婚約破棄された悪役令嬢は美味しい人生を手に入れた

夏乃みのり

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21話

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「恋人になったからには、デートをするのが当然の義務ですわ!」

グルメアは、恋人関係になって三日目の朝、そう高らかに宣言した。

「でーと……?」

「ええ! 二人で街へ出かけ、楽しい時間を共有する、恋人たちの神聖な儀式ですわよ!」

「……隣町へ、チーズの買い出しに行く日だが」

「それですわ! それが、わたくしたちの初デートですのよ!」

グルメアにとって、買い出しだろうが何だろうが、マスカルと二人で出かける口実があれば、それで良かった。

その日、グルメアは、持っている中で一番マシなドレス──といっても、追放された時に着ていたもので、裾は擦り切れ、シミもいくつかある──を引っ張り出し、いつもより時間をかけて髪を結った。

マスカルも、心なしか、いつもより小綺麗なシャツを着ているように見える。

「……別に、あなたのためにオシャレをしたわけではありませんからね。デートという儀式に対する、最低限の礼儀ですわ」

「俺も、別に。このシャツがたまたま一番上にあっただけだ」

お互いに素直じゃない言葉を交わしながら、二人は馬車に乗って隣町へと向かった。
村よりもずっと大きく、活気のある街並みに、グルメアは物珍しそうに目を輝かせる。

「すごい人ですわね……」

「ああ。あんまり離れるなよ」

賑やかな市場で、グルメアはマスカルの服の袖を、ぎゅっと指先で掴んだ。

「……は、はぐれてはいけませんからね! あなたが迷子になったら、わたくしが困りますし!」

その必死な言い訳が、マスカルにはたまらなく愛おしく思えた。
彼は、何も言わずに、グルメアのその手を、自分の大きな手でそっと包み込んだ。

「……!」

グルメアの手が、びくりと震える。
マスカルは、そんな彼女の顔を見ずに、前を向いたまま言った。

「だな。これなら、はぐれねえだろ」

心臓がうるさい。
繋がれた手から、彼の体温が伝わってくる。
市場の喧騒も、色とりどりの商品も、もう目に入らない。
ただ、この温かい感触だけが、グルメアの全てだった。

無事に買い物を終え、二人は夕暮れの道を、村へと帰る。
夕日を背に、並んで歩く影が二つ、長く伸びていた。
繋いだ手は、どちらからともなく、指を絡ませあっていた。

「……マスカル」

「ん?」

「手……。もっと、ちゃんと繋いでもよろしくてよ?」

「もう、ちゃんと繋いでるだろ」

「違いますわ! もっと、こう……恋人らしく、ですわ! 恋愛小説によりますと、『恋人繋ぎ』という、より親密な手の繋ぎ方があるそうですのよ! わたくし、それを要求します!」

グルメアが、顔を真っ赤にしながらも、必死に要求する。
マスカルは、一瞬きょとんとした後、くつくつと喉を鳴らして笑った。

「あんたは、本当に面白いな」

そう言うと、彼は絡めた指にさらに力を込め、グルメアの手を強く、優しく握りしめた。
それは、彼女が本で読んだ「恋人繋ぎ」そのものだった。
初めてのデートは、甘い夕焼けの光に包まれて、終わろうとしていた。
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