婚約破棄された悪役令嬢は美味しい人生を手に入れた

夏乃みのり

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17話

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「お祭りですって?」

「そうだよ! 村で年に一度の収穫祭! 美味しいものがいっぱい出るし、夜には花火も上がるんだ!」

リコッタが、目を輝かせながら説明する。
グルメアは、ふんと鼻を鳴らした。

「平民のお祭りなど、興味ありませんわ。どうせ、芋を焼いて踊るくらいでしょう?」

「もう、グルメアさんは素直じゃないんだから! ほら、これ着てみてよ!」

リコッタが自信満々に差し出したのは、美しい藍色に染められた浴衣だった。
白や赤の椿の花が、上品にあしらわれている。

「……悪くありませんわね」

口ではそう言いつつも、初めて見る浴衣にグルメアの心は密かにときめいていた。
リコッタに手伝ってもらい、慣れない手つきで浴衣に袖を通す。
帯をきゅっと締めると、自然と背筋が伸びた。

「わあ……! グルメアさん、すっごく綺麗!」

「当然ですわ。わたくしが着るのですから」

そこへ、マスカルが部屋に入ってきた。
彼は、浴衣姿のグルメアを見ると、一瞬、言葉を失って固まった。

「……なんだ、それ」

「浴衣ですわよ。あなたこそ、その格好はなんですの」

マスカルも、いつもより少し上等な、紺色の甚平を着ていた。
その姿は、いつもより少しだけ、男の色気を感じさせる。

「……似合ってるじゃねえか」

ぽつりと呟かれた褒め言葉に、グルメアの顔がカッと熱くなった。

「あ、当たり前ですわ!」

その日のピザ屋は、お祭り仕様の特別営業だった。
マスカルが次々とピザを焼き、グルメアとリコッタが威勢よく売りさばく。
店は大繁盛で、あっという間に日も暮れた。

店じまいを終え、リコッタが「友達と回ってくるね!」と気を利かせて去っていくと、広場にはグルメアとマスカルの二人が残された。

「……少し、見て回りますか」

グルメアが、小さな声で提案する。

「ああ」

二人で、提灯の明かりが揺れる祭りの中を歩く。
射的の屋台では、グルメアが元貴族の意地と持ち前の集中力で、誰も倒せなかった一番大きな景品をいとも簡単に撃ち落とし、マスカルを驚かせた。

賑わう人混みの中、自然と二人の距離が近づく。
その時、マスカルが、そっとグルメアの手を握った。

「……!」

驚いて彼を見ると、マスカルは前を向いたまま、ぶっきらぼうに言った。

「……はぐれると、面倒だろ」

その手は、大きくて、硬くて、そしてとても温かかった。
グルメアは、何も言えずに、ただその手を弱く握り返した。

やがて、夜空に大きな音が響き、色とりどりの花火が打ち上がった。
パッと咲いては消える光の花が、二人の横顔を照らす。

「……別に、この手を離してもよろしくてよ」

心臓の音が聞こえてしまいそうで、グルメアはわざとそう言った。
すると、マスカルは、握る手に少しだけ力を込めて、答えた。

「いやだ」

「……え」

「俺が、離したくねえ」

その言葉は、どんな愛の囁きよりも、グルメアの心を強く揺さぶった。
夜空に咲き乱れる花火の音にかき消されそうなほど、彼女の心臓は大きく、そして甘く鳴り響いていた。
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