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「待てぇぇぇい!!」
王宮の裏口にある馬車止め。
シズルの用意した漆黒の豪華な馬車に乗り込もうとしたその時、背後から悲鳴のような怒号が飛んできた。
メモリーが面倒くさそうに振り返ると、そこには肩で息をするアラン王子と、遅れて走ってきたリリナの姿があった。
「はぁ、はぁ……! 逃がさんぞメモリー! 私の目を盗んで、こそこそと逃亡を図るとは!」
「逃亡? いいえ、転職ですわ」
メモリーはキョトンとして答える。
手には、厨房から拝借したスティック野菜(生)が握られている。
「黙れ! 隣国の公爵に連れ出されるなど……さては、国外追放されるのが怖くて、彼に泣きついて亡命を頼んだな!?」
アラン王子は、隣に立つシズルを睨みつけた。
「クリムゾン公爵! 騙されてはいけない。その女は、食べ物のためなら平気で嘘をつく、意地汚い悪女だ!」
「……ほう」
シズルは無表情のまま、少し楽しそうにメモリーを見下ろした。
どうやら「元婚約者がどう対応するか」を見物するつもりらしい。
性格が悪い。
「アラン殿下。想像力が豊かでいらっしゃいますね。小説家になられてはいかがです?」
「ふん、強がるな。本当はショックで泣きたいのだろう?」
王子は勝ち誇ったように髪をかき上げた。
「だが、私も鬼ではない。長年のよしみだ。……もし、貴様がここで地面に額をこすりつけ、涙を流して『愛しています、捨てないで』と懇願するなら!」
王子は溜めを作り、リリナの手を握りながら宣言した。
「婚約破棄は撤回しないが、リリナのメイドとして城に置くことくらいは許してやろう!」
「きゃあ、アラン様お優しい~! 私、メモリー様にお掃除を教えて差し上げますぅ」
二人は自分たちの世界に浸っている。
周囲の衛兵たちも、あまりの茶番に目を逸らしていた。
メモリーは無言でポリポリと野菜スティックを齧った。
「(……長い。話が長いし、中身がない。まるで水で薄めすぎたスープですわ)」
彼女の思考は、すでにシズルの屋敷で出されるであろう夕食に向いていた。
早く行かないと、シェフが帰ってしまうかもしれない。
「おい、聞いているのか! 返事をしろ!」
痺れを切らした王子が叫ぶ。
メモリーは「ああ、まだいたのですね」という顔で、懐をごそごそと探った。
「アラン殿下。私の答えはこれです」
彼女が差し出したのは、一本の立派なニンジンだった。
厨房の片隅にあった、「馬のエサ用」と書かれた箱から無意識に掴んできたものだ。
泥付きで、野性味あふれる一本である。
「……は? なんだこれは」
「餞別(せんべつ)です」
メモリーはニッコリと笑った。
それは慈愛に満ちた、聖母のような微笑みだった。
「殿下。貴方様のお話は、とても素晴らしいものでした。ですが、私にはその慈悲を受け取る資格がありません」
「そ、そうか。やはり反省して……」
「いいえ。貴方様のその溢れ出るナルシシズムと勘違いを受け止めるには、私の胃袋は小さすぎます」
メモリーは王子の手に、強引にニンジンを握らせた。
「お腹が空くと、人はイライラして判断力が鈍るそうです。今の殿下に必要なのは、私の謝罪ではなく、ベータカロテンですわ」
「はぁ!? べーた……なんだと!?」
「皮ごと齧るのがおすすめです。歯ごたえがあって、イライラ解消にぴったりですよ。では、ごきげんよう!」
言い逃げである。
メモリーは素早く身を翻し、シズルの馬車へと飛び乗った。
「ちょ、待て! 貴様、私を馬扱いしたな!?」
王子の抗議の声が響くが、時すでに遅し。
シズルも優雅に乗り込むと、御者に合図を送った。
「出せ」
「はいっ!」
鞭の音が響き、馬車が動き出す。
取り残されたアラン王子は、呆然と立ち尽くしていた。
その手には、泥付きのニンジンが一本、虚しく握られている。
「……アラン様ぁ、そのニンジン、どうするんですかぁ?」
「う、うるさい! ……捨てろ! いや、待て……くそっ、なんか旨そうな匂いがするじゃないか……!」
実はそのニンジンも、王宮御用達の最高級農園で採れた特級品だったのだ。
