天才すぎる王子様を愛でるには、婚約者の座は邪魔なのです!

夏乃みのり

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「レディース・アンド・ジェントルメン! そして国王陛下! ようこそ『星降るフェスティバル』へ!」

王宮の広場に、私の絶叫が響き渡った。

本来なら、厳かな聖歌が流れ、神官たちが祈りを捧げているはずの時間。

しかし今、目の前に広がっているのは――。

極彩色のライトが飛び交う巨大ステージ。

「焼きそば」「綿あめ」と書かれた屋台の列。

そして、困惑しきった表情でペンライト(強制配布)を握らされている貴族たちの姿だ。

「……なんだ、これは」

最前列の特等席で、バゲット国王陛下が呆然としている。

隣にいるサヴァラン様は、すでに「祭」と書かれた法被を着て、ノリノリでペンライトを振る準備をしている。

「さあ、始めましょう! まずはオープニングアクト! 地獄からの使者、ヘヴィメタルバンド『デス・レクイエム』の登場よ!」

ドカーン!!

爆発音とともに、白塗りのメイクをした男たちがステージに現れた。

「ヒャッハー! 祈れ! 叫べ! 神なんていねえええ!」

ギャギャギャギャーン!!

歪んだギターの音が、神聖な広場の空気を切り裂く。

貴族たちが「ひぃっ!」と耳を塞ぐ。

「素晴らしいわ! もっと不快な音を出しなさい!」

私は舞台袖でガッツポーズをした。

これだ。

この騒音こそが、伝統への冒涜!

陛下も顔をしかめている。

これは間違いなく「不合格」! 即刻中止&国外追放よ!

「……お嬢様」

音響機材を操作しているクロワッサンが、ヘッドセット越しに話しかけてきた。

「彼らの歌詞、よく聞いてください」

「え?」

私は耳を澄ませた。

『♪……神なんていねえ……なんて嘘さ……本当は感謝してるぜ……My God……』

『♪……先祖が切り拓いたこの大地……俺たちは守り抜く……Blood & Soul……』

「……は?」

デスボイスで何を言っているか聞き取りにくかったが、よく聞くと歌詞がめちゃくちゃ真面目だ。

「な、なんで!? 『地獄へ落ちろ』とか歌うんじゃないの!?」

「彼ら、見た目は怖いですが、普段は日曜学校で子供たちに歌を教えている敬虔な信徒ですので」

クロワッサンが淡々と説明する。

「この儀式のために、建国の歴史をメタル調にアレンジした新曲を作ってきたそうです」

「余計なことをぉぉぉ!」

ステージでは、ボーカルが涙ながらにシャウトしている。

『♪……初代国王の苦悩……それを支えた王妃の愛……尊い……尊すぎるぜぇぇぇ!』

観客席の貴族たちが、ポカンとしていた手を止め、次第に涙を拭い始めた。

「……なんて魂の叫びだ」

「初代様の苦労が、重低音と共に心臓に響く……」

「これが……現代の聖歌なのか……!」

まさかの感動の渦。

陛下までもが、リズムに合わせてペンライトを振り始めている。

「……くっ、まだよ! 音楽くらいで絆されたら困るわ!」

私は気を取り直した。

ここまでは前座。

本番はこれからだ。

「続いてはメインイベント! 『星降る』儀式のクライマックスよ!」

私はステージ中央の赤いボタンに手をかけた。

「古来より、この儀式では空から『星』が降ると言われています……。さあ、現代の星をその身に受けなさい!」

私はボタンを押し込んだ。

ポチッ。

その瞬間。

上空に設置された巨大なネットが開き、中から大量の物体が落下した。

キラキラ光る星?

いいえ。

金色の、金属製の、巨大なタライだ。

「落ちろおおおお! 物理的な衝撃で目を覚ませええええ!」

ヒュオオオオオ……。

数百個の金ダライが、重力に従って観客席(特に陛下の頭上)へと降り注ぐ。

これぞテロ。

これぞ不敬の極み。

陛下にタライが直撃すれば、私は確実に処刑……じゃなくて追放だ!

「――させないよ」

涼やかな声が聞こえた。

サヴァラン様だ。

彼は法被姿のまま、優雅に指をパチンと鳴らした。

「展開せよ。風の結界(ウインド・シールド)」

フワッ。

陛下の頭上数センチのところで、タライがピタリと静止した。

それだけではない。

広場全体に見えない膜が張られ、全てのタライが空中で停止する。

「えっ、止めた?」

「ただ止めるだけじゃないさ」

サヴァラン様は、指揮者のように手を振った。

「演奏開始だ」

カァァァァン!!

