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レオンハルトに案内されてたどり着いたのは、森と湖に囲まれた、静かな場所に建つ一軒の屋敷だった。
王都の公爵邸の華やかさはないが、石造りのしっかりとした建物で、貴族が暮らすには十分な広さがある。
ただ、長年使われていなかったのか、庭は雑草が生い茂り、建物もあちこちが埃っぽく古びていた。
「ここが…我々の新しい住まいでございますか。少し…いえ、かなり手入れが必要なようでございますね」
侍女のマリアが、眉をひそめてため息をつく。
しかし、カタリーナの反応はまったく逆だった。
「まあ、素敵じゃない!見てちょうだいマリア、あの蔦の絡まった壁!趣があって最高だわ!」
彼女はくるりと一回転して、目を輝かせた。
「それに、あの広い庭!見てよ、日当たりも抜群だわ!家庭菜園にはもってこいじゃない!」
「か、家庭菜園…でございますか…」
「ええ!まずは掃除をして、それから畑を耕して…ああ、忙しくなるわ!楽しみね!」
もはやマリアの常識的な心配など、彼女の耳には届いていない。
カタリーナは早速ドレスの袖をまくり上げると、屋敷の扉を勢いよく開け放った。
「さあ、マリア!まずは大掃除よ!窓という窓を全部開けて、空気を入れ替えましょう!」
「ひっ…!お嬢様、お待ちくださいませ!そのようなことは、我々下々の仕事でございます!公爵令嬢たるお方が、お手を汚すなどとんでもない!」
マリアの悲鳴も虚しく、カタリーナは箒を片手に、蜘蛛の巣だらけのホールへと突入していく。
「いいからいいから!自分の住まいを自分で綺麗にして、何が悪いのよ!」
「そういう問題ではございません…!ああ、公爵様がこのお姿をご覧になったら…!」
結局マリアも、泣き言を言いながらも、主人の後を追って掃除を始めるしかなかった。
二人の奮闘により、埃まみれだった屋敷は、昼過ぎにはようやく人が住める程度の清潔さを取り戻した。
そして翌日の朝。
マリアが目を覚ますと、すでに主人の姿は寝室になかった。
慌てて外へ飛び出すと、信じられない光景が広がっていた。
庭の一角で、カタリーナが楽しそうに鍬を振るっていたのだ。
高価なドレスではなく、汚れてもいいようにと持ってきた簡素なワンピース姿で。
その額には玉の汗が光り、頬は健康的な薔薇色に染まっている。
「お、お嬢様ーっ!一体何をなさっているのでございますかーっ!」
マリアの絶叫が、静かな朝の空気に響き渡った。
「あら、マリア、おはよう!見てちょうだい、ここの土、とても質が良さそうだわ!」
カタリーナは泥だらけの手で、にっこりと笑いかける。
その手には、王都からわざわざ持参した愛用の(?)鍬が握られていた。
「本で読んだ通りにやってみているのだけど、なかなか難しいものね。でも、楽しいわ!」
「楽しい、ではございません!公爵令嬢が畑仕事など…前代未聞でございます!」
「見てなさい、マリア。ここに、わたくしたちの食べる野菜を作るのよ。わたくしだけの、最高の楽園をね!」
彼女は高らかに宣言すると、再び土に向き合った。
その姿は、悪役令嬢とは程遠い、ただの農作業を楽しむ娘そのものだった。
カタリーナが夢中で土を耕していると、森の方から何かの気配がした。
見ると、可愛らしいリスやうさぎ、色とりどりの小鳥たちが、興味深そうに彼女の様子を窺っている。
普通なら人を恐れてすぐに逃げてしまうはずの彼らが、カタリーナの周りには自然と集まってきていた。
「あら、あなたたちもお手伝いに来てくれたの?残念だけど、お給金は出せないわよ?」
カタリーナが優しく話しかけると、動物たちはまるでその言葉を理解したかのように、彼女の足元でくつろぎ始めた。
その日の夕方。
泥だらけになった二人は、屋敷の厨房に立っていた。
王都から持ってきた保存食のパンとチーズ、そして近くの泉で汲んだ水で作った簡単な野菜スープ。
それが、辺境での最初の晩餐だった。
「さあ、食べましょう!働いた後はお腹が空くものね!」
豪華な食事ではない。
しかし、自分たちの手で住まいを整え、土を耕した後の食事は、どんなご馳走よりも美味しく感じられた。
「まあ、なんて美味しいのかしら!人生で一番のご馳走かもしれないわ!」
「お嬢様が幸せそうで、わたくしも何よりでございます…」
マリアは呆れながらも、その顔には優しい笑みが浮かんでいた。
夜、暖炉に赤々と燃える火を眺めながら、カタリーナは深い満足感に包まれていた。
体は心地よい疲労感に満ちている。
しかし、心はこれ以上ないほどに充実していた。
(ああ、なんて素晴らしい一日だったのかしら。これこそが、わたくしの求めていた生活だわ)
