婚約破棄? 結構です! ついでにこの国のダサいセンスも断捨離!

夏乃みのり

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「……ふぅ。ようやく、ドレスの最終フィッティングが終わりましたわ」


嵐のような喧騒が去り、静まり返った領主館のバルコニー。
私は冷えた夜風に当たりながら、遠くに広がる辺境の街並みを眺めていた。
数ヶ月前までは「グレー一色の絶望」だったこの場所も、今は家々の窓から温かな光が漏れ、活気ある夜の調べが聞こえてくる。


「……遅くまで精が出るな、キキ」


背後から、聞き慣れた心地よい声がした。
振り返ると、そこにはガウンを羽織り、少しだけリラックスした様子のレオナルト様が立っていた。
月の光を浴びた彼の銀髪は、もはや「野良猫の尻尾」なんて面影は微塵もなく、最高級のシルクのように輝いている。


「レオナルト様。あなたこそ、明日は主役なのですから、早くお休みにならなくては。お肌のゴールデンタイムを逃すと、私のリフォーム計画に狂いが生じますわよ?」


「フッ。……明日になれば、私は君の夫だ。もう『素材』として扱われるのも終わりかと思っていたが、どうやら一生、君の管理下に置かれることになりそうだな」


レオナルト様は私の隣に並び、手すりに手をかけた。
彼の大きな手が、私の小さな手をそっと包み込む。
……あら。今夜の彼の温度は、いつもより少しだけ熱い気がするわ。


「……不思議なものだ。あの時、森で泥にまみれて倒れていた私を、君が日傘で突っつかなければ、今の私はなかっただろう」


「あら、懐かしいわね。あの時のあなたの服のボタンの取れかかり具合、今思い出しても鳥肌が立ちますわ。あれこそが、私の人生で最大の『リフォーム案件』でしたもの」


「……命を救われたことよりも、ボタンの心配をされるとはな。……だが、君に救われたのは命だけではない。……キキ、私はずっと、隣国の大公という重責に押し潰され、感情を殺して生きてきた」


レオナルト様が、真剣な眼差しで私を見つめた。
その瞳の奥には、王都の偽物たちには決して持ち得ない、深い慈しみと誠実さが宿っている。


「君が私の肌を磨き、服を整え、そして……私の凍りついた心を、その鮮やかな毒舌で叩き壊してくれた。君のおかげで、私は初めて『自分として生きる』楽しさを知ったんだ」


「……。………………。レオナルト様、今夜は随分とポエミーですわね。セドリック殿下の『ナスビ・ポエム』に毒されたわけではありませんわよね?」


私は照れ隠しに、わざと意地悪な言い方をしてみた。
けれど、レオナルト様は動じず、私の手をさらに強く握りしめた。


「殿下のポエムと一緒にしないでくれ。……これは、私の本心だ。キキ。明日、世界で一番美しい花嫁になる君を、私は一生かけて守り抜く。君が描く色とりどりの未来を、一番近くで支え続けたいんだ」


「……守り抜く? 頼もしいことですわ。でも、忘れないでくださいね? 私が守ってほしいのは、私の身の安全だけではありませんわよ。私の『美学』と、この領地の『輝き』、そして何より……」


私は、彼にしか見せないような、少しだけ弱気で、けれど最高に幸せな微笑みを浮かべた。


「……あなたの、その整ったお顔を、一生私の隣で維持していただくことですわ。……約束してくださる?」


「ああ、約束しよう。君に『ダサい』と言われないよう、死ぬまで自分を磨き続けるよ」


レオナルト様が私の腰を引き寄せ、月明かりの下でゆっくりと顔を近づけてくる。
……あら、これは。
リフォームの計画表にはない、想定外の「熱い展開」だわ。


「キキ……、愛している」


「……。……私も、あなたのその『素材の良さ』だけは、愛してあげなくもありませんわ」


唇が重なる直前、私は彼にだけ聞こえるような声で囁いた。
甘いハーブの香りと、彼の体温。
遠くでバドさんたちが打ち上げている、明日の予行演習の花火の音が、かすかに響いた。


「おーっほっほっほ! 明日は世界一の結婚式にしますわよ! レオナルト様、腰を抜かす準備はよろしい!?」


「……ああ。君となら、どんな未来でも驚きに満ちているはずだ」


私たちは夜の静寂の中で、明日という新しい扉が開くのを、静かに、けれど誰よりも熱い期待と共に待っていた。
王都の皆さん。
明日は、あなたたちの常識がすべて塗り替えられる日。
私の「最高傑作」の完成披露会、楽しみにしていてくださいな!
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