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「お嬢様、王都に派遣した隠密……いえ、運送ギルドの元野盗たちから緊急報告が入りました」
朝の優雅なティータイム。
アンナが持ってきたのは、一通の報告書ではなく、ずっしりと重い「金貨の袋」だった。
「あら、アンナ。その重み、私の耳には最高の音楽として聞こえるわ。売り上げはどうだったのかしら?」
「……完売です。それも、市場に出回ってからわずか三時間で、すべての在庫が消え失せました。現在、王都の闇市では『レオナルトの吐息』一個につき、定価の十倍の値段で取引されているとのことです」
「十倍! まあ、皆さんお目が高いですわね。私のセンスにようやく時代が追いついたということかしら」
私はスコーンにたっぷりとはちみつを塗り、満足げに微笑んだ。
横では、最近すっかり「美容男子」としての自覚が芽生え始めたレオナルト様が、特製のハーブティーを優雅に啜っている。
「……キキ。王都からの報告には、私のポスターについても記載があったか?」
レオナルト様が、少しだけ声を潜めて尋ねてきた。
その耳の先が、ほんのりと赤い。
「ええ、もちろん! ポスターが貼り出された広場では、あまりの美しさに失神する女性が続出し、警備兵が出動する事態になったそうですわ。一部の過激なファンによって、ポスターが剥がし取られ、高値で転売されているとも聞いています」
「……転売だと? 私の顔を、一体何だと思っているんだ……」
「『隣国の国宝級美男子』ですわよ、レオナルト様。自信をお持ちになって! おかげで辺境の財政は、今や王都の並の貴族よりも潤っていますわ。バドさんたち職人へのボーナスもたっぷり出せますわね」
「ふん、まあ……君の計画通りというわけか。だが、これだけ騒ぎになれば、あの『レタス殿下』も黙ってはいないだろう」
「あら、呼んだかしら? ちょうど今、領主館の門前に、王都からの使者が到着したようですわ」
私が窓の外を指さすと、そこには砂埃を上げて走ってきた、豪華(だが泥まみれ)な馬車が止まっていた。
紋章は、間違いなく我が元婚約者、セドリック皇太子のものだ。
「お嬢様、いかがいたしますか? 追い返しますか? それとも、肥料の山に放り込みますか?」
アンナが真顔で、恐ろしい提案をしてくる。
「いいえ、アンナ。せっかくのお客様ですもの。私の『リフォームされたセンス』を存分に見せつけてあげないと失礼だわ。レオナルト様、あなたは隣の部屋で待機していてちょうだい。最高のタイミングで登場していただくから」
「……分かった。君の演出には、もう逆らわないと決めている」
数分後。
応接室に現れたのは、セドリック殿下の側近である、これまたセンスの古臭い文官だった。
「キ、キキ・フォン・ボルドー様! 殿下からの伝言を預かって参りました! ……って、な、なんですかな、この部屋は!?」
文官は部屋に足を踏み入れるなり、目を丸くして固まった。
かつてのカビ臭い応接室は、今や白を基調とした洗練されたモダンな空間に生まれ変わっている。
壁には私の美学を反映した抽象画が飾られ、空気中にはリラックス効果のあるアロマが漂っていた。
「あら、いらっしゃいませ。王都の『時代遅れ』な空気を持ち込まないでいただけます? せっかくの芳香が台無しですわ」
「き、貴様……! 追放された身でありながら、この贅沢は何だ! ……それより、本題だ! 殿下は仰せられた。『例の石鹸を、王室の専売品としてすべて差し出せ』とな!」
「専売品? 差し出せ? ……アンナ、今の聞こえた? 私の耳が、あまりのバカバカしさに翻訳を拒否しているようなのだけれど」
「お嬢様、おそらくその文官は『私は頭が悪いので、タダで商品をよこせ』と言っているのだと思われます」
アンナの毒舌に、文官の顔が真っ赤に染まる。
「な、何を! 殿下は寛大なお心で、お前の罪を許してやろうと仰っているのだ! あの石鹸をマリア様に献上し、殿下の前で土下座して謝罪すれば、婚約破棄を白紙に戻してやらんでもない、と……」
「おーっほっほっほ! 傑作ですわ! 殿下はいつから喜劇役者に転職なさったのかしら?」
私はお腹を抱えて笑い飛ばした。
復縁? 白紙? 今さら、あのレタスとイチゴクレープのバイキングに戻れというの?
