10 / 18
新進気鋭パーティの雑用係が追放されて盲目剣聖様の世話係になるお話
10
しおりを挟む
正式にユキの雑用係として契約を結んだファナ。先ずは泊まる宿屋をと言われ、ファナがお世話になっている宿屋へと案内した。同じ宿屋で滞在していれば、何かあった時直ぐに対応出来る。それに、この宿屋は清掃も行き届いており、料理も非常に美味しい。最高級とは言えないが、かなり良質な宿屋だとファナは思っている。
「そうなのねぇ!ファナちゃんのお連れさんなら、お安くしとくわよ!」
宿屋に着き、その受付場で仕事をしていたサルシャへと事情を簡単に説明した。
そして、事情を理解したサルシャはファナの分だけでなくユキの分まで割引にすると言うのだ。ユキは現在フードを被っており、素顔を見せない変質者と捉えられても文句の言えない格好だ。と言うのに、ファナが説明すれば話が通るのだから、ファナへの信頼が見て取れる。
「ん。随分と、信頼されてるんだね?」
「あはは······大したことはしていないのですけどね······」
「まぁたファナちゃんは謙遜して!私達の恩人なのよ?もう少し胸を張りなさいって!」
あくまで自分の能力に劣等感しか覚えられないファナ。その態度に、ユキは少し不機嫌になる。
「ん。ファナ君。自分のした事をあまり悲観しちゃいけない。君は最低限、感謝されることをやったんだ。その事に対し誇りを持ち、自信を持たないと。感謝している側に失礼だよ」
「うっ······は、はい······」
ファナは2年もの苦行により自信がズタズタにされていた。それは簡単に修復できるものではなく、他の誰かが「自信を持て」と言ったとしても、殆ど効果は無かった。尊敬する、命の恩人であるユキの言葉だからこそ、ファナの心に直接響く。
「ん。分かればよろしい。······それと、先に言っておこう。お代はボクが払うから。余計な気遣いは不要だ」
「は、はい······」
『金龍の息吹』の雑用係であった頃は、こういった出費も全てファナが持っていた。そのため、自然な流れで支払おうとしていたのだ。ユキに先止めされ無ければ、確実に払っていたであろう。
ユキはもちろん、ファナの過去なんて知らない。しかし、これまでの短い間だが、ファナの性格は段々と読めてきていた。そこに命の恩人という箔がユキには付いている。行動を読む事くらい訳ないものだ。
見るからに落ち込んでしまったファナ。出来るだけユキに恩返しを、と意気込んでいたから尚更だ。
「あらあら······私もね、ファナちゃんにはもっと自信を持って欲しいと思っていたの。だから、ファナちゃんをよろしくね。えっと······」
「ん。剣士のユキ。適当に呼んで欲しい」
「えぇ!ファナちゃんをよろしくね、ユキちゃん!」
「ん。多少の矯正はするとしよう。謙虚は素晴らしいが、度を超えると嫌味になるからね」
2人は手を取り合って結託の意を示した。
サルシャはファナに娘へ対するような愛情を抱いている。そのファナが、自信も持てないでいる姿には心痛めていた。しかし、自分達が何を言っても慰めにしかならない。そこへやって来たユキというファナを説教出来るような関係者。もはや救世主であった。
こうして秘密裡に結成されていたこの町のとある組織、『"ファナちゃんを如何にして褒めるか"の会』に希望の光が差し込んだのであった。
※ ※ ※
割り振られた部屋に荷物をと思ったが、ユキもファナも手ぶらだ。ユキは収納袋に、ファナは空間に仕舞っているためである。2人はそのまま食堂へ進む事にした。
ユキを席に着けると、ファナは厨房へと向かい、手伝える雑用をテキパキとこなしていく。
じゃがいもの皮剥き、野菜の千切り、食器洗い、など。人が変わったかのようにテキパキテキパキと手を動かす。
それを(目を使わずに)眺めているユキ。サルシャの言う通り、ファナは褒められる力を持っている。千切りしている時の包丁さばきも、並の剣士では理解出来ない速度であった。それらをなんでもない事のようにやってのけ、自分は凄くないと自傷する。
後で絶対にチクチク言ってやろうと、ユキは悪戯地味た笑みを浮かべた。
