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「……ル、ルルノ様。見てください。セドリック様が、あんなに……あんなに必死に机に向かっていらっしゃいます!」
王宮の一角にある東屋。マリアンヌちゃんが、感動で瞳を潤ませながら指を差した。
その先では、我が元婚約者、セドリック様が眉間に深い皺を寄せ、歴史の教科書と格闘している。
傍らには、いつもの丸太ではなく、大量の参考書が積み上げられていた。
「あら。筋肉以外の細胞がようやく活性化し始めたのかしら。……でもセドリック様、その本、上下が逆さまですわよ?」
私が指摘すると、セドリック様はガバッと顔を上げた。
「あ、ああ……! ルルノ、いや、義姉上(あねうえ)! 逆さまでも内容を脳内に叩き込むのが、僕の新しい修行スタイルなんだ!」
「……強がらなくてよろしいですわ。普通に読みなさいな」
私は呆れ果ててため息をついた。
例の『最後の悪役演技』以来、セドリック様は見違えるほど……というか、極端な方向に更生していた。
彼はマリアンヌちゃんを「唯一無二の女神」と崇め、彼女にふさわしい知的(?)な王子になるべく、猛勉強を開始したのだ。
「マリアンヌ、見ていてくれ。僕は君を悲しませるような無知な男にはもうならない。……この国の歴史をすべて暗記して、君への愛のポエムを歴史的語彙で埋め尽くしてみせる!」
「セドリック様! ポエムは普通の内容で十分ですけれど、そのお気持ちが嬉しいですわ!」
二人の周りには、もはや私やアラルク様が入る余地のない、独特なピンク色の空気が漂っている。
(……まあ、あれはあれで幸せそうね。マリアンヌちゃんも、意外とあの直球すぎる愛を楽しんでいるみたいだし)
「――ふん。暑苦しいのは相変わらずだな、あの弟は」
背後から、ひんやりとした、けれど心地よい声が響いた。
アラルク様が、私の肩を抱くようにして隣に立つ。
「あら、殿下。セドリック様が勉強している姿、奇跡の一枚として画家に描かせるべきだと思いませんか?」
「それよりも、あのアホンダラがマリアンヌ嬢を『女神』と呼ぶたびに、周囲の文官たちが頭を抱えているのをどうにかしろ。……公文書にまでハートマークを書き込もうとしたらしいぞ」
「それは……確かに再教育が必要そうですわね」
私はアラルク様の腕の中で、クスクスと笑った。
かつて、私を「悪女」と呼び、冷酷に婚約破棄を突きつけたセドリック様。
けれど今、彼は自分の過ちを認め、新しい愛の形を見つけた。
そして私は、そのおまけのような婚約破棄のおかげで、魂から愛する「推し」の隣を手に入れた。
「アラルク様。……私、今が人生で一番幸せですわ」
「……まだ早い。俺との生活はこれからが本番だ。君を飽きさせる暇など、一秒たりとも与えないつもりだからな」
アラルク様は私の顎をクイと持ち上げ、周囲の目を気にすることなく、その唇を寄せてきた。
(ぎゃああああ! セドリック様たちの前で! でも、これがアラルク様なりの『勝利宣言』なのね!)
「……ん。……大好きですわ、アラルク様」
「……俺もだ、ルルノ。……君という最高の毒に、俺は一生酔いしれることにしよう」
遠くでセドリック様が「兄上! その角度の接吻は参考になります!」と叫んでいるのが聞こえたが、今の私たちには届かない。
「悪役令嬢」と「氷の王子」。そして「更生中の筋肉王子」と「健気な(?)男爵令嬢」。
四人の奇妙な四角関係は、これ以上ないほど甘く、そして騒がしい大団円へと向かっていた。
……そう、あとは私たちの「成婚」という最後の手続きを残すのみ。
私の心は、すでに未来の王妃としての野望(と、アラルク様との甘い生活)で満ち溢れていた。
王宮の一角にある東屋。マリアンヌちゃんが、感動で瞳を潤ませながら指を差した。
その先では、我が元婚約者、セドリック様が眉間に深い皺を寄せ、歴史の教科書と格闘している。
傍らには、いつもの丸太ではなく、大量の参考書が積み上げられていた。
「あら。筋肉以外の細胞がようやく活性化し始めたのかしら。……でもセドリック様、その本、上下が逆さまですわよ?」
私が指摘すると、セドリック様はガバッと顔を上げた。
「あ、ああ……! ルルノ、いや、義姉上(あねうえ)! 逆さまでも内容を脳内に叩き込むのが、僕の新しい修行スタイルなんだ!」
「……強がらなくてよろしいですわ。普通に読みなさいな」
私は呆れ果ててため息をついた。
例の『最後の悪役演技』以来、セドリック様は見違えるほど……というか、極端な方向に更生していた。
彼はマリアンヌちゃんを「唯一無二の女神」と崇め、彼女にふさわしい知的(?)な王子になるべく、猛勉強を開始したのだ。
「マリアンヌ、見ていてくれ。僕は君を悲しませるような無知な男にはもうならない。……この国の歴史をすべて暗記して、君への愛のポエムを歴史的語彙で埋め尽くしてみせる!」
「セドリック様! ポエムは普通の内容で十分ですけれど、そのお気持ちが嬉しいですわ!」
二人の周りには、もはや私やアラルク様が入る余地のない、独特なピンク色の空気が漂っている。
(……まあ、あれはあれで幸せそうね。マリアンヌちゃんも、意外とあの直球すぎる愛を楽しんでいるみたいだし)
「――ふん。暑苦しいのは相変わらずだな、あの弟は」
背後から、ひんやりとした、けれど心地よい声が響いた。
アラルク様が、私の肩を抱くようにして隣に立つ。
「あら、殿下。セドリック様が勉強している姿、奇跡の一枚として画家に描かせるべきだと思いませんか?」
「それよりも、あのアホンダラがマリアンヌ嬢を『女神』と呼ぶたびに、周囲の文官たちが頭を抱えているのをどうにかしろ。……公文書にまでハートマークを書き込もうとしたらしいぞ」
「それは……確かに再教育が必要そうですわね」
私はアラルク様の腕の中で、クスクスと笑った。
かつて、私を「悪女」と呼び、冷酷に婚約破棄を突きつけたセドリック様。
けれど今、彼は自分の過ちを認め、新しい愛の形を見つけた。
そして私は、そのおまけのような婚約破棄のおかげで、魂から愛する「推し」の隣を手に入れた。
「アラルク様。……私、今が人生で一番幸せですわ」
「……まだ早い。俺との生活はこれからが本番だ。君を飽きさせる暇など、一秒たりとも与えないつもりだからな」
アラルク様は私の顎をクイと持ち上げ、周囲の目を気にすることなく、その唇を寄せてきた。
(ぎゃああああ! セドリック様たちの前で! でも、これがアラルク様なりの『勝利宣言』なのね!)
「……ん。……大好きですわ、アラルク様」
「……俺もだ、ルルノ。……君という最高の毒に、俺は一生酔いしれることにしよう」
遠くでセドリック様が「兄上! その角度の接吻は参考になります!」と叫んでいるのが聞こえたが、今の私たちには届かない。
「悪役令嬢」と「氷の王子」。そして「更生中の筋肉王子」と「健気な(?)男爵令嬢」。
四人の奇妙な四角関係は、これ以上ないほど甘く、そして騒がしい大団円へと向かっていた。
……そう、あとは私たちの「成婚」という最後の手続きを残すのみ。
私の心は、すでに未来の王妃としての野望(と、アラルク様との甘い生活)で満ち溢れていた。
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