一番大きなタライが、見えないハンマーで叩かれたような澄んだ音を立てた。

それを合図に。

キン! コーン! カーン! シャラララーン!

空中に浮かんだ数百個のタライが、互いにぶつかり合い、あるいは風に弾かれ、美しい旋律を奏で始めたのだ。

それはまるで、巨大なカリヨンのような、あるいは天上の鐘のような音色だった。

「な、なにこれ……?」

「美しい……」

「空から星の音が降ってくるようだ……」

貴族たちが空を見上げてうっとりしている。

金ダライが夕日を反射してキラキラと輝き、その乱反射が本当に「降る星」のように見える。

「まさか……タライを楽器にするなんて……!」

私は膝から崩れ落ちた。

「計算外よ……! ただの鈍器が、芸術作品になるなんて!」

サヴァラン様がステージに上がり、私の隣に立った。

そして、マイクを通して語りかけた。

「皆の者、聞いたか! これぞブリオッシュが考案した新儀式、『厄災を音に変える祈り』である!」

「はい?」

「タライとは、本来『汚れを落とす』道具! それを空から降らせることは、『国中の厄災を洗い流す』という浄化のメタファー! そして、それが頭上で止まり、美しい音色に変わることで、『危機を芸術(平和)に変える』という我が国の外交方針を表現しているのだ!」

「……」

会場が静まり返る。

そして。

「おおおおおおお!!」

割れんばかりの歓声が爆発した。

「なんて深い意味が!」

「タライにそんな哲学が!」

「ブリオッシュ様、万歳!」

陛下が立ち上がり、ゆっくりと拍手をした。

「……見事だ」

「へ、陛下?」

「伝統とは、守るものではなく進化させるもの。……そなたは、形式に囚われた我々の目を覚まさせてくれた」

陛下は満足げに頷いた。

「ロックで魂を鼓舞し、タライで厄を払う。……実に愉快で、実に力強い儀式であった! 合格だ、ブリオッシュ!」

「合格ぅぅぅ!?」

「そなたの追放処分は取り消す! 褒美として、来年の予算を倍増させよう! もっと派手にやってくれ!」

「いらないですぅぅぅ!」

私はステージの上で泣き崩れた。

頭上では、まだタライたちが「キンコーン♪」と祝福の音色を奏でている。

うるさい。

幸せな音がうるさい。

「……おめでとう、ブリオッシュ」

サヴァラン様が、私の肩を抱いた。

「君のおかげで、最高の記念日になったよ」

「……サヴァラン様」

私は涙目で彼を睨んだ。

「魔法使うのは反則ですわ」

「君がタライを落とすのは想定内だったからね。……リハーサルしておいてよかったよ」

彼はウィンクした。

「さて、フェスの締めくくりだ。……僕とデュエットでもどうだい?」

「絶対嫌です!」

「じゃあ、漫才にする?」

「もっと嫌です!」

結局。

私はサヴァラン様と共に、タライの鐘が鳴り響く中、観衆に向かって手を振り続ける羽目になった。

『悪役令嬢プロデュース・星降るフェス』。

結果:大成功。

観客動員数過去最多。

国王陛下の満足度星5つ。

私の「悪役度」……測定不能(聖女レベルMAX)。

「……もう、疲れた」

ステージの裏で、私は燃え尽きた灰のように座り込んだ。

これ以上、何をすればいいの?

神様すら味方につけるこの国で、私が悪になるなんて不可能なの?

その時。

「……素晴らしい演出でした」

背後から、凛とした女性の声がした。

「え?」

振り返ると、そこには見知らぬ美女が立っていた。

銀色の髪に、紫色の瞳。

どこか浮世離れした雰囲気を持つ彼女は、静かに微笑んでいた。

「あなたは……?」

「はじめまして。隣国の聖女、ヴィオレットと申します」

聖女?

本物の?

「あなたの噂を聞いて、視察に参りました。……タライで人を救うなんて、私には思いつきませんでしたわ」

彼女は私の手を取り、目を細めた。

「あなたには……『素質』がありますね」

「素質?」

「ええ。……世界を壊す、魔女の素質が」

ドキリとした。

聖女が、私に魔女の素質があると言った?

「どういう意味ですか?」

「ふふ、いずれ分かりますわ」

ヴィオレットと名乗った聖女は、意味深な言葉を残して人混みへと消えていった。

新たなフラグ。

新たな予感。

私の「悪役令嬢計画」は、まだ終わらない。

……いや、終わらせてくれない何かが、この世界にはあるみたいだ。

(とりあえず、頭上のタライを片付ける費用はサヴァラン様のポケットマネーから出してもらった)
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