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「……キキ、説明しろ。夜会で一体何をしでかした」
公爵邸の重厚な書斎。
私の目の前で、父であるボルドー公爵が眉間をこれでもかと押さえていた。
その前には、先ほどの夜会で私がしでかした(と一般的には思われている)狼藉の報告書が、速達で山積みになっている。
「説明、と言われましても……。ただ、事実をありのままに突きつけて差し上げただけですわ」
私はソファに優雅に腰を下ろし、侍女のアンナが淹れてくれた紅茶を一口啜る。
うん、やっぱり我が家の茶葉は最高ね。これから辺境に行くなら、この茶葉も大量に持ち出さないと。
「事実? 皇太子殿下のファッションを『ナスビのよう』と罵り、マリア嬢を『イチゴクレープ』と呼び捨てにしたことがか!」
「あら、お父様、情報が不正確ですわ。ナスビと申し上げたのは殿下の髪型で、襟元は『新鮮なレタス』です。正確な表現をお願いしますわ」
「そこはどうでもいい! おかげで陛下からもお叱りの手紙が届いたぞ! 我がボルドー公爵家は、お前の不敬のせいで大ピンチだ!」
父様が机を叩いて立ち上がる。
血管が浮き出ている。あらあら、高血圧には気をつけていただきたいものですわ。
「というわけで、キキ。お前を廃嫡とし、北の最果てにあるボルドー領の辺境へ追放することに決めた。異論はないな?」
「異論? まさか! お父様、最高の決断ですわ! さすが我が父、話が分かる!」
「……は?」
今夜、二度目の「は?」をいただきました。
殿下のものより、お父様の方が低音で響きが良いですね。
「辺境! 素晴らしい響きですわ。王都のジメジメした人間関係も、流行遅れの貴族たちのマウント合戦も、全部おさらば。空気は美味しいでしょうし、何より私の好きなように領地を改造できる……。ああ、想像しただけで鼻血が出そうですわ!」
「……お前、追放の意味を知っているか? 華やかな社交界から追われ、泥臭い田舎で一生を終えるのだぞ? 贅沢な暮らしも、美しいドレスも、もう手に入らないのだぞ?」
「お父様、センスというものは環境に左右されるものではありません。私がいる場所、そこがパリ……ではなく、最先端のモード発信地になるのです。ドレスがないなら、現地の羊の毛でも刈って自分で作りますわ」
私は立ち上がり、アンナに目配せをする。
アンナはすでに、私の意図を察して「辺境持ち出しリスト」を書き留めていた。さすが私の右腕。
「さあ、そうと決まれば準備ですわ! お父様、手切れ金の方はどうなっています? まさか、可愛い娘を裸一貫で放り出すような、センスの無い真似はなさいませんわよね?」
「……あ、ああ。最低限の資金と、ボロい領主館の権利はやる。だが、それ以上は一切援助せんからな!」
「十分ですわ! その代わり、倉庫に眠っている『使い道のない派手な家具』や『流行遅れの布地』、全部私が引き取って差し上げます。お父様の書斎もスッキリして一石二鳥ですわね!」
「キキ……お前、本当にショックを受けていないのか? 殿下のことは愛していなかったのか?」
父様が、少しだけ心配そうな顔で聞いてきた。
私は窓の外、遠くに見える王宮を眺めて、ふっと微笑む。
「愛? お父様、あんな野菜セットみたいな男と結婚して、一生レタスの鮮度を気にするような人生、私には耐えられませんわ。私は、もっと刺激的で、もっと笑える人生を歩みたいのです」
「……そうか。なら、もう何も言わん。明日には発ってもらうぞ」
「ええ、もちろん! むしろ今すぐ出発したいくらいですわ! アンナ、まずは靴のパッキングからよ! 辺境の道は険しそうだから、実用性とデザインを兼ね備えたブーツを多めにね!」
「承知いたしました、お嬢様。すでに馬車の補強も手配しております」
「仕事が早いわね! 大好きよアンナ!」
嵐のような勢いで部屋を飛び出す私。
背後で、父様が「……あいつ、もしかして最初からこれを狙っていたのか?」と呟くのが聞こえた気がしたが、気にしないことにした。
自室に戻ると、私は早速ドレスを脱ぎ捨て、動きやすい乗馬服に着替える。
「さあ、自由へのカウントダウンですわよ! まずはあのナスビ殿下から贈られた、趣味の悪い宝石類を全部換金しましょう。あんなもの、持っているだけで運気が下がりそうですもの」
「お嬢様、殿下からの贈り物は『愛の証として返却しろ』と公文書にありましたが……」
「あら、返却? そんなの『輸送中に魔物に襲われて紛失しました』って報告しておけばいいのよ。代わりに、その辺の道端に落ちている綺麗な石でも送っておきなさい。殿下なら『キキが選んだ思い出の石だ』とか言って、ポエムのネタにするはずですわ」
「……お嬢様、恐ろしいお方です」
「褒め言葉として受け取っておくわ!」
翌朝。
王都の住民がまだ眠りについている頃、一台の馬車が公爵邸を出発した。
荷台には、ありったけの荷物と、一握りの希望。
そして、これから辺境を爆笑の渦に巻き込む気満々の、元・悪役令嬢。
「待ってなさい辺境! 私が最高のエンターテインメントを届けてあげるわ!」
朝日を浴びながら、私は馬車の窓から身を乗り出して叫んだ。
こうして、私の「第二の人生」という名の、壮大な辺境リフォーム大作戦が幕を開けたのである。
