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「お嬢様。そんなにニヤニヤしながら鏡を見ないでください。獲物を待つ食虫植物にしか見えませんよ」
夜会当日。準備を整える私の背後で、マーサがいつにも増して辛辣な言葉を投げかけてきた。
「失礼ね! これは『勝利を確信した悪女の微笑み』よ! 見て、このドレス。アラルク様の瞳の色に合わせた特注のサファイアブルー。完璧だわ」
鏡に映る私は、我ながら見惚れるほど悪役令嬢として仕上がっていた。
高く結い上げた髪に、鋭い光を放つダイヤモンドの髪飾り。そして、デコルテを大胆に開けたドレスは、清楚さとは無縁の、圧倒的な「強者の美」を体現している。
「婚約破棄された女が、その数日後に第一王子のパートナーとして現れるんです。会場は阿鼻叫喚でしょうね」
「それが目的なのよ。みんなの度肝を抜いて、アラルク様に相応しいのはこの私だって見せつけてやるんだから!」
私は扇子をバチンと開き、気合を入れた。
もちろん、内心では「アラルク様のエスコート! 腕に触れる! 同じ空気を吸う! 死ぬ! 私が死ぬ!」と、全細胞が狂喜乱舞しているのだけれど。
王宮の夜会会場に到着すると、予想通りの光景が待っていた。
馬車から降りた私とアラルク様の姿を見た瞬間、周囲の貴族たちが「ひっ」と短い悲鳴を上げ、波が引くように道が開く。
「……ずいぶんと嫌われたものだな、ルルノ嬢」
アラルク様が、私の腰にそっと手を添えながら耳元で囁いた。
(ぎゃああああ! 腰! 腰に手が! このドレス、腰のラインが強調されるデザインにして大正解だったわ!)
「あら、嫌われるのは悪女の嗜みですわ。殿下こそ、私のような『毒婦』を連れて歩いて、評判に傷がつきませんこと?」
「毒なら、もう飲み干すと決めた。……それに、君を他の男たちの視線に晒しておく方が、よほど俺の機嫌を損ねる」
アラルク様の声は低く、どこか独占的な響きを帯びていた。
会場に入ると、さらに視線は険しさを増す。
「見て、あの図々しさ。セドリック様に捨てられたその足で、今度はアラルク様に縋り付くなんて」
「公爵家の権力を使って無理やりエスコートさせたに違いないわ。なんて浅ましい……」
令嬢たちのヒソヒソ声が聞こえてくる。
私はそれを聞き流し、むしろ鼻で笑ってやった。
(もっと言いなさい! あなたたちの嫉妬は、私にとって最高の香水ですわ!)
しかし、一人の令嬢が勇気(あるいは無謀な正義感)を持って、私たちの前に立ちはだかった。
「アラルク殿下! お目を覚ましてくださいませ! そのような、弟君を裏切り、悪評の絶えない女を隣に置くなど、王家の名汚しにございます!」
彼女は、セドリック様を慕っていた子爵令嬢の一人だった。
アラルク様は、冷ややかな視線を彼女に向けた。その瞳は、まさに「氷の王子」そのものだ。
「……名汚し、か。君は、俺の選美眼が、その程度の陰口で揺らぐほど安いものだと思っているのか?」
「そ、それは……! ですが、この女はマリアンヌ様をいじめ抜き、セドリック様を苦しめた極悪人ですわ!」
「いじめた? ふん、あれをいじめと呼ぶのは、ルルノの知性に対する侮辱だな」
アラルク様は、私の腰を引き寄せ、さらに密着させた。
彼の体温がドレス越しに伝わり、私の頭は沸騰しそうになる。
「いいか、よく聞け。ルルノ・エルバートは、俺が認めた女だ。彼女を侮辱することは、俺の判断を否定することと同義。……明日までに、実家の領地へ帰る準備をしておくことだな」
「え……? で、殿下……!?」
令嬢は顔を真っ青にして崩れ落ちた。
アラルク様は彼女を無視し、私を見つめて不敵に微笑んだ。
「……さて。邪魔者は消えた。ルルノ、君は俺の隣で、誰よりも高慢に笑っていればいい。……他の誰にも、君のその顔を触れさせはしない」
(……ひ、ひいいいいい! 独占欲! 特大の独占欲がきたわぁぁーー!!)