「ただいま~です~······あ、ファナおねぇちゃん······」
外で遊んでいたエルフィアが昼食のために帰ってきた。厨房でご飯を作るファナを見つけ、そそくさと近づいて行く。何時もなら居ないため、少しファナは支度に忙しく気付いていないようだ。
「ふぅ······」
「おねぇちゃん!たーだいまーっですっ!」
「ひゃぁっ!!?」
ファナが一段落ついた隙を見逃さず、後ろからがっしりと抱きついたのだ。完全な不意打ちとなり、ファナは抜けた声を出す。
「こら!エルフィア!帰ってきたら先ず手を洗いなさい!」
するとサルシャから叱責が飛ぶ。その言葉にファナは些か疑問を抱くも、そこはそれぞれ親子間に決められた約束があるに違いない。料理中の人を驚かせちゃいけませんとか、叱って欲しいなとは思うけれども。
「は~い。手を洗ってきてから抱きつくです」
「そうしてね」
「しちゃダメですよ!?」
親の言うことを素直に聞く、それは素晴らしいことだが、ファナにとっては違う所にも気をつけてほしいと思うばかりだ。特に、男である自分に抱き着く、とか。正直控えるべきことだと思うし、親も注意しておくことであろう。
そのやり取りを聞いていたユキはくすくすと笑う。
「ん。ちょいと、君」
そして、手洗いから帰ってきたエルフィアを呼び止める。
「なんですか?······わぁ、銀色のエルフさんですか?」
ファナへと直行していたエルフィアだが、ユキの呼び掛けに足を止める。そして、ユキの耳が長いことに気がつき、脳内にあるエルフのイメージと比べる。エルフは森の住民。緑色の髪と長い耳が有名だ。金髪や黒髪も中には居るらしい。エルフィアも実際に何度かエルフを見たことがある。そのため、ユキの銀髪が特徴的に映った。
「ん?あぁ、ボクはエルフだよ。エルフのユキ······銀髪は確かに珍しいかもね。今日からこの宿に泊まるんだ。よろしくね」
「はい!フィアはエルフィアと言うです!よろしくお願いしますです!」
元気に頭を下げるエルフィア。その動作にユキはに僅かに笑う。なんだかんだ、子供好きなユキ。特に元気な女の子は好きだった。
「ユキさんは目隠ししているのです?」
「ん?そうだよ。目が使えないからね······それより。ファナ君について聞きたいな」
「ファナおねぇちゃんですか!ファナおねぇちゃんはとっても優しくて、とっっても凄いおねぇちゃんです!」
ファナについて聞かれると、エルフィアは嬉しそうに口を開く。まるで自慢の姉を紹介する妹のように、エルフィアはファナの凄さを両手を使って表した。
その動きを見て、ユキは楽しそうに口元を緩ませる。
「ん。そっかそっか······そう言えば、ファナお姉ちゃん、なの?」
「ふぇ?そうですよ?ファナおねぇちゃんはおにぃちゃんと言い張るおねぇちゃんです!」
「ん······だよねぇ。ボクもさぁ、未だにファナちゃんの方がしっくり来るんだよね」
ユキはそう言いながら、視覚以外の情報を思い出す。この何百年、視覚を無くした生活を送ってきた事で、嗅覚と聴覚、触覚は他の追随を許さないほど精密なものとなっていた。例え鼻の利く獣人にすら、ユキは勝てると思っている。それらが「ファナは女の子」と裏付けているのだ。あの感触から判断される、男性特有の生殖器の有無を除いた情報が、だ。あの時の感触と言っても小さなもので、虚偽の可能性を考えた方が納得出来てしまう。
「ん~。やっぱり、また確認しようかなぁ······」
厨房で作業するファナの方へ意識を向けながら、手をワキワキとさせて呟いたのであった。
その時、ファナが謎の危機感に襲われた事を話していた。
それからお昼ご飯の準備が終わるまで、ユキはエルフィアからファナの自慢話を聞いていた。聞いてみるとファナの人格が分かってくる。
例え自分が困っていようとも。困っている人を見ると助けたくなる。
めっちゃ可愛い。
基本的に奉仕の精神で生きている。
めっちゃ女の子より女の子している。
憧れのお姉ちゃん。
などなど。半分以上が違う話に逸れたものの、これでユキによる事情聴取は済んだ。
