9 / 28
9
しおりを挟む
「……できましたわ! これこそが、世界の美容史を塗り替える『キキ様謹製・極上ハーブ石鹸:レオナルトの吐息』ですわ!」
目の前には、宝石のように輝く淡い緑色の石鹸が、整然と並べられていた。
バドさんが作った精密な攪拌機(かくはんき)と、私が配合した秘密のハーブエキス。
その相乗効果により、泡立ちはシルクのように滑らかで、香りは森の深淵を思わせる高貴な仕上がりだ。
「キキ……。石鹸の完成は喜ばしいが、その……商品名は何とかならなかったのか? 『レオナルトの吐息』とは、あまりに破廉恥ではないか?」
横で複雑そうな表情を浮かべているのは、我らが広告塔、レオナルト様だ。
今の彼は、私がコーディネートした「清楚さと色気を兼ね備えた白いブラウス」を纏い、肌は文字通り発光している。
「何を仰いますの。商品の価値を決めるのは名前とイメージですわ。いいですか、レオナルト様。王都の飢えた……いえ、美を求める女性たちは、この名前を聞いただけで財布の紐を全開にしますわ!」
「……君は、淑女という言葉をどこかに置き忘れてきたようだな」
「そんな古臭い荷物は王宮に置いてきましたわ。アンナ! 例の『販促用ポスター』を持ってきて!」
「はい、お嬢様。絵師の卵たちを動員し、レオナルト様の美しさを120%増しで描かせた傑作でございます」
アンナが広げたのは、巨大なキャンバスに描かれたレオナルト様の肖像画……の、ポスター版だ。
そこには、憂いを含んだ表情で石鹸を頬に寄せるレオナルト様の姿が。
背景には無駄にキラキラした魔法の光が散りばめられ、下部には金文字でデカデカと商品名が踊っている。
「……。………………。……これは、私か?」
レオナルト様が絶句している。
自分の顔が、実物以上にキラキラと描かれ、あろうことか「あなたの肌に、私を刻んで」という謎のキャッチコピーまで添えられているのだから、無理もない。
「ええ、そうですわ! これを王都の目抜き通りや、高級美容室に貼り出すのです。このポスターを見た女性たちは、まずあなたの美貌に雷を打たれたようになり、次にその理由がこの石鹸にあると確信し、狂ったように買い求める……。完璧なロードマップですわ!」
「……私は、隣国の大公だぞ。こんなものが王都に出回れば、外交問題になりかねん」
「外交問題どころか、友好の架け橋ですわ。隣国の美の象徴が、我が領地の特産品を愛用している。これこそが真の平和というものではありませんか?」
「詭弁だ! ……だが、確かにこの石鹸の品質は素晴らしい。私の肌がそれを証明してしまっているのが、悔しいところだな……」
レオナルト様は諦めたように溜息をつき、鏡の中の自分を、少しだけ誇らしげに見つめた。
彼もまた、美しくなることの快感に、無意識のうちに毒され始めているのだ。
「さあ、出荷の準備よ! バドさんたちが作ってくれた高級木材の箱に、この石鹸を一つずつ丁寧に収めて。アンナ、配送ルートの安全確認は?」
「抜かりありません。以前お嬢様が『更生』させた野盗の皆さんが、今は改心して『運送ギルド』を結成しており、彼らが責任を持って王都まで運びます」
「まあ! あの『身だしなみが整っていない方々』が、今や私のビジネスパートナーですのね。センスを磨くということは、人生を豊かにするということの証明ですわ!」
こうして、辺境発の第一便が王都へと向けて出発した。
荷馬車には、何百個という石鹸と、レオナルト様の「破壊力抜群なポスター」が積み込まれている。
「さあ、王都の皆さん。震えて待ちなさい。私の復讐は、呪いや陰謀ではなく、圧倒的な『美の暴力』で行われるんだから!」
高笑いする私の横で、レオナルト様が「せめてポスターのキャッチコピーだけでも変えてくれ……」と小声で訴えていたが、私は華麗に無視して、次なる新商品「まつ毛が伸びる魔法の美容液」の構想を練り始めた。
この時、王都ではセドリック殿下が、マリアのわがままと、自分自身の絶望的なセンスのなさが招いた「宮廷内での孤立」に頭を抱えていたのだが……。
そんなことは、今の私の知ったことではないのですわ!
