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「……殿下。取り調べと仰いましたから、てっきり地下の薄暗い尋問室に連行されるものと思っておりましたわ」
私は、目の前に並べられた色鮮やかなフルーツタルトを凝視しながら呟いた。
ここは王都で今最も予約が取れないと言われる、超高級カフェのテラス席だ。
周囲には色とりどりの花が咲き誇り、心地よい風が私の髪を撫でていく。
「ほう。地下室が良かったか? 希望するなら今からでも手配させるが」
向かい側に座るアラルク様が、優雅に珈琲を啜りながら私を見た。
今日の殿下は、公務用の軍服ではなく、上質な私服姿だ。
飾り気のない白いシャツに、深い緑のベスト。そのラフな格好が、かえって彼の暴力的なまでの美貌を引き立てている。
(……ぎゃああああ! 私服アラルク様! 心臓に悪い! このタルトより殿下の方がよっぽど美味しそう……じゃなくて、尊いわ!)
「いいえ。……甘いものに毒を盛って、口を割らせる作戦ですわね? 流石はアラルク様、恐ろしいお方だわ」
私は震える手でフォークを握り、タルトを一口運んだ。
甘酸っぱいベリーの風味が口いっぱいに広がる。
「毒ではない。……単なる、状況証拠の整理だ。ルルノ、君はセドリックとの婚約期間中、一度も彼とこうした場所に来なかったそうだな」
「ええ。あの方は『甘いものは筋肉に毒だ』と仰って、デートの誘いと言えば決まって騎士団の訓練場か、あるいはプロテインの試飲会でしたもの」
「プロテインの試飲会……。弟ながら、救いようのない馬鹿だな」
アラルク様は呆れたように吐き捨てた。
「君のような贅沢を好む女が、よくそんな男に数年も耐えられたものだ。……本当の目的がなければ、一週間も持たなかっただろう?」
アラルク様の鋭い視線が、私の仮面を剥ぎ取ろうとする。
私はわざとらしく、タルトのクリームを指先で拭って、それをペロリと舐めた。
「あら。目的……そうですわね。私は、彼が王位を継いだ暁に、国中の宝石を買い占める夢を見ておりましたのよ。……でも、アラルク様の方がもっと多くの財宝を持っていそうだと気づいてしまったのですわ」
「宝石、か。……嘘をつく時の君の目は、いつもより少しだけ輝きが増すな」
アラルク様は不意に手を伸ばし、私の頬に触れた。
指先の熱が伝わり、私の思考が真っ白に染まる。
「君が本当に欲しがっているのは、金で買えるような石ころではないだろう。……違うか?」
「……っ、そ、それは……」
「君が俺を見つめる時、そこには所有欲以外の何かが混じっている。……まるで、神を拝む信者のような、気味の悪いほどの熱狂だ」
(……バレてる! 完全にオタクの執念が見抜かれてるわ!)
「気味の悪いだなんて、失礼ですわ! 私はただ、美しいものを愛でるのが趣味なだけですの!」
「ほう。なら、俺の顔を一日中眺めていても飽きないということか?」
「当たり前……じゃなくて、そんなわけございませんわ! 三日くらいで飽きますわよ!」
「三日は持つのか」
アラルク様は楽しそうに目を細めた。
彼はそのまま、私の手首を掴んで自分の方へと引き寄せた。
「いいか、ルルノ。この『取り調べ』はまだ終わらない。……次は、あちらの宝飾店へ行くぞ」
「……え。宝石を買い与えて、私を懐柔するおつもりですか?」
「いや。……君に似合う『檻』の色を選ぶためだ」
(……檻! またパワーワードが飛び出したわ! 金ぴかの檻かしら、それともシックな銀色かしら!?)
「楽しみにしておりますわ、アラルク様。……私を閉じ込めるなら、最高級の宝石で飾ってくださいませね」
「ふ。……高くつく女だ」
アラルク様は立ち上がり、私の手を取ってエスコートした。
周囲の街の人々が、あまりに絵になる二人の姿に足を止めて見入っている。
悪役令嬢と、氷の王子。
誰もが「政略的な繋がり」だと噂するだろう。
けれど、繋がれた手のひらから伝わるこの熱さだけは、どんな芝居よりも真実に近い気がした。
(……もう、一生この『取り調べ』が続けばいいのに!)