公爵邸の重厚な書斎。
私の目の前で、父であるボルドー公爵が眉間をこれでもかと押さえていた。
その前には、先ほどの夜会で私がしでかした(と一般的には思われている)狼藉の報告書が、速達で山積みになっている。
「説明、と言われましても……。ただ、事実をありのままに突きつけて差し上げただけですわ」
私はソファに優雅に腰を下ろし、侍女のアンナが淹れてくれた紅茶を一口啜る。
うん、やっぱり我が家の茶葉は最高ね。これから辺境に行くなら、この茶葉も大量に持ち出さないと。
「事実? 皇太子殿下のファッションを『ナスビのよう』と罵り、マリア嬢を『イチゴクレープ』と呼び捨てにしたことがか!」
「あら、お父様、情報が不正確ですわ。ナスビと申し上げたのは殿下の髪型で、襟元は『新鮮なレタス』です。正確な表現をお願いしますわ」
「そこはどうでもいい! おかげで陛下からもお叱りの手紙が届いたぞ! 我がボルドー公爵家は、お前の不敬のせいで大ピンチだ!」
父様が机を叩いて立ち上がる。
血管が浮き出ている。あらあら、高血圧には気をつけていただきたいものですわ。
「というわけで、キキ。お前を廃嫡とし、北の最果てにあるボルドー領の辺境へ追放することに決めた。異論はないな?」
「異論? まさか! お父様、最高の決断ですわ! さすが我が父、話が分かる!」
「……は?」
今夜、二度目の「は?」をいただきました。
殿下のものより、お父様の方が低音で響きが良いですね。
「辺境! 素晴らしい響きですわ。王都のジメジメした人間関係も、流行遅れの貴族たちのマウント合戦も、全部おさらば。空気は美味しいでしょうし、何より私の好きなように領地を改造できる……。ああ、想像しただけで鼻血が出そうですわ!」
「……お前、追放の意味を知っているか? 華やかな社交界から追われ、泥臭い田舎で一生を終えるのだぞ? 贅沢な暮らしも、美しいドレスも、もう手に入らないのだぞ?」
「お父様、センスというものは環境に左右されるものではありません。私がいる場所、そこがパリ……ではなく、最先端のモード発信地になるのです。ドレスがないなら、現地の羊の毛でも刈って自分で作りますわ」
私は立ち上がり、アンナに目配せをする。
アンナはすでに、私の意図を察して「辺境持ち出しリスト」を書き留めていた。さすが私の右腕。
「さあ、そうと決まれば準備ですわ! お父様、手切れ金の方はどうなっています? まさか、可愛い娘を裸一貫で放り出すような、センスの無い真似はなさいませんわよね?」
「……あ、ああ。最低限の資金と、ボロい領主館の権利はやる。だが、それ以上は一切援助せんからな!」
「十分ですわ! その代わり、倉庫に眠っている『使い道のない派手な家具』や『流行遅れの布地』、全部私が引き取って差し上げます。お父様の書斎もスッキリして一石二鳥ですわね!」
「キキ……お前、本当にショックを受けていないのか? 殿下のことは愛していなかったのか?」
父様が、少しだけ心配そうな顔で聞いてきた。
私は窓の外、遠くに見える王宮を眺めて、ふっと微笑む。
「愛? お父様、あんな野菜セットみたいな男と結婚して、一生レタスの鮮度を気にするような人生、私には耐えられませんわ。私は、もっと刺激的で、もっと笑える人生を歩みたいのです」
「……そうか。なら、もう何も言わん。明日には発ってもらうぞ」
「ええ、もちろん! むしろ今すぐ出発したいくらいですわ! アンナ、まずは靴のパッキングからよ! 辺境の道は険しそうだから、実用性とデザインを兼ね備えたブーツを多めにね!」
「承知いたしました、お嬢様。すでに馬車の補強も手配しております」
「仕事が早いわね! 大好きよアンナ!」
嵐のような勢いで部屋を飛び出す私。
背後で、父様が「……あいつ、もしかして最初からこれを狙っていたのか?」と呟くのが聞こえた気がしたが、気にしないことにした。
自室に戻ると、私は早速ドレスを脱ぎ捨て、動きやすい乗馬服に着替える。
「さあ、自由へのカウントダウンですわよ! まずはあのナスビ殿下から贈られた、趣味の悪い宝石類を全部換金しましょう。あんなもの、持っているだけで運気が下がりそうですもの」
「お嬢様、殿下からの贈り物は『愛の証として返却しろ』と公文書にありましたが……」
「あら、返却? そんなの『輸送中に魔物に襲われて紛失しました』って報告しておけばいいのよ。代わりに、その辺の道端に落ちている綺麗な石でも送っておきなさい。殿下なら『キキが選んだ思い出の石だ』とか言って、ポエムのネタにするはずですわ」
「……お嬢様、恐ろしいお方です」
「褒め言葉として受け取っておくわ!」
翌朝。
王都の住民がまだ眠りについている頃、一台の馬車が公爵邸を出発した。
荷台には、ありったけの荷物と、一握りの希望。
そして、これから辺境を爆笑の渦に巻き込む気満々の、元・悪役令嬢。
「待ってなさい辺境! 私が最高のエンターテインメントを届けてあげるわ!」
朝日を浴びながら、私は馬車の窓から身を乗り出して叫んだ。
こうして、私の「第二の人生」という名の、壮大な辺境リフォーム大作戦が幕を開けたのである。
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