目の前には、宝石のように輝く淡い緑色の石鹸が、整然と並べられていた。
バドさんが作った精密な攪拌機(かくはんき)と、私が配合した秘密のハーブエキス。
その相乗効果により、泡立ちはシルクのように滑らかで、香りは森の深淵を思わせる高貴な仕上がりだ。
「キキ……。石鹸の完成は喜ばしいが、その……商品名は何とかならなかったのか? 『レオナルトの吐息』とは、あまりに破廉恥ではないか?」
横で複雑そうな表情を浮かべているのは、我らが広告塔、レオナルト様だ。
今の彼は、私がコーディネートした「清楚さと色気を兼ね備えた白いブラウス」を纏い、肌は文字通り発光している。
「何を仰いますの。商品の価値を決めるのは名前とイメージですわ。いいですか、レオナルト様。王都の飢えた……いえ、美を求める女性たちは、この名前を聞いただけで財布の紐を全開にしますわ!」
「……君は、淑女という言葉をどこかに置き忘れてきたようだな」
「そんな古臭い荷物は王宮に置いてきましたわ。アンナ! 例の『販促用ポスター』を持ってきて!」
「はい、お嬢様。絵師の卵たちを動員し、レオナルト様の美しさを120%増しで描かせた傑作でございます」
アンナが広げたのは、巨大なキャンバスに描かれたレオナルト様の肖像画……の、ポスター版だ。
そこには、憂いを含んだ表情で石鹸を頬に寄せるレオナルト様の姿が。
背景には無駄にキラキラした魔法の光が散りばめられ、下部には金文字でデカデカと商品名が踊っている。
「……。………………。……これは、私か?」
レオナルト様が絶句している。
自分の顔が、実物以上にキラキラと描かれ、あろうことか「あなたの肌に、私を刻んで」という謎のキャッチコピーまで添えられているのだから、無理もない。
「ええ、そうですわ! これを王都の目抜き通りや、高級美容室に貼り出すのです。このポスターを見た女性たちは、まずあなたの美貌に雷を打たれたようになり、次にその理由がこの石鹸にあると確信し、狂ったように買い求める……。完璧なロードマップですわ!」
「……私は、隣国の大公だぞ。こんなものが王都に出回れば、外交問題になりかねん」
「外交問題どころか、友好の架け橋ですわ。隣国の美の象徴が、我が領地の特産品を愛用している。これこそが真の平和というものではありませんか?」
「詭弁だ! ……だが、確かにこの石鹸の品質は素晴らしい。私の肌がそれを証明してしまっているのが、悔しいところだな……」
レオナルト様は諦めたように溜息をつき、鏡の中の自分を、少しだけ誇らしげに見つめた。
彼もまた、美しくなることの快感に、無意識のうちに毒され始めているのだ。
「さあ、出荷の準備よ! バドさんたちが作ってくれた高級木材の箱に、この石鹸を一つずつ丁寧に収めて。アンナ、配送ルートの安全確認は?」
「抜かりありません。以前お嬢様が『更生』させた野盗の皆さんが、今は改心して『運送ギルド』を結成しており、彼らが責任を持って王都まで運びます」
「まあ! あの『身だしなみが整っていない方々』が、今や私のビジネスパートナーですのね。センスを磨くということは、人生を豊かにするということの証明ですわ!」
こうして、辺境発の第一便が王都へと向けて出発した。
荷馬車には、何百個という石鹸と、レオナルト様の「破壊力抜群なポスター」が積み込まれている。
「さあ、王都の皆さん。震えて待ちなさい。私の復讐は、呪いや陰謀ではなく、圧倒的な『美の暴力』で行われるんだから!」
高笑いする私の横で、レオナルト様が「せめてポスターのキャッチコピーだけでも変えてくれ……」と小声で訴えていたが、私は華麗に無視して、次なる新商品「まつ毛が伸びる魔法の美容液」の構想を練り始めた。
この時、王都ではセドリック殿下が、マリアのわがままと、自分自身の絶望的なセンスのなさが招いた「宮廷内での孤立」に頭を抱えていたのだが……。
そんなことは、今の私の知ったことではないのですわ!
0
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす
三谷朱花
恋愛
ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。
ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。
伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。
そして、告げられた両親の死の真相。
家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。
絶望しかなかった。
涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。
雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。
そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。
ルーナは死を待つしか他になかった。
途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。
そして、ルーナがその温もりを感じた日。
ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。
銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。
しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。
しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……
望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで
越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。
国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。
孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。
ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――?
(……私の体が、勝手に動いている!?)
「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」
死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?
――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!
「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み
そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。
広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。
「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」
震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。
「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」
「無……属性?」
平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」
その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。
王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。
――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。
学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。
「殿下、どういうことでしょう?」
私の声は驚くほど落ち着いていた。
「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」
第一王子と見捨てられた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
アナトール公爵令嬢のマリアは婚約者である第一王子のザイツからあしらわれていた。昼間お話することも、夜に身体を重ねることも、なにもなかったのだ。形だけの夫婦生活。ザイツ様の新しい婚約者になってやろうと躍起になるメイドたち。そんな中、ザイツは戦地に赴くと知らせが入った。夫婦関係なんてとっくに終わっていると思っていた矢先、マリアの前にザイツが現れたのだった。
お読みいただきありがとうございます。こちらの話は24話で完結とさせていただきます。この後は「第一王子と愛された公爵令嬢」に続いていきます。こちらもよろしくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる