婚約破棄された悪役令嬢は美味しい人生を手に入れた

夏乃みのり

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18話

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祭りの翌日。
マスカルの様子が、朝からおかしかった。
顔は妙に赤いし、動きもどこか緩慢だ。

「マスカル、あなた、どうかなさいましたの?」

「……なんでもねえよ」

彼はそう言って、いつものように窯に火を入れようとした。
しかし、その体はぐらりと揺れ、その場に崩れ落ちそうになる。

「マスカル!」

グルメアは、悲鳴を上げて彼の体を支えた。
触れた体は、燃えるように熱かった。

「熱が……! あなた、熱がありますわ!」

「……大丈夫だ。祭りの、疲れが出ただけだ……」

弱々しく言うマスカルを、グルメアは半ば引きずるようにして寝台まで運び、無理やり横にさせた。

「医者ですわ! すぐに医者を呼ばないと!」

グルメアはパニックに陥り、家の外へ飛び出そうとした。

「待て……グルメア。ただの風邪だ。寝てりゃ治る」

「ですが!」

「リコッタは……?」

「妹君なら、今朝早くから隣町へお使いに行っていますわ。夕方まで戻らないと」

つまり、ここにいるのは、わたくしと、病人のマスカルだけ。
グルメアは、ゴクリと唾をのんだ。
わたくしが、彼を看病しなければならない。

「とにかく、体を冷やさないと……!」

グルメアはまず、井戸から冷たい水を汲んできた。
そして、手ぬぐいを浸し、固く絞って、マスカルの額に乗せる。

「……つめてぇ」

「我慢なさい!」

次に、滋養のあるものを食べさせなければ、と思い立った。
貴族が病の時に食べるのは、決まって栄養満点のコンソメスープだ。
だが、作り方など知るはずもない。

「そ、そうだわ! お粥ですわ!」

確か、平民は病の時にお粥を食べると、本で読んだことがある。
グルメアは、厨房に立つと、見様見真似で米を鍋に入れ、火にかけた。

しかし、数十分後。
厨房から立ち上ったのは、香ばしい匂いではなく、焦げ臭い煙だった。
鍋の中は、米だったものが無惨な黒い塊と化している。

「な……なぜですの……」

料理の難しさを、グルメアは改めて痛感した。
結局、何もできずに、ただマスカルのそばで、彼の額の手ぬぐいを何度も取り替えることしかできなかった。

「う……」

マスカルが、苦しそうにうめき声を上げる。
その額には、脂汗がびっしりと浮かんでいた。

その姿を見ていると、グルメアの胸に、たまらない不安と恐怖が押し寄せてきた。
もし、このまま彼がいなくなってしまったら?
もう、あの美味しいピザも、不器用な優しさも、大きな温かい手も、全て失ってしまうとしたら?

「……いや……いやですわ……!」

グルメアの瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
彼女は、眠るマスカルの手を、両手でぎゅっと握りしめた。

「あなたがいなくなったら、わたくしは……!」

「わたくしが、ついていますわ……絶対に、あなたを死なせたりしませんから……!」

その声は、震えていた。
意識が朦朧とする中で、マスカルは、自分のために涙を流し、必死に手を握りしめてくれる彼女の姿を、ぼんやりと見ていた。
頬を伝う涙の、その温かさを感じていた。
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