婚約破棄された悪役令嬢は美味しい人生を手に入れた

夏乃みのり

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23話

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その頃、遥か離れた王都では、優雅なティーパーティーが開かれていた。
集まった貴婦人たちの話題は、もっぱらゴシップだ。

「まあ、お聞きになって? カーネル侯爵家の、あのグルメア様のことですわ」

「ああ、あの『悪役令嬢』! 王子殿下に婚約破棄され、追放されたという……」

「ええ。そのグルメア様が、なんでも、辺鄙な田舎の村で、平民の男と暮らしていらっしゃるそうですわよ」

「まあ! 落ちぶれたものですこと!」

「なんでも、ピザ屋の男だとか。きっと、その美貌で誑かしているに違いありませんわ。お可哀想な、その平民の男も……」

クスクスと、扇の影で嘲笑が漏れる。
その会話を、テーブルの隅で、聖女リーネとオルト王子が聞いていた。

リーネは、悲しそうな顔を作って、カップを置いた。

「まあ、グルメア様が……。お可哀想に。きっと、慣れない暮らしで苦労なさっているのでしょうね」

その言葉とは裏腹に、彼女の瞳の奥には、愉悦の色が浮かんでいた。
自分を虐げた(と彼女は思っている)女の、惨めな末路。これほど気分のいい話はない。

一方、オルト王子は、不機嫌そうに眉を寄せていた。

「……ピザ屋の男だと?」

一度は自分が捨てた女。
今頃、どこかで惨めに泣き暮らしていると思っていた。
それなのに、他の男と、それも卑しい平民の男と、幸せそうに暮らしているかもしれない。
それは、オルトのちっぽけなプライドを、ひどく傷つけた。

まるで、自分が捨てた玩具を、他の誰かが拾って、楽しそうに遊んでいるのを見せつけられたような不快感。

「許せん……」

ぽつりと、王子が呟いた。

「え? 何か仰いましたか、王子殿下?」

リーネが、にこやかに問いかける。

「……いや、何でもない」

オルトは、興味なさげにそう答えながらも、頭の中では、グルメアと見知らぬ平民の男の姿が渦巻いていた。
あの傲慢で、美しい女が、自分以外の男に微笑みかけている。
それを想像しただけで、腹の底が煮えくり返るようだった。

「……なあ」

オルトは、近くにいた侍従を呼び寄せ、低い声で尋ねた。

「その村とやらは、どこにあるのだ?」

聖女リーネは、そんな王子の横顔を、値踏みするような目で見つめていた。
彼女は、このつまらない王子が、また何か面倒事を起こしそうな予感がして、内心、ほくそ笑んでいた。
他人の不幸は、最高の娯楽なのだから。

グルメアたちの知らないところで、過去の亡霊が、ゆっくりとその鎌首をもたげ始めていた。
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