私は幸せすぎて、今すぐこの場で泡になって消えてしまいそうだったが、そこはプロの悪役令嬢。
私は彼の胸に指先を添え、挑発的に微笑み返した。
「……ふふ、独占されるのは嫌いではありませんわ。ですがアラルク様、私の心はそう簡単に捕まえられませんことよ?」
「ほう。なら、一生かけて檻に入れてやるまでだ」
アラルク様の瞳の奥に、本物の「獣」のような熱が宿ったのを、私は見た。
夜会はまだ始まったばかり。
けれど、私の心はすでに、アラルク様という名の完璧な檻の中に、自ら進んで飛び込んでいた。
夜会当日。準備を整える私の背後で、マーサがいつにも増して辛辣な言葉を投げかけてきた。
「失礼ね! これは『勝利を確信した悪女の微笑み』よ! 見て、このドレス。アラルク様の瞳の色に合わせた特注のサファイアブルー。完璧だわ」
鏡に映る私は、我ながら見惚れるほど悪役令嬢として仕上がっていた。
高く結い上げた髪に、鋭い光を放つダイヤモンドの髪飾り。そして、デコルテを大胆に開けたドレスは、清楚さとは無縁の、圧倒的な「強者の美」を体現している。
「婚約破棄された女が、その数日後に第一王子のパートナーとして現れるんです。会場は阿鼻叫喚でしょうね」
「それが目的なのよ。みんなの度肝を抜いて、アラルク様に相応しいのはこの私だって見せつけてやるんだから!」
私は扇子をバチンと開き、気合を入れた。
もちろん、内心では「アラルク様のエスコート! 腕に触れる! 同じ空気を吸う! 死ぬ! 私が死ぬ!」と、全細胞が狂喜乱舞しているのだけれど。
王宮の夜会会場に到着すると、予想通りの光景が待っていた。
馬車から降りた私とアラルク様の姿を見た瞬間、周囲の貴族たちが「ひっ」と短い悲鳴を上げ、波が引くように道が開く。
「……ずいぶんと嫌われたものだな、ルルノ嬢」
アラルク様が、私の腰にそっと手を添えながら耳元で囁いた。
(ぎゃああああ! 腰! 腰に手が! このドレス、腰のラインが強調されるデザインにして大正解だったわ!)
「あら、嫌われるのは悪女の嗜みですわ。殿下こそ、私のような『毒婦』を連れて歩いて、評判に傷がつきませんこと?」
「毒なら、もう飲み干すと決めた。……それに、君を他の男たちの視線に晒しておく方が、よほど俺の機嫌を損ねる」
アラルク様の声は低く、どこか独占的な響きを帯びていた。
会場に入ると、さらに視線は険しさを増す。
「見て、あの図々しさ。セドリック様に捨てられたその足で、今度はアラルク様に縋り付くなんて」
「公爵家の権力を使って無理やりエスコートさせたに違いないわ。なんて浅ましい……」
令嬢たちのヒソヒソ声が聞こえてくる。
私はそれを聞き流し、むしろ鼻で笑ってやった。
(もっと言いなさい! あなたたちの嫉妬は、私にとって最高の香水ですわ!)
しかし、一人の令嬢が勇気(あるいは無謀な正義感)を持って、私たちの前に立ちはだかった。
「アラルク殿下! お目を覚ましてくださいませ! そのような、弟君を裏切り、悪評の絶えない女を隣に置くなど、王家の名汚しにございます!」
彼女は、セドリック様を慕っていた子爵令嬢の一人だった。
アラルク様は、冷ややかな視線を彼女に向けた。その瞳は、まさに「氷の王子」そのものだ。
「……名汚し、か。君は、俺の選美眼が、その程度の陰口で揺らぐほど安いものだと思っているのか?」
「そ、それは……! ですが、この女はマリアンヌ様をいじめ抜き、セドリック様を苦しめた極悪人ですわ!」
「いじめた? ふん、あれをいじめと呼ぶのは、ルルノの知性に対する侮辱だな」
アラルク様は、私の腰を引き寄せ、さらに密着させた。
彼の体温がドレス越しに伝わり、私の頭は沸騰しそうになる。
「いいか、よく聞け。ルルノ・エルバートは、俺が認めた女だ。彼女を侮辱することは、俺の判断を否定することと同義。……明日までに、実家の領地へ帰る準備をしておくことだな」
「え……? で、殿下……!?」
令嬢は顔を真っ青にして崩れ落ちた。
アラルク様は彼女を無視し、私を見つめて不敵に微笑んだ。
「……さて。邪魔者は消えた。ルルノ、君は俺の隣で、誰よりも高慢に笑っていればいい。……他の誰にも、君のその顔を触れさせはしない」
(……ひ、ひいいいいい! 独占欲! 特大の独占欲がきたわぁぁーー!!)
私は幸せすぎて、今すぐこの場で泡になって消えてしまいそうだったが、そこはプロの悪役令嬢。
私は彼の胸に指先を添え、挑発的に微笑み返した。
「……ふふ、独占されるのは嫌いではありませんわ。ですがアラルク様、私の心はそう簡単に捕まえられませんことよ?」
「ほう。なら、一生かけて檻に入れてやるまでだ」
アラルク様の瞳の奥に、本物の「獣」のような熱が宿ったのを、私は見た。
夜会はまだ始まったばかり。
けれど、私の心はすでに、アラルク様という名の完璧な檻の中に、自ら進んで飛び込んでいた。
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