そんなの、流行遅れのドレスを一生着させられるより残酷な刑罰だわ。
「帰りなさい。殿下にはこうお伝えして。『私のセンスは、もはや一国に収まる規模ではありません。石鹸が欲しければ、一時間行列に並んで、定価の十倍のプレミア価格で買いなさい』とね」
「き、貴様! そんな態度を許すと……」
「……私の婚約者(ビジネスパートナー)に、無礼な口を利くのはそれぐらいにしてもらおうか」
絶妙なタイミングで、隣の部屋の扉が開いた。
現れたのは、完璧に磨き上げられた「発光する大公」レオナルト様だ。
その圧倒的な美しさと威厳に、文官は腰を抜かして床にヘタリ込んだ。
「な……な、なんだ、この光り輝く美形は……!? 人間……なのか……?」
「彼は私の大事な『モデル』兼、隣国のレオナルト大公閣下ですわ。王国の文官が、隣国の大公に対してその無様な姿……。これこそ外交問題ではありませんこと?」
「だ、大公閣下……!? なぜこのような辺境に……!?」
「君たちが追い出したキキが、私を救い、私に新しい『価値』を教えてくれたのだ。殿下には伝えておけ。彼女はもはや、君たちの手の届く場所にいない、とな」
レオナルト様が冷徹な声で告げると、文官は「ヒィッ!」と悲鳴を上げて、転がるように部屋を飛び出していった。
「お見事でしたわ、レオナルト様! あの腰の抜け方、まさに期待通りのリアクションですわね」
「……演技指導が厳しすぎたからな。だが、これで王都との決別は決定的になったな、キキ」
「ええ、望むところですわ。次は石鹸だけじゃありません。この辺境から、国中の『ダサい』を一掃して差し上げますわよ!」
私は窓の外、遠く離れた王都の方角を見据え、勝利の扇を掲げた。
復讐の第一歩は、大成功。
さて、次はどのアイテムで、あのナルシスト殿下を絶望の淵に叩き落としてあげようかしら!
朝の優雅なティータイム。
アンナが持ってきたのは、一通の報告書ではなく、ずっしりと重い「金貨の袋」だった。
「あら、アンナ。その重み、私の耳には最高の音楽として聞こえるわ。売り上げはどうだったのかしら?」
「……完売です。それも、市場に出回ってからわずか三時間で、すべての在庫が消え失せました。現在、王都の闇市では『レオナルトの吐息』一個につき、定価の十倍の値段で取引されているとのことです」
「十倍! まあ、皆さんお目が高いですわね。私のセンスにようやく時代が追いついたということかしら」
私はスコーンにたっぷりとはちみつを塗り、満足げに微笑んだ。
横では、最近すっかり「美容男子」としての自覚が芽生え始めたレオナルト様が、特製のハーブティーを優雅に啜っている。
「……キキ。王都からの報告には、私のポスターについても記載があったか?」
レオナルト様が、少しだけ声を潜めて尋ねてきた。
その耳の先が、ほんのりと赤い。
「ええ、もちろん! ポスターが貼り出された広場では、あまりの美しさに失神する女性が続出し、警備兵が出動する事態になったそうですわ。一部の過激なファンによって、ポスターが剥がし取られ、高値で転売されているとも聞いています」
「……転売だと? 私の顔を、一体何だと思っているんだ……」
「『隣国の国宝級美男子』ですわよ、レオナルト様。自信をお持ちになって! おかげで辺境の財政は、今や王都の並の貴族よりも潤っていますわ。バドさんたち職人へのボーナスもたっぷり出せますわね」
「ふん、まあ……君の計画通りというわけか。だが、これだけ騒ぎになれば、あの『レタス殿下』も黙ってはいないだろう」
「あら、呼んだかしら? ちょうど今、領主館の門前に、王都からの使者が到着したようですわ」
私が窓の外を指さすと、そこには砂埃を上げて走ってきた、豪華(だが泥まみれ)な馬車が止まっていた。
紋章は、間違いなく我が元婚約者、セドリック皇太子のものだ。
「お嬢様、いかがいたしますか? 追い返しますか? それとも、肥料の山に放り込みますか?」