子供からの情報はとても重要だ。子供は見たものを多少は派手に言うが、プラスをマイナスに、マイナスをプラスには説明しない。どれ程の尾びれが着いているかは後で探るとして、ファナが雑用係として有能である事は理解出来た。
その上で不思議に思う。
ティルレッサから聞いたファナの雑用係ランクは最低のF。ユキは過去に5人、雑用係を雇用してクビにしている。
内訳はD1人、C1人、B1人、A2人だ。
Dランクの雑用係を雇い始めた頃、ユキはまだBランク冒険者であり、ギルドからは注目されていなかった。大型のモンスターを狩っては来るが、時間の掛る冒険者として見られていたからだ。
それを払拭するべくユキは"道案内役"として雑用係を雇った。雑用係の本分にもそれなりの期待を込めて。
腕前としてはイマイチであった。確かに自分でやるよりかは幾分とマシだ。しかし、あまりご飯も美味しくないし、武器のメンテナンスとかをすると言われて嫌な目に遭うし。極めつけは「見えなくては体を洗うのが不便でしょう」と言って迫ってきたことだ。ウザかったので殴って沈めたけれども。速攻で契約を取り消したけれども。
この時は運がなかったと思った。いわゆる売れ残りの雑用係を雇ってしまったのだ、と。ギルドには女の子をと要求したのだが、他のパーティに雇われて行ったと返された。行動が遅い自分を呪った。
それから4回。Sランク冒険者に至るまでに雑用係を雇用した。······いや、Sランク冒険者になってから2回雇った。
その2回も最悪なものだった。ギルド本部から派遣されたAランク雑用係と言っていたが、とても不愉快極まりない。そもそも実力だってCランクと変わらない程だと思ったし、偉そうな態度だから尚悪い。
まぁそんな事もあり、雑用係へ対する印象は悪かった。
しかしファナはどうだ。エルフィアの口から出る理解不能な偉業の数々。その上であの性格。何より可愛い。
彼──がFランクであるとすれば、この世にEランクは存在しないだろう。そう言わせて欲しい実力を持っている。
故に、ユキはファナへと疑問を抱く。これを拭わねば、ファナを傍に置いておく事は出来なかった。
お昼ご飯の準備が整い、エルフィアは母親の元へと行ってしまった。恐らく戻ってくるであろうが、今はファナと2人きり。周囲にいる客は料理に集中しているので、今聞いてもいいのかもしれない。
が、ユキもユキで料理の匂いに負けてスプーンを動かしていた。
「ん~。ファナちゃ······んのおすすめだけはあるね」
「······諦めて"ちゃん"にしないでください。と言うか、ユキさんは確かめましたよね!?」
スープを1口啜ったユキがその美味に舌鼓を打つ。
ユキの言葉に噛み付くように、ファナが頬を赤らめながら小声で叫ぶ。
そんなファナを無視しながら、ユキはお昼ご飯を胃袋へと収めていく。見えていないだろうに無駄のない動きで食べ進めていき、ファナが半分も食べる前に完食してしまった。
「ん~~。ごちそうさま」
「······あの、食べますか?」
「ん!くれるのかい?貰おーかなぁ」
「はい。僕には少し多いので······」
ファナはどこからとも無く取り出した未使用のフォークを使い、ユキの皿へと料理を移していく。
サルシャの計らいでファナの料理は多くなっているのだ。沢山食べないと大きくなれないよ、と。とてもありがたいのだが、何日も食べないでいたり最小限の食事で済ますことが多かったファナ。人よりも食べる量は少なくなっていたのだ。
何時もは空間に仕舞い、任務中のお昼ご飯にしていたが、今こそがその昼飯時。ならばとユキに譲ったのだ。決してユキが大食らいだと見抜いた訳では無い。ただ、何となくユキが物足りなそうにファナの料理を見ていたからだ。
「ん······まぁ、いいや。それも後で追求するとして、今はご飯!」
先程1人前食べたとは思えない勢いで、次々と料理を口に運ぶ。その様を見るだけでファナはお腹いっぱいになるのであった。
「そうなのねぇ!ファナちゃんのお連れさんなら、お安くしとくわよ!」
宿屋に着き、その受付場で仕事をしていたサルシャへと事情を簡単に説明した。
