婚約破棄された瞬間、不人気の呪いが解けてモテモテに!?

夏乃みのり

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「……ねえ、ジェラルド」

「なんだ! 愛の言葉か!」

「違います。……なんでウエディングケーキが発光しているの?」

結婚式当日。

王都の大聖堂で行われている披露宴で、私は頭を抱えていた。

目の前にあるのは、高さ5メートルはある巨大なウエディングケーキ。

ここまではいい。

問題なのは、そのケーキが七色に点滅し、時折「ブォン……」と低い駆動音を立てていることだ。

「ああ、それはサイラスからの祝いだそうだ。『味覚と視覚の限界に挑んだ魔導ケーキ』らしいぞ」

「爆発しませんか?」

「安心しろ! 私が切る瞬間に防御結界を張る!」

「ケーキ入刀に結界が必要な時点で異常です」

私は純白のドレス(ジェラルド好みの動きやすいデザインだが、レースは豪華)の裾を直しながら、ため息をついた。

私の隣には、正装のジェラルド。

白のタキシードが筋肉でパンパンに張り裂けそうだが、満面の笑みは太陽のように眩しい。

「しかしリーフィー! 今日の君は、この世の何よりも美しいぞ! 直視すると網膜が焼かれそうだ!」

「大袈裟です。……貴方も、まあまあ素敵ですよ」

「まあまあか! もっと鍛えねば!」

私たちの周りには、国中の貴族たちが集まっていた。

かつて私を「悪役令嬢」と遠巻きにしていた彼らも、今では「英雄の妻」「国を救った聖女(?)」として、祝福の拍手を送ってくれている。

「おめでとう、リーフィー嬢。……悔しいですが、お似合いですよ」

シャンパングラスを片手に近づいてきたのは、サイラスだ。

「ありがとうございます、サイラス様。……ケーキの件は後で説教です」

「おや、バレましたか。中身は媚薬入りのクリームなんですが」

「廃棄処分です!」

「ガハハ! めでたいな! 俺からの祝儀は受け取ったか?」

続いて現れたのは、レオナルド殿下。

「受け取りましたよ。……虎の赤ちゃんを二匹」

「おう! 夫婦で育てろ! 強くなるぞ!」

「猫じゃあるまいし……。でも、可愛かったです」

かつてのライバルたちが、今は友として笑い合っている。

これほど幸せな光景はないだろう。

「うっ、ううっ……! リーフィー……!」

「お父様、泣きすぎです」

「だってぇ! あんな小さかったリーフィーが……! 筋肉嫁に……!」

「誰が筋肉嫁だ!」

父はハンカチを絞れるほど泣いている。

「さて、新郎新婦! ケーキ入刀だ!」

司会者の声が響く。

ジェラルドが、ケーキナイフ……ではなく、愛用の大剣を構えた。

「行くぞリーフィー! 二人の愛の力で、この魔導ケーキを断ち切る!」

「普通に切ってください!」

「せーのっ! チェストォォォォ!!」

「掛け声がおかしい!」

ドガァァァン!!

ジェラルドが大剣を振り下ろすと、ケーキが閃光と共に爆散した。

舞い散るクリーム、飛び交うスポンジ、悲鳴を上げる列席者たち。

「あーあ」

「やっちゃいましたね」

「派手でいいじゃねえか!」

サイラスとレオナルドが笑っている。

私はクリームまみれになりながら、隣の夫を見た。

彼は顔中クリームだらけにして、それでもニカッと笑っていた。

「見たかリーフィー! 見事な両断だ!」

「……ええ、最悪ですわ」

私は指についたクリームを舐めた。

「……でも、味は悪くないかも」

「そうか! なら良し!」

ジェラルドが私を抱き寄せ、クリームのついた頬にキスをした。

「キャーッ!」

「熱いねぇ!」

会場が冷やかしの声に包まれる。

「……バカ」

私は顔を赤くして、彼の胸に顔を埋めた。

これから始まる新婚生活。

きっと、毎日がこんな騒ぎなのだろう。

朝は筋肉トレーニングで起こされ、昼はサイラスの実験に巻き込まれ、夜はレオナルドからの変な贈り物が届く。

静かで穏やかな生活とは程遠い。

けれど。

「……退屈はしなさそうね」

「ん? 何か言ったか?」

「いいえ。……幸せだなって、言ったんです」

私が微笑むと、ジェラルドは世界一番の笑顔で応えた。

「ああ! 私の方こそ! 君を世界一幸せな筋肉……いや、妻にしてみせる!」

「筋肉はいりません!」

私たちの新しい日常は、騒がしく、慌ただしく、そして最高に愛おしい日々として続いていく。

元悪役令嬢リーフィー・バーベナ改め、リーフィー・アイアンサイドの物語。

これにて、一件落着!
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