婚約破棄? 結構です! ついでにこの国のダサいセンスも断捨離!

夏乃みのり

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「……地獄だ。ここは、地獄の最先端だ……」


館の中庭。
昨日の「ファッション防衛戦」で敗北を喫した五十名の精鋭騎士たちが、力なく地面に膝をついていた。
ある者はパステルピンクのエプロンドレスに身を包み、ある者は巨大なヒマワリの被り物を揺らし、またある者はタイトな全身タイツで股割りをしている。
かつての威厳など、微塵も残っていない。


「あら、皆さん。おはようございます。朝からとっても『前衛的(アバンギャルド)』な装いで、私、目が覚めてしまいましたわ!」


私は二階のテラスから、優雅に扇をパタパタと動かしながら彼らを見下ろした。
隣には、すっかりこの光景に慣れてしまったアンナが、冷めた紅茶を淹れ直している。


「お嬢様、彼らの精神的ダメージは予想以上です。数名は『俺、実家に帰ったら花屋になるんだ……』と、現実逃避を始めております」


「いいわ、アンナ。現実逃避も、新しい自分を見つけるためのリフォームの一歩よ。さあ、皆さん! いつまでもしおれた野菜のような顔をしないでちょうだい!」


私の声に、ピンクのエプロンを纏った騎士団長が、おそるおそる顔を上げた。


「キキ様……我々をどうするつもりだ。処刑するなら、せめてこの『恥ずかしいリボン』を外してからにしてくれ……!」


「処刑? そんな非生産的なこと、私の美学が許しませんわ。あなたたちには、この辺境をさらに美しく、豊かにするための『美の使徒』として働いていただきます!」


「美の……使徒……?」


「ええ! その鍛え上げられた筋肉は、石鹸の原料を運ぶのに最適。その強靭な足腰は、新作ドレスを王都へ運ぶ運送ギルドの護衛にぴったり。そして何より、その『屈強な男が可愛い格好をしている』というギャップ……! これは新しいマーケティングの可能性を感じますわ!」


騎士たちが一斉に震え上がった。
彼らは今、物理的な暴力よりも恐ろしい「概念の暴力」に直面していることに気づいたのだ。


「アンナ、彼らに『新・制服』を配りなさい。機能性を重視しつつ、私の美意識を詰め込んだ、活動的なデザインよ。……あ、団長さんだけは、そのエプロンがお似合いだからそのままでいいわ」


「ひ、ひどい……っ!」


団長が崩れ落ちる。
そこへ、中庭の奥からレオナルト様が歩いてきた。
彼は騎士たちの惨状を一瞥し、そして私の隣、テラスの柵に手をかけた。


「キキ。彼らの扱いは任せるが、あまりいじめすぎないでやってくれ。これでも我が領では、泣く子も黙る鉄血騎士団なのだ」


「あら、レオナルト様。泣く子も黙るどころか、この姿なら泣く子も笑って元気になるはずですわ。これぞ平和への貢献です。……ところで、レオナルト様。お手元にある、その『物騒な輝きを放つ塊』は何かしら?」


私は、レオナルト様が持っている小さな箱に目を留めた。
彼がそれを開くと、中から現れたのは、親指の爪ほどもある巨大な宝石が埋め込まれた指輪だった。
……いいえ、宝石というより、もはや「研磨された岩」に近い。


「これか? ……昨日の戦い、君の指揮は見事だった。これは、私からの感謝の印……いや、正式な『婚約指輪』として受け取ってほしい」


「……。………………」


私はしばし、その指輪を凝視した。
宝石のカットは完璧。輝きも一級品。
だが、いかんせんサイズがデカすぎる。


「レオナルト様、一つお聞きしてもよろしいかしら」


「何だ?」


「これ、指につけて歩いたら、私の左手が地面にめり込みませんか? それとも、いざという時に相手の頭を殴るための武器……鈍器としての実用性を兼ね備えているのかしら?」


「……。……大公家の伝統で、一番大きい石を選ぶのが礼儀だと教わったのだが……。……やはり、センスがなかったか?」


レオナルト様が、耳まで真っ赤にして俯いてしまった。
あの冷徹な大公様が、子犬のようにしょんぼりしている。


「おーっほっほっほ! いいわ、最高に面白いですわ! レオナルト様、合格です! その『デカすぎて逆に前衛的』なセンス、私が一からリフォームしてあげ甲斐があるというものですわ!」


私は彼の指から箱をひったくるように受け取った。
重い。確かに重いけれど、そこに込められた彼の「不器用な誠実さ」だけは、どんな高価な宝石よりも私の心に刺さったような気がした。


「受け取ってくださるのか?」


「ええ! ただし、指につけるのはパーティーの時だけ。普段は飾っておきますわ。……さあ、レオナルト様。指輪の次は、あの『ピンクの騎士団』たちの教育ですわよ! 彼らを世界一ファッショナブルな軍隊に育て上げますわ!」


「……ああ、分かった。君の行く道に、私はどこまでも付き合おう」


テラスで微笑み合う私たちと、その下で「ピンクの地獄」に咽び泣く騎士団。
辺境の空は、今日も雲一つなく、私の未来のようにキラキラと輝いていた。


……一方、その頃。
王都のセドリック殿下は、送った騎士団が全滅(?)したという報告を受け、泡を吹いて倒れていたのだが……。
それはまた、別のお話ですわね!
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