そして、事情を理解したサルシャはファナの分だけでなくユキの分まで割引にすると言うのだ。ユキは現在フードを被っており、素顔を見せない変質者と捉えられても文句の言えない格好だ。と言うのに、ファナが説明すれば話が通るのだから、ファナへの信頼が見て取れる。
「ん。随分と、信頼されてるんだね?」
「あはは······大したことはしていないのですけどね······」
「まぁたファナちゃんは謙遜して!私達の恩人なのよ?もう少し胸を張りなさいって!」
あくまで自分の能力に劣等感しか覚えられないファナ。その態度に、ユキは少し不機嫌になる。
「ん。ファナ君。自分のした事をあまり悲観しちゃいけない。君は最低限、感謝されることをやったんだ。その事に対し誇りを持ち、自信を持たないと。感謝している側に失礼だよ」
「うっ······は、はい······」
ファナは2年もの苦行により自信がズタズタにされていた。それは簡単に修復できるものではなく、他の誰かが「自信を持て」と言ったとしても、殆ど効果は無かった。尊敬する、命の恩人であるユキの言葉だからこそ、ファナの心に直接響く。
「ん。分かればよろしい。······それと、先に言っておこう。お代はボクが払うから。余計な気遣いは不要だ」
「は、はい······」
『金龍の息吹』の雑用係であった頃は、こういった出費も全てファナが持っていた。そのため、自然な流れで支払おうとしていたのだ。ユキに先止めされ無ければ、確実に払っていたであろう。
ユキはもちろん、ファナの過去なんて知らない。しかし、これまでの短い間だが、ファナの性格は段々と読めてきていた。そこに命の恩人という箔がユキには付いている。行動を読む事くらい訳ないものだ。
見るからに落ち込んでしまったファナ。出来るだけユキに恩返しを、と意気込んでいたから尚更だ。
「あらあら······私もね、ファナちゃんにはもっと自信を持って欲しいと思っていたの。だから、ファナちゃんをよろしくね。えっと······」
「ん。剣士のユキ。適当に呼んで欲しい」
「えぇ!ファナちゃんをよろしくね、ユキちゃん!」
「ん。多少の矯正はするとしよう。謙虚は素晴らしいが、度を超えると嫌味になるからね」
2人は手を取り合って結託の意を示した。
サルシャはファナに娘へ対するような愛情を抱いている。そのファナが、自信も持てないでいる姿には心痛めていた。しかし、自分達が何を言っても慰めにしかならない。そこへやって来たユキというファナを説教出来るような関係者。もはや救世主であった。
こうして秘密裡に結成されていたこの町のとある組織、『"ファナちゃんを如何にして褒めるか"の会』に希望の光が差し込んだのであった。
※ ※ ※
割り振られた部屋に荷物をと思ったが、ユキもファナも手ぶらだ。ユキは収納袋に、ファナは空間に仕舞っているためである。2人はそのまま食堂へ進む事にした。
ユキを席に着けると、ファナは厨房へと向かい、手伝える雑用をテキパキとこなしていく。
じゃがいもの皮剥き、野菜の千切り、食器洗い、など。人が変わったかのようにテキパキテキパキと手を動かす。
それを(目を使わずに)眺めているユキ。サルシャの言う通り、ファナは褒められる力を持っている。千切りしている時の包丁さばきも、並の剣士では理解出来ない速度であった。それらをなんでもない事のようにやってのけ、自分は凄くないと自傷する。
後で絶対にチクチク言ってやろうと、ユキは悪戯地味た笑みを浮かべた。
「ただいま~です~······あ、ファナおねぇちゃん······」
外で遊んでいたエルフィアが昼食のために帰ってきた。厨房でご飯を作るファナを見つけ、そそくさと近づいて行く。何時もなら居ないため、少しファナは支度に忙しく気付いていないようだ。
「ふぅ······」
「おねぇちゃん!たーだいまーっですっ!」
「ひゃぁっ!!?」
ファナが一段落ついた隙を見逃さず、後ろからがっしりと抱きついたのだ。完全な不意打ちとなり、ファナは抜けた声を出す。
「こら!エルフィア!帰ってきたら先ず手を洗いなさい!」
するとサルシャから叱責が飛ぶ。その言葉にファナは些か疑問を抱くも、そこはそれぞれ親子間に決められた約束があるに違いない。料理中の人を驚かせちゃいけませんとか、叱って欲しいなとは思うけれども。
