婚約破棄された悪役令嬢は美味しい人生を手に入れた

夏乃みのり

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22話

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隣町からの帰り道。
村の入り口が見えてきたところで、マスカルは「ちょっと待ってろ」と言って、馬車を止めた。
そして、手際よく、移動式の窯に火を入れ始めた。

「まあ、マスカル。まだ仕事をするのですか? 働き者ですわね」

「仕事じゃねえよ」

グルメアが不思議そうに見ていると、マスカルは買い込んできたばかりの食材ではなく、別の袋から、いくつかの果物や、香ばしく煎られたナッツを取り出した。

彼が作り始めたのは、いつものピザではなかった。
薄く伸ばした生地の上に、チーズの代わりにクリーム状の何かを塗り、薄切りにした林檎や、木苺、そして砕いたナッツをたっぷりと散らしていく。
仕上げに、グルメアが市場で見つけた、極上の蜂蜜をとろりとかけた。

甘く、芳醇な香りが、夕暮れの空気に広がっていく。
窯で短時間だけ焼かれたそれは、まさしく「デザートピザ」と呼ぶにふさわしい一品だった。

「ほらよ」

マスカルは、少し照れくさそうに、焼きあがったデザートピザをグルメアに差し出した。

「今日の、礼だ」

「礼……?」

「あんたといると、こういう、甘ったるいもんも作りたくなるんだ。不思議とな」

その言葉は、どんな甘い台詞よりも、グルメアの心を溶かした。
彼女は、差し出された一切れを、そっと受け取る。
熱々の生地に、甘酸っぱい果実、そしてとろけるクリームと蜂蜜の優しい甘さ。

一口食べた瞬間、グルメアの瞳が、驚きと感動に見開かれた。

「……美味しい」

シャリっとした林檎の食感。ぷちりと弾ける木苺の酸味。ナッツの香ばしさ。
そして、それら全てを包み込む、蜂蜜とクリームの、どこまでも優しい甘さ。
それは、幸せをそのまま形にしたような味だった。

「……美味しいですわ、マスカル」

気づけば、グルメアの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちていた。
追放されて、全てを失ったと思っていた。
でも、今はどうだろう。
自分のために、こんなに温かくて甘い料理を作ってくれる人が、隣にいる。
手を繋いでくれる人が、いる。

「今まで食べた、どんな豪華なデザートよりも……一番、美味しいですわ……」

グルメアは、泣きながら、そして笑いながら、夢中でデザートピザを頬張った。
その甘さは、まさしく、二人の今の関係そのものだった。
これ以上ないほどの幸福感に包まれ、グルメアは、この時間が永遠に続けばいいと、心の底から願った。
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