悪役令嬢カタリーナの、最高に自由なスローライフは、こうして最高の形で幕を開けたのだった。
王都の公爵邸の華やかさはないが、石造りのしっかりとした建物で、貴族が暮らすには十分な広さがある。
ただ、長年使われていなかったのか、庭は雑草が生い茂り、建物もあちこちが埃っぽく古びていた。
「ここが…我々の新しい住まいでございますか。少し…いえ、かなり手入れが必要なようでございますね」
侍女のマリアが、眉をひそめてため息をつく。
しかし、カタリーナの反応はまったく逆だった。
「まあ、素敵じゃない!見てちょうだいマリア、あの蔦の絡まった壁!趣があって最高だわ!」
彼女はくるりと一回転して、目を輝かせた。
「それに、あの広い庭!見てよ、日当たりも抜群だわ!家庭菜園にはもってこいじゃない!」
「か、家庭菜園…でございますか…」
「ええ!まずは掃除をして、それから畑を耕して…ああ、忙しくなるわ!楽しみね!」
もはやマリアの常識的な心配など、彼女の耳には届いていない。
カタリーナは早速ドレスの袖をまくり上げると、屋敷の扉を勢いよく開け放った。
「さあ、マリア!まずは大掃除よ!窓という窓を全部開けて、空気を入れ替えましょう!」
「ひっ…!お嬢様、お待ちくださいませ!そのようなことは、我々下々の仕事でございます!公爵令嬢たるお方が、お手を汚すなどとんでもない!」
マリアの悲鳴も虚しく、カタリーナは箒を片手に、蜘蛛の巣だらけのホールへと突入していく。
「いいからいいから!自分の住まいを自分で綺麗にして、何が悪いのよ!」
「そういう問題ではございません…!ああ、公爵様がこのお姿をご覧になったら…!」
結局マリアも、泣き言を言いながらも、主人の後を追って掃除を始めるしかなかった。
二人の奮闘により、埃まみれだった屋敷は、昼過ぎにはようやく人が住める程度の清潔さを取り戻した。
そして翌日の朝。
マリアが目を覚ますと、すでに主人の姿は寝室になかった。
慌てて外へ飛び出すと、信じられない光景が広がっていた。
庭の一角で、カタリーナが楽しそうに鍬を振るっていたのだ。
高価なドレスではなく、汚れてもいいようにと持ってきた簡素なワンピース姿で。
その額には玉の汗が光り、頬は健康的な薔薇色に染まっている。
「お、お嬢様ーっ!一体何をなさっているのでございますかーっ!」
マリアの絶叫が、静かな朝の空気に響き渡った。
「あら、マリア、おはよう!見てちょうだい、ここの土、とても質が良さそうだわ!」
カタリーナは泥だらけの手で、にっこりと笑いかける。
その手には、王都からわざわざ持参した愛用の(?)鍬が握られていた。
「本で読んだ通りにやってみているのだけど、なかなか難しいものね。でも、楽しいわ!」
「楽しい、ではございません!公爵令嬢が畑仕事など…前代未聞でございます!」
「見てなさい、マリア。ここに、わたくしたちの食べる野菜を作るのよ。わたくしだけの、最高の楽園をね!」
彼女は高らかに宣言すると、再び土に向き合った。
その姿は、悪役令嬢とは程遠い、ただの農作業を楽しむ娘そのものだった。
カタリーナが夢中で土を耕していると、森の方から何かの気配がした。
見ると、可愛らしいリスやうさぎ、色とりどりの小鳥たちが、興味深そうに彼女の様子を窺っている。
普通なら人を恐れてすぐに逃げてしまうはずの彼らが、カタリーナの周りには自然と集まってきていた。
「あら、あなたたちもお手伝いに来てくれたの?残念だけど、お給金は出せないわよ?」
カタリーナが優しく話しかけると、動物たちはまるでその言葉を理解したかのように、彼女の足元でくつろぎ始めた。
その日の夕方。
泥だらけになった二人は、屋敷の厨房に立っていた。
王都から持ってきた保存食のパンとチーズ、そして近くの泉で汲んだ水で作った簡単な野菜スープ。
それが、辺境での最初の晩餐だった。
「さあ、食べましょう!働いた後はお腹が空くものね!」
豪華な食事ではない。
しかし、自分たちの手で住まいを整え、土を耕した後の食事は、どんなご馳走よりも美味しく感じられた。
「まあ、なんて美味しいのかしら!人生で一番のご馳走かもしれないわ!」
「お嬢様が幸せそうで、わたくしも何よりでございます…」
マリアは呆れながらも、その顔には優しい笑みが浮かんでいた。
夜、暖炉に赤々と燃える火を眺めながら、カタリーナは深い満足感に包まれていた。
体は心地よい疲労感に満ちている。
しかし、心はこれ以上ないほどに充実していた。
(ああ、なんて素晴らしい一日だったのかしら。これこそが、わたくしの求めていた生活だわ)
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