婚約破棄された悪役令嬢は美味しい人生を手に入れた

夏乃みのり

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24話

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村での日々は、相も変わらず、穏やかに過ぎていた。
マスカルとの関係が「恋人」になってからというもの、グルメアの世界は、キラキラと輝いて見えた。

二人で、あのデザートピザのレシピを改良したり。
「恋人なら、お互いを『あーん』とさせて食べさせるのが嗜みですわ!」「絶対に嫌だ」などという、くだらない言い合いをしたり。
里帰りから帰るリコッタに、「兄貴のこと、よろしくね! この朴念仁!」と、恋人関係を盛大にからかわれたり。

その全てが、グルメアにとっては宝物のような時間だった。

その日も、いつもと変わらない、平和な午後だった。
ピザ屋の店じまいを二人でしていると、村の入り口の方が、にわかに騒がしくなっているのに気づいた。

「なんだろうな」

「さあ……? 何かのお触れでも出たのかしら」

村人たちが、何かを恐れるように、あるいは好奇の目で見つめるその先から、一台の馬車が、ゆっくりと広場へ入ってきた。

その馬車を見て、グルメアは息を呑んだ。
泥道を走ってきたとは思えないほど、見事に磨き上げられた黒塗りの車体。
それを引くのは、毛並みの揃った純白の馬が二頭。
そして、その扉に刻まれているのは──まごうことなき、王家の紋章だった。

なぜ、こんな村に、王家の馬車が?

村人たちのざわめきの中、御者台から降りてきた従者が、恭しく馬車の扉を開けた。
中から現れたのは、糊のきいた豪奢な制服に身を包んだ、細身で、冷たい目をした侍従だった。

侍従は、集まった村人たちをゴミでも見るかのような目で見渡すと、やがて、店の前で立ち尽くすグルメアの姿を捉えた。

彼は、一分の隙もない動きでグルメアの前へと進み出ると、優雅に、しかし感情のこもらない声で言った。

「ようやくお会いできましたな」

その声に、グルメアは最悪の予感を覚えた。
マスカルが、怪訝な顔でグルメアの前に立つ。

「……あんた、誰だ。こいつに、何か用か」

侍従は、マスカルを一瞥すると、鼻で笑った。

「平民は引っ込んでいろ。これは、貴族様同士の話だ」

そして、彼は再びグルメアに向き直り、一枚の封蝋された手紙を突きつけた。

「グルメア・カーネル様。我が主、オルト・フォン・アルフレッド王子殿下より、貴女へのお達しである」

オルト王子。
その名を聞いた瞬間、グルメAの血の気が引いた。
忘れたかった過去。断ち切ったはずの因縁。
それが、最も来てほしくない形で、この幸せな場所にまで追いかけてきた。

侍従の冷たい声が、まるで終わりの鐘のように、村の広場に響き渡った。
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