「は~い。手を洗ってきてから抱きつくです」
「そうしてね」
「しちゃダメですよ!?」
親の言うことを素直に聞く、それは素晴らしいことだが、ファナにとっては違う所にも気をつけてほしいと思うばかりだ。特に、男である自分に抱き着く、とか。正直控えるべきことだと思うし、親も注意しておくことであろう。
そのやり取りを聞いていたユキはくすくすと笑う。
「ん。ちょいと、君」
そして、手洗いから帰ってきたエルフィアを呼び止める。
「なんですか?······わぁ、銀色のエルフさんですか?」
ファナへと直行していたエルフィアだが、ユキの呼び掛けに足を止める。そして、ユキの耳が長いことに気がつき、脳内にあるエルフのイメージと比べる。エルフは森の住民。緑色の髪と長い耳が有名だ。金髪や黒髪も中には居るらしい。エルフィアも実際に何度かエルフを見たことがある。そのため、ユキの銀髪が特徴的に映った。
「ん?あぁ、ボクはエルフだよ。エルフのユキ······銀髪は確かに珍しいかもね。今日からこの宿に泊まるんだ。よろしくね」
「はい!フィアはエルフィアと言うです!よろしくお願いしますです!」
元気に頭を下げるエルフィア。その動作にユキはに僅かに笑う。なんだかんだ、子供好きなユキ。特に元気な女の子は好きだった。
「ユキさんは目隠ししているのです?」
「ん?そうだよ。目が使えないからね······それより。ファナ君について聞きたいな」
「ファナおねぇちゃんですか!ファナおねぇちゃんはとっても優しくて、とっっても凄いおねぇちゃんです!」
ファナについて聞かれると、エルフィアは嬉しそうに口を開く。まるで自慢の姉を紹介する妹のように、エルフィアはファナの凄さを両手を使って表した。
その動きを見て、ユキは楽しそうに口元を緩ませる。
「ん。そっかそっか······そう言えば、ファナお姉ちゃん、なの?」
「ふぇ?そうですよ?ファナおねぇちゃんはおにぃちゃんと言い張るおねぇちゃんです!」
「ん······だよねぇ。ボクもさぁ、未だにファナちゃんの方がしっくり来るんだよね」
ユキはそう言いながら、視覚以外の情報を思い出す。この何百年、視覚を無くした生活を送ってきた事で、嗅覚と聴覚、触覚は他の追随を許さないほど精密なものとなっていた。例え鼻の利く獣人にすら、ユキは勝てると思っている。それらが「ファナは女の子」と裏付けているのだ。あの感触から判断される、男性特有の生殖器の有無を除いた情報が、だ。あの時の感触と言っても小さなもので、虚偽の可能性を考えた方が納得出来てしまう。
「ん~。やっぱり、また確認しようかなぁ······」
厨房で作業するファナの方へ意識を向けながら、手をワキワキとさせて呟いたのであった。
その時、ファナが謎の危機感に襲われた事を話していた。
それからお昼ご飯の準備が終わるまで、ユキはエルフィアからファナの自慢話を聞いていた。聞いてみるとファナの人格が分かってくる。
例え自分が困っていようとも。困っている人を見ると助けたくなる。
めっちゃ可愛い。
基本的に奉仕の精神で生きている。
めっちゃ女の子より女の子している。
憧れのお姉ちゃん。
などなど。半分以上が違う話に逸れたものの、これでユキによる事情聴取は済んだ。
子供からの情報はとても重要だ。子供は見たものを多少は派手に言うが、プラスをマイナスに、マイナスをプラスには説明しない。どれ程の尾びれが着いているかは後で探るとして、ファナが雑用係として有能である事は理解出来た。
その上で不思議に思う。
ティルレッサから聞いたファナの雑用係ランクは最低のF。ユキは過去に5人、雑用係を雇用してクビにしている。
内訳はD1人、C1人、B1人、A2人だ。
Dランクの雑用係を雇い始めた頃、ユキはまだBランク冒険者であり、ギルドからは注目されていなかった。大型のモンスターを狩っては来るが、時間の掛る冒険者として見られていたからだ。
それを払拭するべくユキは"道案内役"として雑用係を雇った。雑用係の本分にもそれなりの期待を込めて。
