ざまぁ不要の悪役令嬢!婚約破棄は想定内、むしろご褒美ですわ!

夏乃みのり

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国王の厳命を受け、侍医は改めて倒れた令嬢たちの元へと向かい、そして、数分後、蒼白な顔で戻ってきた。

彼は、国王の前に進み出ると、震える声で報告を始めた。

「陛下。倒れられましたご令嬢方を改めて詳細に診察いたしましたが、毒物による中毒症状は、やはり一切見られませんでした」

「では、原因は何だと申すのだ」

国王の鋭い問いに、侍医は懐から小さな薬草の包みを取り出した。

「原因は、おそらくこれかと。ご令嬢方のドレスの袖口から、ごく微量ですが、精神を一時的に錯乱させ、失神を誘発する特殊な薬草の粉末が検出されました。これは、ある特定の香と併せて用いることで、その効果が最大限に発揮されるという、古い薬物でございます」

香、という言葉に、リリアナの肩が、かすかに震えた。

その、ほんのわずかな動きを見逃さなかったのは、アレクシスと、そしてもう一人。

「――陛下! 申し上げます!」

突然、庭園のスタッフに紛れていた一人の青年が、国王の前に進み出て、片膝をついた。それは、マリアンの店の店員、カイだった。

「その『香』とやらなら、わたくしがこの目で見たでございます!」

「何者だ、お前は」

「カフェ・アルケミスタの店員、カイと申します!」

カイは、顔を上げると、リリアナをまっすぐに指さした。

「このリリアナ様の侍女が、先ほどから、そこの木陰で、奇妙な香を焚いているのを見ました! 怪しいと思い、燃えかすを拾っておきました。これが、その証拠でございます!」

そう言ってカイが差し出したのは、侍女が持っていたものと同じ、例の薬草が混ぜ込まれた香の燃えかすだった。

「嘘ですわ! でたらめよ!」

リリアナが、金切り声を上げた。

「そ、そんな下賤な平民の言うことなど、証拠になるものですか! エドワード様、この者がわたくしを陥れようとしているのです!」

彼女は、最後の頼みの綱であるエドワードにすがりつく。だが、エドワードは、あまりにも出来すぎた状況に、ただ混乱して立ち尽くすばかりだった。

その時、決定的な一撃が、アレクシスによって放たれた。

「陛下。カイの証言を裏付ける、物的証拠が、ここに」

アレクシスは、懐から一冊の分厚い報告書を取り出すと、その内容を、静かに、しかし、その場にいる全員に聞こえるよう、朗々と読み上げ始めた。

「リリアナ・ベル嬢は、数週間前より、王都の裏通りにある薬屋にて、失神を誘発する薬草、及び特殊な香を、複数回にわたり購入。これは、薬屋の主人の証言とも一致しております」

「な……っ!」

「さらに、リリアナ嬢は、かねてより反王家派の筆頭と目される、マルコム侯爵と、夜会などを通じて密に接触しておりました。その目的は――」

アレクシスの声が、一度、低く、重くなった。

「マリアン嬢に国王暗殺未遂の罪を着せることで、アルトハイム公爵家と王家の間に亀裂を生じさせ、王国の混乱を招くこと。そして、その混乱に乗じて、マルコム侯爵が実権を握ること。その見返りとして、リリアナ嬢は、正式な王太子妃の座を約束されておりました」

それは、ただの嫉妬による嫌がらせなどではなかった。

王国の転覆までを視野に入れた、あまりにもおぞましい、大逆の陰謀だった。

「リリアナ……。君は……そんな、ことを……」

エドワードが、信じられないものを見る目で、リリアナを見つめる。

すべての嘘が暴かれ、逃げ場を失ったリリアナ。

その瞬間、彼女の顔から、可憐な少女の仮面が、音を立てて剥がれ落ちた。

「……そうよっ!!」

リリアナは、もはや猫を被るのをやめ、憎悪に満ちた、甲高い声で叫んだ。

「全部、全部、あの女のせいよ! マリアンさえいなければ! あいつが、惨めに落ちぶれてさえいれば、すべて、わたくしの思い通りにいったはずなのに!」

その、あまりにも醜い本性の発露。

それが、彼女の罪を決定づける、最後の証言となった。

国王ジェラルド三世は、静かに玉座から立ち上がった。その顔には、もはや何の感情も浮かんでいなかった。ただ、絶対的な王としての、冷たい威厳があるだけだった。

「――衛兵」

「「「はっ!」」」

「リリアナ・ベル、及び、この場にいるマルコム侯爵とその一派を、大逆罪人として、ただちに捕縛せよ! 一人残らず、地下牢へ投獄せい!」

国王の、厳粛な声が、庭園に響き渡る。

衛兵たちが、マルコム侯爵をはじめ、顔面蒼白になっている貴族たち、そして、悪鬼のような形相でマリアンを睨みつけるリリアナへと、一斉に殺到した。

「離しなさい! わたくしは、未来の王妃ですのよ!」

最後まで見苦しく叫び続けるリリアナは、無情にも衛兵たちによって引きずられていく。

こうして、一人の少女の歪んだ野心から始まった陰謀は、白日の下に晒され、その幕を閉じた。

後に残されたのは、呆然とする貴族たちと、そして、ただ静かに、その一部始終を見届けていた、マリアンと、彼女を守り抜いた騎士の姿だけだった。
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