悪役令嬢の、お気楽すぎる辺境ライフ!

夏乃みのり

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王都では、アラン王子が深い疑念の霧の中にいた。
リリアナとの口論の後、彼は彼女の無邪気な仮面の下に、何か得体の知れないものが隠されていることを感じ取っていたのだ。

彼は、腹心の騎士団長であるエリックに極秘の調査を命じた。
リリアナ・アイビーの身辺と、彼女と繋がりを持つ貴族、特にゴーウェル子爵家について、徹底的に洗い出すように、と。

数日後、エリックがアランの執務室に持ち帰った報告は、彼の疑念を、戦慄すべき確信へと変えるのに十分な内容だった。

「殿下。お調べした件にございます」

エリックは、重々しい口調で切り出した。

「まず、リリアナ様の私的な資産の中から、多額の金子が、ゴーウェル子爵家へ秘密裏に流れていることを突き止めました」

「…やはりか」

「さらに、宮殿の衛兵の証言によりますと、リリアナ様は、夜分、幾度となくゴーウェル子爵と密会を重ねていた模様にございます」

エリックは、そこで一度言葉を切り、アランの顔をまっすぐに見据えた。

「そして、これが決定的な証拠となりますが…魔法ギルドの内部情報によりますと、ゴーウェル子爵は、最近になって禁書とされる古代の文献を、違法なルートで入手しております。その文献とは…」

「…魔物の召喚術に関するものか」

アランが、か細い声で尋ねる。

「…御明察の通りにございます、殿下」

全ての線が、繋がった。
辺境で起きている、原因不明の魔物の発生。
その裏で、リリアナからゴーウェル子爵家へと渡る、多額の金。
そして、禁忌の召喚術。

彼女が、黒幕。
アランは、愕然とした。
自分が愛したはずの、か弱く健気な少女。
その仮面の下に隠されていたのは、己の野心のためには、罪のない民の命さえ犠牲にすることを厭わない、悪魔のような心だったのだ。

激しい自己嫌悪が、アランを襲う。
自分は、この女の涙と嘘にまんまと騙され、本当に誠実だった女性を、自らの手で貶め、追いやったのだ。
なんという愚かさ。
なんという、取り返しのつかない過ち。

しかし、後悔に浸っている時間はない。
彼はこの国の王太子。
自分の過ちの責任は、自分で取らねばならない。

「…エリック」

アランの声は、先ほどまでの動揺が嘘のように、冷たく、そして固い決意に満ちていた。

「リリアナを、すぐに捕らえるべきでしょうか」

「いや、まだだ。下手に動けば、トカゲの尻尾切りのように、ゴーウェル子爵一人に罪を被せて逃げるだろう。それに…」

アランは、立ち上がった。

「この件を解決するには、どうしても、会わねばならん人がいる」

「と、申しますと…?」

「辺境へ行くぞ、エリック。急ぎ、最小限の供を揃えろ」

アランの言葉に、エリックは目を見開いた。

「辺境へ!?なぜでございますか!」

「謝罪と、助けを請うためだ」

アランは、苦渋に満ちた表情で言った。

「私は、カタリーナ嬢に、決して許されぬほどの仕打ちをした。まずは、それを詫びねばならん。そして、この国難を乗り切るためには、今、最前線で戦っている彼女の力が必要だ。リリアナのことを、誰よりも知る彼女の知恵が」

それは、アランが、王太子としてのプライドを捨て、一人の男として、自分の罪と向き合うと決めた瞬間だった。

出発の直前、何も知らないリリアナが、甘い声でアランにまとわりついてきた。

「まあ、アラン様。そのようなお急ぎの様子で、どちらへ?」

「国務だ」

アランは、リリアナの顔を一切見ずに、氷のように冷たい声で答えた。

「君には、到底、理解できんだろうがな」

呆然と立ち尽くすリリアナをその場に残し、アランは迷いのない足取りで宮殿を後にした。

夜明け前、王都の北門が、静かに開かれる。
アラン王子と、彼に付き従う数騎の騎士たちが、遥か北の辺境を目指して、闇の中へと駆け出していった。
過去への贖罪と、未来を守るための、長い旅の始まりだった。
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