腕前としてはイマイチであった。確かに自分でやるよりかは幾分とマシだ。しかし、あまりご飯も美味しくないし、武器のメンテナンスとかをすると言われて嫌な目に遭うし。極めつけは「見えなくては体を洗うのが不便でしょう」と言って迫ってきたことだ。ウザかったので殴って沈めたけれども。速攻で契約を取り消したけれども。
この時は運がなかったと思った。いわゆる売れ残りの雑用係を雇ってしまったのだ、と。ギルドには女の子をと要求したのだが、他のパーティに雇われて行ったと返された。行動が遅い自分を呪った。
それから4回。Sランク冒険者に至るまでに雑用係を雇用した。······いや、Sランク冒険者になってから2回雇った。
その2回も最悪なものだった。ギルド本部から派遣されたAランク雑用係と言っていたが、とても不愉快極まりない。そもそも実力だってCランクと変わらない程だと思ったし、偉そうな態度だから尚悪い。
まぁそんな事もあり、雑用係へ対する印象は悪かった。
しかしファナはどうだ。エルフィアの口から出る理解不能な偉業の数々。その上であの性格。何より可愛い。
彼──がFランクであるとすれば、この世にEランクは存在しないだろう。そう言わせて欲しい実力を持っている。
故に、ユキはファナへと疑問を抱く。これを拭わねば、ファナを傍に置いておく事は出来なかった。
お昼ご飯の準備が整い、エルフィアは母親の元へと行ってしまった。恐らく戻ってくるであろうが、今はファナと2人きり。周囲にいる客は料理に集中しているので、今聞いてもいいのかもしれない。
が、ユキもユキで料理の匂いに負けてスプーンを動かしていた。
「ん~。ファナちゃ······んのおすすめだけはあるね」
「······諦めて"ちゃん"にしないでください。と言うか、ユキさんは確かめましたよね!?」
スープを1口啜ったユキがその美味に舌鼓を打つ。
ユキの言葉に噛み付くように、ファナが頬を赤らめながら小声で叫ぶ。
そんなファナを無視しながら、ユキはお昼ご飯を胃袋へと収めていく。見えていないだろうに無駄のない動きで食べ進めていき、ファナが半分も食べる前に完食してしまった。
「ん~~。ごちそうさま」
「······あの、食べますか?」
「ん!くれるのかい?貰おーかなぁ」
「はい。僕には少し多いので······」
ファナはどこからとも無く取り出した未使用のフォークを使い、ユキの皿へと料理を移していく。
サルシャの計らいでファナの料理は多くなっているのだ。沢山食べないと大きくなれないよ、と。とてもありがたいのだが、何日も食べないでいたり最小限の食事で済ますことが多かったファナ。人よりも食べる量は少なくなっていたのだ。
何時もは空間に仕舞い、任務中のお昼ご飯にしていたが、今こそがその昼飯時。ならばとユキに譲ったのだ。決してユキが大食らいだと見抜いた訳では無い。ただ、何となくユキが物足りなそうにファナの料理を見ていたからだ。
「ん······まぁ、いいや。それも後で追求するとして、今はご飯!」
先程1人前食べたとは思えない勢いで、次々と料理を口に運ぶ。その様を見るだけでファナはお腹いっぱいになるのであった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる
日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」
冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。
一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。
「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」
そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。
これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。
7/25男性向けHOTランキング1位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる