婚約破棄? 結構です! ついでにこの国のダサいセンスも断捨離!

夏乃みのり

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「……できましたわ! これこそが、世界の美容史を塗り替える『キキ様謹製・極上ハーブ石鹸:レオナルトの吐息』ですわ!」


目の前には、宝石のように輝く淡い緑色の石鹸が、整然と並べられていた。
バドさんが作った精密な攪拌機(かくはんき)と、私が配合した秘密のハーブエキス。
その相乗効果により、泡立ちはシルクのように滑らかで、香りは森の深淵を思わせる高貴な仕上がりだ。


「キキ……。石鹸の完成は喜ばしいが、その……商品名は何とかならなかったのか? 『レオナルトの吐息』とは、あまりに破廉恥ではないか?」


横で複雑そうな表情を浮かべているのは、我らが広告塔、レオナルト様だ。
今の彼は、私がコーディネートした「清楚さと色気を兼ね備えた白いブラウス」を纏い、肌は文字通り発光している。


「何を仰いますの。商品の価値を決めるのは名前とイメージですわ。いいですか、レオナルト様。王都の飢えた……いえ、美を求める女性たちは、この名前を聞いただけで財布の紐を全開にしますわ!」


「……君は、淑女という言葉をどこかに置き忘れてきたようだな」


「そんな古臭い荷物は王宮に置いてきましたわ。アンナ! 例の『販促用ポスター』を持ってきて!」


「はい、お嬢様。絵師の卵たちを動員し、レオナルト様の美しさを120%増しで描かせた傑作でございます」


アンナが広げたのは、巨大なキャンバスに描かれたレオナルト様の肖像画……の、ポスター版だ。
そこには、憂いを含んだ表情で石鹸を頬に寄せるレオナルト様の姿が。
背景には無駄にキラキラした魔法の光が散りばめられ、下部には金文字でデカデカと商品名が踊っている。


「……。………………。……これは、私か?」


レオナルト様が絶句している。
自分の顔が、実物以上にキラキラと描かれ、あろうことか「あなたの肌に、私を刻んで」という謎のキャッチコピーまで添えられているのだから、無理もない。


「ええ、そうですわ! これを王都の目抜き通りや、高級美容室に貼り出すのです。このポスターを見た女性たちは、まずあなたの美貌に雷を打たれたようになり、次にその理由がこの石鹸にあると確信し、狂ったように買い求める……。完璧なロードマップですわ!」


「……私は、隣国の大公だぞ。こんなものが王都に出回れば、外交問題になりかねん」


「外交問題どころか、友好の架け橋ですわ。隣国の美の象徴が、我が領地の特産品を愛用している。これこそが真の平和というものではありませんか?」


「詭弁だ! ……だが、確かにこの石鹸の品質は素晴らしい。私の肌がそれを証明してしまっているのが、悔しいところだな……」


レオナルト様は諦めたように溜息をつき、鏡の中の自分を、少しだけ誇らしげに見つめた。
彼もまた、美しくなることの快感に、無意識のうちに毒され始めているのだ。


「さあ、出荷の準備よ! バドさんたちが作ってくれた高級木材の箱に、この石鹸を一つずつ丁寧に収めて。アンナ、配送ルートの安全確認は?」


「抜かりありません。以前お嬢様が『更生』させた野盗の皆さんが、今は改心して『運送ギルド』を結成しており、彼らが責任を持って王都まで運びます」


「まあ! あの『身だしなみが整っていない方々』が、今や私のビジネスパートナーですのね。センスを磨くということは、人生を豊かにするということの証明ですわ!」


こうして、辺境発の第一便が王都へと向けて出発した。
荷馬車には、何百個という石鹸と、レオナルト様の「破壊力抜群なポスター」が積み込まれている。


「さあ、王都の皆さん。震えて待ちなさい。私の復讐は、呪いや陰謀ではなく、圧倒的な『美の暴力』で行われるんだから!」


高笑いする私の横で、レオナルト様が「せめてポスターのキャッチコピーだけでも変えてくれ……」と小声で訴えていたが、私は華麗に無視して、次なる新商品「まつ毛が伸びる魔法の美容液」の構想を練り始めた。


この時、王都ではセドリック殿下が、マリアのわがままと、自分自身の絶望的なセンスのなさが招いた「宮廷内での孤立」に頭を抱えていたのだが……。
そんなことは、今の私の知ったことではないのですわ!
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