発情期のタイムリミット

なの

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試験当日、限界の朝

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陸が目を覚ましたのは、アラームが鳴る前だった。体が熱くて、寝汗でパジャマがべっとりと肌に張り付いている。

「うぅ……」

時計を見ると、まだ朝の五時。試験開始まで、あと四時間。

「やば……やばい……」

陸は慌ててベッドから起き上がった。しかし、立ち上がった瞬間、めまいが襲ってくる。

「だめだ……今日は本当にやばい……」

鏡を見ると、頬は赤く火照り、瞳は潤んでいる。完全に発情期の症状だった。

「抑制剤……」

陸は薬箱から錠剤を取り出した。いつもの倍量を手に取りかけて、ふと大輝の言葉を思い出す。

『バカ野郎!普通は一錠だろ!』

陸は迷った末、規定量の一錠だけを飲んだ。

シャワーを浴びて制服に着替えるが、体の熱は一向に引かない。甘い香りも、昨日よりさらに濃くなっている。

「どうしよう……こんな状態で試験なんて……」

朝食の準備をしている母親のところに降りていくと、母親は陸の様子を見て驚いた。

「陸!顔、真っ赤よ!」

「大丈夫……平気だから」

「平気じゃないでしょう!熱測りなさい」

体温計を脇に挟むと、37度5分。

「微熱があるじゃない。今日は学校休みなさい」

「だめ!今日は試験なんだ!」

陸は必死に訴えた。

「体調悪いのに試験なんて……」

「お母さん、お願い!今日だけは休めない!」

陸の真剣な表情を見て、母親は困ったような顔をした。

「……分かったわ。でも、無理だと思ったらすぐに保健室に行くのよ」

「うん、ありがとう」

朝食もろくに喉を通らない陸の様子に母親が心配そうに見ているが、陸は無理に笑顔を作った。

「大丈夫だから」

学校に着くと、いつものように大輝が教室で待っていた。陸の姿を見た瞬間、大輝の表情が変わった。

「おい……お前……」

「おはよう、大輝」

陸はできるだけ普通を装って挨拶した。

「おはようじゃねーよ。その顔、完全にヤバいだろ」

大輝は陸に近づいて、額に手を当てた。

「熱もあるし、匂いも……」

確かに、陸からは昨日とは比べ物にならないくらい濃厚な甘い香りが漂っている。

「分かってる。でも、今日は試験だから」

「試験より体調だろ」

「体調より試験!」

陸の頑固な答えに、大輝はため息をついた。

「……分かった。でも、辛くなったら言えよ」

「ありがとう……」

一時間目、数学の試験が始まった。

陸は問題用紙を見つめるが、文字がかすんで見える。集中しようとするが、体の奥から湧き上がってくる熱に意識が朦朧とする。

「落ち着け……落ち着くんだ……」

陸は深呼吸をして、ペンを握った。

最初の問題は基本的な計算問題。これなら大丈夫。

しかし、三問目あたりから雲行きが怪しくなってきた。文字が踊って見え、何度読み返しても問題の意味が理解できない。

「やば……集中できない……」

隣の大輝が心配そうにこちらを見ているのが分かる。でも、試験中は話すことができない。

二十分経過。陸はまだ半分も解けていなかった。焦りが募り、手に持ったペンが震える。

「だめ……このままじゃ……」

その時、ふと甘い香りが強く漂った。前の席の生徒が振り返る。

「あれ?なんか甘い匂い……」

陸は真っ青になった。周りにバレてしまう。

「すみません」

陸は手を上げて先生に声をかけた。

「気分が悪いので、保健室に……」

「分かった。一人で平気か?」

「はい」

保健室のベッドで横になると、すぐにそのまま意識が遠のいた。

目を覚ました時、陸の隣には大輝が座っていた。

「起きた?」

「……試験は?」

「終わった」

陸は絶望的な気持ちになった。

「やっぱり……だめだった……」

「だめじゃない。先生に聞いたら後日、追試できるって」

「本当?」

陸の顔がぱっと明るくなった。

「本当だ。体調不良での欠席は、追試が受けられるって」

そこに養護教諭がやってきて、陸の額に手を当てた。

「熱が上がってるわね。38度近くあるわ。発情期でしょう?無理しちゃダメよ」

陸は恥ずかしそうに頷いた。そのとき、連絡を受けていた陸の母親が迎えにきてくれた。

「陸、大丈夫?」

「ごめん、お母さん……」

「謝らなくていいのよ。無理させてしまって、私こそごめんなさい」

母親は陸を優しく抱きしめた。

「大輝くんも、ありがとう。陸のこと、心配してくれて」

「当然です」

大輝の真剣な表情に、母親は少し驚いた。

「そう……ありがとうね」

帰りの車の中で、陸は母親に謝り続けた。

「ごめん、お母さん。仕事中なのに……」

「仕事より陸の方が大切よ。それに、体調管理も含めて試験なのよ」

母親の優しい言葉に、陸は涙が出そうになった。

家に着くと、母親は陸をベッドに寝かせてくれた。

「今日は絶対安静よ。追試のことは心配しないでいいからね」

母親が部屋を出て行った後、陸は一人でベッドに横になった。

スマホに大輝からメッセージが入っている。

《大輝:大丈夫?何か必要なものあったら言って》

陸は嬉しくて、すぐに返信した。

《陸:ありがとう。今日はごめん》

《大輝:謝るな。お前は十分頑張った》

《陸:でも、試験……》

《大輝:追試があるって言っただろ。それより体調だ》

《陸:心配かけてごめん》

《大輝:心配するのが当然だろ。俺はお前の幼なじみなんだから》

その言葉に、陸の胸が温かくなった。

夜中、陸の体調はさらに悪化していた。熱は40度近くまで上がり、体中が火照っている。

「苦しい……暑い……」

夜中、陸は何度も目を覚ました。体が熱くて、汗びっしょりになった。

ふと、スマホを見ると、大輝からメッセージが届いている。

《大輝:眠れてる?辛かったら連絡して》

陸は嬉しくて、震える指でメッセージを打った。

《陸:起きてる。ありがとう》

《大輝:やっぱり眠れないのか。大丈夫?》

《陸:ちょっと熱が……でも大丈夫》

《大輝:嘘つくな。声聞かせて》

突然電話がかかってきた。陸は慌てて出る。

「もしもし……」

「声、かすれてるじゃねーか。相当辛いだろ」

大輝の心配そうな声に、陸は涙が出そうになった。

「大輝……」

「俺、今からそっち行こうか?」

「だめ……夜中だし……」

「でも……」

「大丈夫だから……大輝の声聞けただけで、楽になった」

その言葉に、大輝の胸がきゅっと締め付けられた。

「陸……無理すんな。体調第一だ」

「うん……ありがとう、大輝」

電話を切った後、陸は少しだけ安心することができた。

大輝が心配してくれている。それだけで、この辛さも乗り越えられそうな気がした。

しかし、陸はまだ知らない。

これが、本格的な発情期の始まりに過ぎないということを。

そして、明日からの数日間が、陸にとって人生で最も辛く、そして最も大切な時間になるということを。

長い夜が、ゆっくりと過ぎていった。


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