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「……ルルノ様。本気でその格好で行かれるのですか?」
鏡の前で最終チェックをする私に、マーサが引き攣った笑顔で問いかけてきた。
今日の私は、王妃様公認の『魔除け』初仕事。
王宮主催のバラ園お茶会だ。並み居る令嬢たちが「清楚」や「可憐」を競い合う中、私はあえて、毒々しいまでに鮮やかな紫のドレスに、扇情的な黒いレースをあしらった装いを選んだ。
「当たり前でしょう? 今日の私の役割は『近寄ったら大火傷する猛毒のバラ』よ。……見て、この扇子。特注で骨の部分にトゲを仕込んであるの」
「……それ、もはや武器ですよ。お嬢様、逮捕されない程度にしてくださいね」
「大丈夫よ。王妃様から『不敬な羽虫は叩き潰していい』って許可をいただいているもの!」
私は不敵な笑みを浮かべ、会場へと乗り込んだ。
バラが咲き乱れる庭園。その中心に、ひときわ輝く美貌を惜しげもなく晒しているアラルク様の姿があった。
彼の周囲には、すでに虎視眈々と『婚約者の座』を狙う令嬢たちが、幾重にも重なる壁を作っている。
(……ふん、甘いわね。そんなゆるふわな微笑みで、アラルク様の氷の心臓が動くとでも思っているのかしら?)
「アラルク殿下ぁ、このバラ、とっても素敵ですわね」
「あら、こちらの品種は殿下の瞳の色によく似ていて……」
令嬢たちの甘ったるい声が聞こえてくる。
アラルク様はといえば、冷ややかな顔で紅茶を口に運んでいる。その瞳には「あー、帰って書類仕事したい」という本音が透けて見えていた。
「――あら、皆様。殿下のお側で随分と楽しそうですわね?」
私は扇子をバチンと閉じ、あえてヒールの音を響かせて彼女たちの輪に割り込んだ。
一瞬で周囲が静まり返る。
「……ル、ルルノ・エルバート! 貴女、まだ王宮に出入りしていたの!?」
一人の令嬢が、あからさまな嫌悪感を露わにして私を睨んだ。
「ええ、王妃様から直々のご指名で、殿下の『身辺整理』を仰せつかりましたの。……そこの貴女、香水がキツすぎますわ。殿下の鼻が曲がったらどう責任を取るおつもり?」
「な、何ですって……!?」
「それからそちらの貴女。先ほどから殿下の腕に触れようとしていますけれど、その図々しさはどこの領土で培ったのかしら? 不敬罪で極刑に処されても文句は言えませんわよ?」
私は悪役令嬢特有の、高笑いを混ぜながら言葉のナイフを投げつけた。
令嬢たちが顔を真っ白にして後退する。
「な、なんて恐ろしい……! やっぱりこの女、セドリック様に捨てられて理性を失ったんだわ!」
「おーっほっほっほ! 理性? そんなもの、アラルク様の美貌の前では塵に等しいわ! さあ、殿下のティータイムの邪魔をする羽虫は、この私が一匹残らず排除して差し上げますわ!」
私はアラルク様の隣に堂々と腰を下ろすと、彼が持っていたカップを奪い取り、自分で一口飲んだ。
(……きゃっ! 間接キス! 王妃様、こんな役職を与えてくださって本当に感謝しかありませんわ!)
「……ルルノ。やりすぎだ」
アラルク様が、耳元で低く呟く。
けれど、その口元はわずかに緩んでいた。
「あら、王妃様との契約ですから。……それとも殿下、あの方たちとバラのお話でも続けますか?」
「……いいや。君の毒舌を聞いている方が、よほど退屈しのぎになる」
アラルク様は私の腰を引き寄せ、周囲の令嬢たちを威圧するように冷たい視線を送った。
「聞いた通りだ。俺の隣は、この『悪女』が独占することになっている。……命が惜しい者は、早々に立ち去れ」
殿下の一言で、令嬢たちは悲鳴を上げて四散していった。
静かになったテーブルで、私はアラルク様に満足げな笑みを向けた。
「任務完了ですわ、アラルク様」
「ふん。……盾というより、もはや暴君だな。……だが、嫌いではないぞ、その傲慢さ」
アラルク様は私の指先をとり、トゲを仕込んだ扇子を優しく取り上げた。
「……次は、俺が君を『取り締まる』番だな」
(……ひ、ひいいいいい! ご褒美タイムきたわぁぁーー!!)
