローグ

終わらない夜の館で

あれから、数十年という歳月が流れた。
人間界では、世代が一つ、あるいは二つ入れ替わるほどの、決して短くはない時間。しかし、永遠の夜の館では、すべてが、あの日のままだった。

見た目の変わらない二人は、書庫の窓辺で、穏やかな午後の光を浴びていた。
律は、ルシアンの膝の上にちょこんと座り、分厚い歴史書を読んでいる。
その後ろから、ルシアンが、律の身体をすっぽりと腕の中に閉じ込め、その小さな頭に、自分の顎を乗せている。その仕草は、もう、何十年も続く、二人にとっての当たり前の風景だった。

「……なぁ、ルシアン。この時代の服って、やっぱり、動きにくそうだよな」

律が、本の中の、豪奢なレースやフリルに彩られた貴族の挿絵を指さして、そう呟いた。

「そうか? だが、お前が着れば、きっと、どんな服も似合うだろう。今度、仕立てさせてみようか」

「いや、いいよ。面倒くさい」

「そう言うな。お前の新しい姿を、一番最初に見るのは、私でなければならんのだから」

その言葉は、相も変わらず、底なしの独占欲に満ちている。
しかし、律は、もう、それを不快には思わなかった。彼は、本から顔を上げると、振り返り、ルシアンの唇に、ちゅ、と、軽いキスを一つ、落とした。

「はいはい。わかってるよ、俺の王様」

その悪戯っぽい笑みに、ルシアンは、たまらないというように、目を細める。そして、律の身体を、ぎゅっと、抱きしめた。

「……愛している、セドリック」

「……知ってる。俺もだよ、ルシアン」

その穏やかな時間が、しかし、一本の導火線に火をつけた。
ルシアンの瞳の奥に、ゆらり、と、見慣れた炎が宿る。ただ、目の前の愛しい存在を、その身も心も、すべて、自分のもので、隅々まで味わい尽くしたいという、純粋で、どうしようもないほどの、情欲の炎だった。

「……だが、セドリック」

ルシアンは、律の耳元で、囁いた。その声は、先ほどまでの穏やかさとは打って変わり、熱を帯びて、低く、甘い。

「どんな美しい服を纏うお前よりも、私が一番好きなのは、何も纏わない、ありのままのお前だということを、忘れるな」

その言葉と共に、ルシアンは、律の身体を、まるで羽毛でも抱くかのように、軽々と横抱きにした。

「おい、どこへ……」

「決まっているだろう。私たちの、寝室へだ」

ルシアンは、悪戯が成功した子供のように笑うと、律を抱いたまま、書庫を後にした。

寝室の暖炉には、いつから燃えていたのか、静かに、しかし、熱く、炎が揺らめいている。
ルシアンは、律の身体を、ベッドではなく、暖炉の前に敷かれた、厚く、そして柔らかな熊の毛皮の絨毯の上に、ゆっくりと降ろした。

衣服を、一枚、また一枚と、丁寧に剥がされていく。
その冷たく、滑らかな指が、肌の上を這うたびに、律の身体は、びくり、と、甘く震えた。

もう、何十年も、この指に、愛され続けているというのに、その感触には、いまだに、慣れるということがない。

やがて、互いに、何も纏わない姿になる。
揺らめく炎の光が、鍛え上げられた吸血鬼の王の白い肉体と、その腕の中で、少しだけ上気した、しなやかな人間の身体を、幻想的に照らし出していた。

「……綺麗だ、セドリック」

ルシアンは、恍惚と、律の身体の、その隅々までを、まるで美術品でも鑑定するかのように、熱心な視線で眺め回す。

「お前の肌は、どんな宝石よりも、私の心を奪う」

彼は、律の足の指先から、ゆっくりと、その唇を這わせていく。

くるぶし、ふくらはぎ、膝の裏、そして、太ももの内側へ。そのたびに、律の喉から、くぐもった、甘い声が漏れた。

「……ん……や……だ……」

その言葉が、もはや、本心からの拒絶ではないことを、二人とも、よく知っていた。
やがて、ルシアンの唇が、律の分身へと辿り着く。

「ひ……ぁっ!」

律の身体が、大きく、弓なりになった。
ルシアンは、その反応を、心底楽しむように、舌で、丁寧に、執拗に、愛撫を繰り返す。
律は、その背徳的で、直接的な快感に、なすすべもなく、ただ、喘ぎ声を上げることしかできない。

「……ま、待って……ルシアン……俺も……」

律は、快感に溺れながらも、必死に、ルシアンの頭を押し返した。

「お前だけじゃ、ずるい……俺にも、させて……」

その言葉に、ルシアンは、満足げに、顔を上げた。

「ああ。許す。お前のすべてを、私に」

律は、震える身体を、何とか起こすと、今度は、自分が、ルシアンの身体に、覆いかぶさった。

そして、その硬く、熱を持った、王の証に、自らの唇を寄せる。
魂の繋がりを通して、ルシアンの、焼け付くような歓喜が、律の中へと流れ込んできた。

自分が、この絶対的な王を、悦ばせている。
その事実が、律に、何物にも代えがたい、征服感と、幸福感をもたらした。

しばらく、互いの熱を、貪り合った後、ルシアンは、もう、我慢できないというように、律の身体を、再び、ひっくり返した。
そして、躊躇うことなく、その中心を、律の熱く、濡れた場所へと、ゆっくりと深く、沈めていく。

「―――ッ!」

何十年経っても、身体が引き裂かれるような、圧倒的な存在感。
その痺れるような痛みが、すぐに、それ以上の、灼けつくような快感へと変わっていく。

「……はぁ……ぁ……ルシアン……好き……だ……」

「ああ、私もだ、セドリック。愛している。お前だけを、永遠に」

激しく、腰が打ち付けられる。
そのたびに、魂が、奥の奥まで、満たされていくような、絶対的な感覚。

ルシアンの牙が、快感にのけぞる、律のうなじに、甘く、食い込んだ。
血を吸うためではない。
ただ、愛しくて、たまらないという、衝動のままに。
その痛みさえもが、律にとっては、最高の愛の証だった。

やがて、二人の身体が、同時に、大きく、痙攣する。
熱い奔流が、身体の奥深くに、注ぎ込まれ、律の意識は、真っ白な光の中に、溶けていった。

……どれくらい、そうしていただろうか。

律はルシアンの腕の中で、静かに、息を整えていた。
かつて、律を閉じ込めていた、鳥籠。
それは、いつしか、二人にとって、何者にも脅かされることのない、世界で一番、安心できる、甘美な愛の巣へと変わっていた。

――永遠に続く、夜の館で。

二人の王と、その唯一無二の番の、終わらない、愛は、これからも、ずっと、ずっと、続いていく。

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