アンナが真顔で、恐ろしい提案をしてくる。
「いいえ、アンナ。せっかくのお客様ですもの。私の『リフォームされたセンス』を存分に見せつけてあげないと失礼だわ。レオナルト様、あなたは隣の部屋で待機していてちょうだい。最高のタイミングで登場していただくから」
「……分かった。君の演出には、もう逆らわないと決めている」
数分後。
応接室に現れたのは、セドリック殿下の側近である、これまたセンスの古臭い文官だった。
「キ、キキ・フォン・ボルドー様! 殿下からの伝言を預かって参りました! ……って、な、なんですかな、この部屋は!?」
文官は部屋に足を踏み入れるなり、目を丸くして固まった。
かつてのカビ臭い応接室は、今や白を基調とした洗練されたモダンな空間に生まれ変わっている。
壁には私の美学を反映した抽象画が飾られ、空気中にはリラックス効果のあるアロマが漂っていた。
「あら、いらっしゃいませ。王都の『時代遅れ』な空気を持ち込まないでいただけます? せっかくの芳香が台無しですわ」
「き、貴様……! 追放された身でありながら、この贅沢は何だ! ……それより、本題だ! 殿下は仰せられた。『例の石鹸を、王室の専売品としてすべて差し出せ』とな!」
「専売品? 差し出せ? ……アンナ、今の聞こえた? 私の耳が、あまりのバカバカしさに翻訳を拒否しているようなのだけれど」
「お嬢様、おそらくその文官は『私は頭が悪いので、タダで商品をよこせ』と言っているのだと思われます」
アンナの毒舌に、文官の顔が真っ赤に染まる。
「な、何を! 殿下は寛大なお心で、お前の罪を許してやろうと仰っているのだ! あの石鹸をマリア様に献上し、殿下の前で土下座して謝罪すれば、婚約破棄を白紙に戻してやらんでもない、と……」
「おーっほっほっほ! 傑作ですわ! 殿下はいつから喜劇役者に転職なさったのかしら?」
私はお腹を抱えて笑い飛ばした。
復縁? 白紙? 今さら、あのレタスとイチゴクレープのバイキングに戻れというの?
そんなの、流行遅れのドレスを一生着させられるより残酷な刑罰だわ。
「帰りなさい。殿下にはこうお伝えして。『私のセンスは、もはや一国に収まる規模ではありません。石鹸が欲しければ、一時間行列に並んで、定価の十倍のプレミア価格で買いなさい』とね」
「き、貴様! そんな態度を許すと……」
「……私の婚約者(ビジネスパートナー)に、無礼な口を利くのはそれぐらいにしてもらおうか」
絶妙なタイミングで、隣の部屋の扉が開いた。
現れたのは、完璧に磨き上げられた「発光する大公」レオナルト様だ。
その圧倒的な美しさと威厳に、文官は腰を抜かして床にヘタリ込んだ。
「な……な、なんだ、この光り輝く美形は……!? 人間……なのか……?」
「彼は私の大事な『モデル』兼、隣国のレオナルト大公閣下ですわ。王国の文官が、隣国の大公に対してその無様な姿……。これこそ外交問題ではありませんこと?」
「だ、大公閣下……!? なぜこのような辺境に……!?」
「君たちが追い出したキキが、私を救い、私に新しい『価値』を教えてくれたのだ。殿下には伝えておけ。彼女はもはや、君たちの手の届く場所にいない、とな」
レオナルト様が冷徹な声で告げると、文官は「ヒィッ!」と悲鳴を上げて、転がるように部屋を飛び出していった。
「お見事でしたわ、レオナルト様! あの腰の抜け方、まさに期待通りのリアクションですわね」
「……演技指導が厳しすぎたからな。だが、これで王都との決別は決定的になったな、キキ」
「ええ、望むところですわ。次は石鹸だけじゃありません。この辺境から、国中の『ダサい』を一掃して差し上げますわよ!」
私は窓の外、遠く離れた王都の方角を見据え、勝利の扇を掲げた。
復讐の第一歩は、大成功。
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