私は内心でそう叫びながら、殿下の隣を誇らしげに歩いた。
私は、目の前に並べられた色鮮やかなフルーツタルトを凝視しながら呟いた。
ここは王都で今最も予約が取れないと言われる、超高級カフェのテラス席だ。
周囲には色とりどりの花が咲き誇り、心地よい風が私の髪を撫でていく。
「ほう。地下室が良かったか? 希望するなら今からでも手配させるが」
向かい側に座るアラルク様が、優雅に珈琲を啜りながら私を見た。
今日の殿下は、公務用の軍服ではなく、上質な私服姿だ。
飾り気のない白いシャツに、深い緑のベスト。そのラフな格好が、かえって彼の暴力的なまでの美貌を引き立てている。
(……ぎゃああああ! 私服アラルク様! 心臓に悪い! このタルトより殿下の方がよっぽど美味しそう……じゃなくて、尊いわ!)
「いいえ。……甘いものに毒を盛って、口を割らせる作戦ですわね? 流石はアラルク様、恐ろしいお方だわ」
私は震える手でフォークを握り、タルトを一口運んだ。
甘酸っぱいベリーの風味が口いっぱいに広がる。
「毒ではない。……単なる、状況証拠の整理だ。ルルノ、君はセドリックとの婚約期間中、一度も彼とこうした場所に来なかったそうだな」
「ええ。あの方は『甘いものは筋肉に毒だ』と仰って、デートの誘いと言えば決まって騎士団の訓練場か、あるいはプロテインの試飲会でしたもの」
「プロテインの試飲会……。弟ながら、救いようのない馬鹿だな」
アラルク様は呆れたように吐き捨てた。
「君のような贅沢を好む女が、よくそんな男に数年も耐えられたものだ。……本当の目的がなければ、一週間も持たなかっただろう?」
アラルク様の鋭い視線が、私の仮面を剥ぎ取ろうとする。
私はわざとらしく、タルトのクリームを指先で拭って、それをペロリと舐めた。
「あら。目的……そうですわね。私は、彼が王位を継いだ暁に、国中の宝石を買い占める夢を見ておりましたのよ。……でも、アラルク様の方がもっと多くの財宝を持っていそうだと気づいてしまったのですわ」
「宝石、か。……嘘をつく時の君の目は、いつもより少しだけ輝きが増すな」
アラルク様は不意に手を伸ばし、私の頬に触れた。
指先の熱が伝わり、私の思考が真っ白に染まる。
「君が本当に欲しがっているのは、金で買えるような石ころではないだろう。……違うか?」
「……っ、そ、それは……」
「君が俺を見つめる時、そこには所有欲以外の何かが混じっている。……まるで、神を拝む信者のような、気味の悪いほどの熱狂だ」
(……バレてる! 完全にオタクの執念が見抜かれてるわ!)
「気味の悪いだなんて、失礼ですわ! 私はただ、美しいものを愛でるのが趣味なだけですの!」
「ほう。なら、俺の顔を一日中眺めていても飽きないということか?」
「当たり前……じゃなくて、そんなわけございませんわ! 三日くらいで飽きますわよ!」
「三日は持つのか」
アラルク様は楽しそうに目を細めた。
彼はそのまま、私の手首を掴んで自分の方へと引き寄せた。
「いいか、ルルノ。この『取り調べ』はまだ終わらない。……次は、あちらの宝飾店へ行くぞ」
「……え。宝石を買い与えて、私を懐柔するおつもりですか?」
「いや。……君に似合う『檻』の色を選ぶためだ」
(……檻! またパワーワードが飛び出したわ! 金ぴかの檻かしら、それともシックな銀色かしら!?)
「楽しみにしておりますわ、アラルク様。……私を閉じ込めるなら、最高級の宝石で飾ってくださいませね」
「ふ。……高くつく女だ」
アラルク様は立ち上がり、私の手を取ってエスコートした。
周囲の街の人々が、あまりに絵になる二人の姿に足を止めて見入っている。
悪役令嬢と、氷の王子。
誰もが「政略的な繋がり」だと噂するだろう。
けれど、繋がれた手のひらから伝わるこの熱さだけは、どんな芝居よりも真実に近い気がした。
(……もう、一生この『取り調べ』が続けばいいのに!)
私は内心でそう叫びながら、殿下の隣を誇らしげに歩いた。
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