私は内心で絶叫しながらも、優雅に紅茶のおかわりを要求するのだった。
鏡の前で最終チェックをする私に、マーサが引き攣った笑顔で問いかけてきた。
今日の私は、王妃様公認の『魔除け』初仕事。
王宮主催のバラ園お茶会だ。並み居る令嬢たちが「清楚」や「可憐」を競い合う中、私はあえて、毒々しいまでに鮮やかな紫のドレスに、扇情的な黒いレースをあしらった装いを選んだ。
「当たり前でしょう? 今日の私の役割は『近寄ったら大火傷する猛毒のバラ』よ。……見て、この扇子。特注で骨の部分にトゲを仕込んであるの」
「……それ、もはや武器ですよ。お嬢様、逮捕されない程度にしてくださいね」
「大丈夫よ。王妃様から『不敬な羽虫は叩き潰していい』って許可をいただいているもの!」
私は不敵な笑みを浮かべ、会場へと乗り込んだ。
バラが咲き乱れる庭園。その中心に、ひときわ輝く美貌を惜しげもなく晒しているアラルク様の姿があった。
彼の周囲には、すでに虎視眈々と『婚約者の座』を狙う令嬢たちが、幾重にも重なる壁を作っている。
(……ふん、甘いわね。そんなゆるふわな微笑みで、アラルク様の氷の心臓が動くとでも思っているのかしら?)
「アラルク殿下ぁ、このバラ、とっても素敵ですわね」
「あら、こちらの品種は殿下の瞳の色によく似ていて……」
令嬢たちの甘ったるい声が聞こえてくる。
アラルク様はといえば、冷ややかな顔で紅茶を口に運んでいる。その瞳には「あー、帰って書類仕事したい」という本音が透けて見えていた。
「――あら、皆様。殿下のお側で随分と楽しそうですわね?」
私は扇子をバチンと閉じ、あえてヒールの音を響かせて彼女たちの輪に割り込んだ。
一瞬で周囲が静まり返る。
「……ル、ルルノ・エルバート! 貴女、まだ王宮に出入りしていたの!?」
一人の令嬢が、あからさまな嫌悪感を露わにして私を睨んだ。
「ええ、王妃様から直々のご指名で、殿下の『身辺整理』を仰せつかりましたの。……そこの貴女、香水がキツすぎますわ。殿下の鼻が曲がったらどう責任を取るおつもり?」
「な、何ですって……!?」
「それからそちらの貴女。先ほどから殿下の腕に触れようとしていますけれど、その図々しさはどこの領土で培ったのかしら? 不敬罪で極刑に処されても文句は言えませんわよ?」
私は悪役令嬢特有の、高笑いを混ぜながら言葉のナイフを投げつけた。
令嬢たちが顔を真っ白にして後退する。
「な、なんて恐ろしい……! やっぱりこの女、セドリック様に捨てられて理性を失ったんだわ!」
「おーっほっほっほ! 理性? そんなもの、アラルク様の美貌の前では塵に等しいわ! さあ、殿下のティータイムの邪魔をする羽虫は、この私が一匹残らず排除して差し上げますわ!」
私はアラルク様の隣に堂々と腰を下ろすと、彼が持っていたカップを奪い取り、自分で一口飲んだ。
(……きゃっ! 間接キス! 王妃様、こんな役職を与えてくださって本当に感謝しかありませんわ!)
「……ルルノ。やりすぎだ」
アラルク様が、耳元で低く呟く。
けれど、その口元はわずかに緩んでいた。
「あら、王妃様との契約ですから。……それとも殿下、あの方たちとバラのお話でも続けますか?」
「……いいや。君の毒舌を聞いている方が、よほど退屈しのぎになる」
アラルク様は私の腰を引き寄せ、周囲の令嬢たちを威圧するように冷たい視線を送った。
「聞いた通りだ。俺の隣は、この『悪女』が独占することになっている。……命が惜しい者は、早々に立ち去れ」
殿下の一言で、令嬢たちは悲鳴を上げて四散していった。
静かになったテーブルで、私はアラルク様に満足げな笑みを向けた。
「任務完了ですわ、アラルク様」
「ふん。……盾というより、もはや暴君だな。……だが、嫌いではないぞ、その傲慢さ」
アラルク様は私の指先をとり、トゲを仕込んだ扇子を優しく取り上げた。
「……次は、俺が君を『取り締まる』番だな」
(……ひ、ひいいいいい! ご褒美タイムきたわぁぁーー!!)
私は内心で絶叫しながらも、優雅に紅茶のおかわりを要求するのだった。
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