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15話
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リコッタという心強い(?)味方を得て、グルメアの心は少し軽くなっていた。
女同士にしかできない話、というのもある。
ある晴れた昼下がり、ピザ屋の仕事が一段落した時、グルメアはずっと胸の内にあった疑問を、リコッタに投げかけてみた。
「ねえ、リコッタ」
「なによ、改まって」
「マスカルのことですの。……なぜ、彼ほどの腕がありながら、こんな村で燻っているのですか? 彼の料理は、王宮のシェフたちにも決して引けを取らない。いえ、それ以上ですわ。都へ出れば、きっと国一番の料理人になれるはずなのに」
それは、グルメアがマスカルと出会ってから、ずっと不思議に思っていたことだった。
彼の才能は、こんな小さな村に収まるような器ではないはずだ。
グルメアの真剣な問いに、リコッタは少しだけ表情を曇らせた。
そして、遠い目をして、ぽつりぽつりと語り始めた。
「……兄貴ね、昔、本気で国一番の料理人を目指してたんだ」
「まあ……!」
「才能だけはあったから、推薦されて、王宮の厨房で働いてたの。毎日毎日、朝から晩まで、必死に修行してた」
リコッタの話に、グルメアは息をのんだ。
あのマスカルが、王宮に。想像もつかなかった。
「でもね……王宮っていうのは、綺麗なだけじゃない。すごく、汚い場所だったのよ」
リコッタの声が、少しだけ震えた。
「兄貴は平民で、後ろ盾もなかった。だから、貴族出身の料理人たちから、すごく酷い嫌がらせを受けたんだって」
「嫌がらせ……?」
「レシピを盗まれたり、大事な食材を隠されたり、失敗を全部兄貴のせいにされたり……。それでも、兄貴は歯を食いしばって頑張ってた。いつか、自分の腕一本で認めさせてやるんだって」
グルメアは、胸が締め付けられるような思いで、リコ-タの話を聞いていた。
あの朴訥な男が、そんな過酷な場所で、一人で戦っていたなんて。
「でも、決定的なことがあったの。ある大事な晩餐会で、兄貴の才能を妬んだ奴らが、兄貴が作ったソースに、こっそり毒にもならない薬草を混ぜたのよ」
「なんですって!?」
「もちろん、味が少しおかしくなるだけで、誰も気づかないような、ほんの少しの量よ。でも、その晩餐会には、舌の肥えた大貴族が来てた。ソースの味がおかしいって、大騒ぎになっちゃって……」
「……それで、マスカルのせいにされた、と」
「うん。誰も兄貴の言うことなんて信じてくれなかった。家柄もコネもない、平民の言うことなんてね。結局、兄貴はその責任を全部押し付けられて、王宮を追い出されたの」
リコッタは、悔しそうに拳を握りしめた。
「それ以来だよ。兄貴、すっかり夢を語らなくなった。料理は好きだから続けてるけど、もう一度、誰かと競ったり、上を目指したりすることは、諦めちゃったんだ」
マスカルが抱えていた、深い心の傷。
理不尽な貴族社会が生んだ、悲しい過去。
それを知ったグルメアは、唇を強く噛みしめた。
自分も、その理不-尽な社会の、頂点にいた人間の一人だったのだ。
「……そうでしたのね」
グルメアの胸に、マスカルへの愛おしさと同時に、彼を傷つけた者たちへの、そしてそんな世界そのものへの、激しい怒りがこみ上げてきた。
女同士にしかできない話、というのもある。
ある晴れた昼下がり、ピザ屋の仕事が一段落した時、グルメアはずっと胸の内にあった疑問を、リコッタに投げかけてみた。
「ねえ、リコッタ」
「なによ、改まって」
「マスカルのことですの。……なぜ、彼ほどの腕がありながら、こんな村で燻っているのですか? 彼の料理は、王宮のシェフたちにも決して引けを取らない。いえ、それ以上ですわ。都へ出れば、きっと国一番の料理人になれるはずなのに」
それは、グルメアがマスカルと出会ってから、ずっと不思議に思っていたことだった。
彼の才能は、こんな小さな村に収まるような器ではないはずだ。
グルメアの真剣な問いに、リコッタは少しだけ表情を曇らせた。
そして、遠い目をして、ぽつりぽつりと語り始めた。
「……兄貴ね、昔、本気で国一番の料理人を目指してたんだ」
「まあ……!」
「才能だけはあったから、推薦されて、王宮の厨房で働いてたの。毎日毎日、朝から晩まで、必死に修行してた」
リコッタの話に、グルメアは息をのんだ。
あのマスカルが、王宮に。想像もつかなかった。
「でもね……王宮っていうのは、綺麗なだけじゃない。すごく、汚い場所だったのよ」
リコッタの声が、少しだけ震えた。
「兄貴は平民で、後ろ盾もなかった。だから、貴族出身の料理人たちから、すごく酷い嫌がらせを受けたんだって」
「嫌がらせ……?」
「レシピを盗まれたり、大事な食材を隠されたり、失敗を全部兄貴のせいにされたり……。それでも、兄貴は歯を食いしばって頑張ってた。いつか、自分の腕一本で認めさせてやるんだって」
グルメアは、胸が締め付けられるような思いで、リコ-タの話を聞いていた。
あの朴訥な男が、そんな過酷な場所で、一人で戦っていたなんて。
「でも、決定的なことがあったの。ある大事な晩餐会で、兄貴の才能を妬んだ奴らが、兄貴が作ったソースに、こっそり毒にもならない薬草を混ぜたのよ」
「なんですって!?」
「もちろん、味が少しおかしくなるだけで、誰も気づかないような、ほんの少しの量よ。でも、その晩餐会には、舌の肥えた大貴族が来てた。ソースの味がおかしいって、大騒ぎになっちゃって……」
「……それで、マスカルのせいにされた、と」
「うん。誰も兄貴の言うことなんて信じてくれなかった。家柄もコネもない、平民の言うことなんてね。結局、兄貴はその責任を全部押し付けられて、王宮を追い出されたの」
リコッタは、悔しそうに拳を握りしめた。
「それ以来だよ。兄貴、すっかり夢を語らなくなった。料理は好きだから続けてるけど、もう一度、誰かと競ったり、上を目指したりすることは、諦めちゃったんだ」
マスカルが抱えていた、深い心の傷。
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それを知ったグルメアは、唇を強く噛みしめた。
自分も、その理不-尽な社会の、頂点にいた人間の一人だったのだ。
「……そうでしたのね」
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