食い意地の張ったメモリーが選んだものに、ハズレはないのである。
***
馬車の中。
窓の外へ遠ざかる王宮を見ながら、メモリーは大きく伸びをした。
「ふぅ……やっと解放されました。これでもう、ドレスのサイズを気にしてコルセットを締め上げる必要もありませんわ!」
対面に座るシズルが、肩を震わせて笑っていた。
「くくっ……ははは! 傑作だったぞ、メモリー」
氷の公爵が、声を上げて笑っている。
その姿は年相応の青年のようで、意外と親しみやすい。
「元婚約者に『馬のエサ』を渡して去る令嬢など、前代未聞だ」
「あら、失礼な。あれは最高級の甘味ニンジンですよ? 私が自分のおやつにしようか迷って、泣く泣く差し上げたのです」
「君にとっては、宝石よりも野菜の方が価値が高いようだな」
「当然です。宝石は食べられませんが、野菜は私の血肉になりますから」
メモリーは真顔で答える。
シズルは楽しげに目を細め、組んだ足を組み替えた。
「気に入った。やはり君は面白い。……さて、我が屋敷までは一時間ほどだ」
「一時間……。空腹で餓死するには十分な時間ですわね」
メモリーが深刻な顔で腹部を押さえる。
するとシズルは、馬車の備え付けの棚を開けた。
そこには、焼き菓子やドライフルーツがぎっしりと詰まった小瓶が並んでいた。
「当面の『燃料』だ。好きなだけ食え」
「……!」
メモリーの目が、この日一番の輝きを見せた。
「シズル様! 貴方様は神ですか? それとも食の神の使いですか!?」
「ただの雇い主だ。……さあ、食べて見せろ。俺の食欲を刺激してくれ」
「仰せのままに!」
メモリーはクッキーの瓶に手を伸ばす。
王都を走る馬車の中、サクサクという軽快な音が響き渡る。
それは、メモリーの新しい人生――「美味しくて幸せな日々」の始まりを告げるファンファーレのようだった。
一方、王宮では。
「なんか悔しいから食べてやる!」と涙目でニンジンを齧ったアラン王子が、「……甘い!」と感動してしまい、余計にプライドが傷つくという二次被害が発生していた。
王宮の裏口にある馬車止め。
シズルの用意した漆黒の豪華な馬車に乗り込もうとしたその時、背後から悲鳴のような怒号が飛んできた。
メモリーが面倒くさそうに振り返ると、そこには肩で息をするアラン王子と、遅れて走ってきたリリナの姿があった。
「はぁ、はぁ……! 逃がさんぞメモリー! 私の目を盗んで、こそこそと逃亡を図るとは!」
「逃亡? いいえ、転職ですわ」
メモリーはキョトンとして答える。
手には、厨房から拝借したスティック野菜(生)が握られている。
「黙れ! 隣国の公爵に連れ出されるなど……さては、国外追放されるのが怖くて、彼に泣きついて亡命を頼んだな!?」
アラン王子は、隣に立つシズルを睨みつけた。
「クリムゾン公爵! 騙されてはいけない。その女は、食べ物のためなら平気で嘘をつく、意地汚い悪女だ!」
「……ほう」
シズルは無表情のまま、少し楽しそうにメモリーを見下ろした。
どうやら「元婚約者がどう対応するか」を見物するつもりらしい。
性格が悪い。
「アラン殿下。想像力が豊かでいらっしゃいますね。小説家になられてはいかがです?」
「ふん、強がるな。本当はショックで泣きたいのだろう?」
王子は勝ち誇ったように髪をかき上げた。
「だが、私も鬼ではない。長年のよしみだ。……もし、貴様がここで地面に額をこすりつけ、涙を流して『愛しています、捨てないで』と懇願するなら!」
王子は溜めを作り、リリナの手を握りながら宣言した。
「婚約破棄は撤回しないが、リリナのメイドとして城に置くことくらいは許してやろう!」
「きゃあ、アラン様お優しい~! 私、メモリー様にお掃除を教えて差し上げますぅ」
二人は自分たちの世界に浸っている。
周囲の衛兵たちも、あまりの茶番に目を逸らしていた。
メモリーは無言でポリポリと野菜スティックを齧った。
「(……長い。話が長いし、中身がない。まるで水で薄めすぎたスープですわ)」
彼女の思考は、すでにシズルの屋敷で出されるであろう夕食に向いていた。
早く行かないと、シェフが帰ってしまうかもしれない。
「おい、聞いているのか! 返事をしろ!」
痺れを切らした王子が叫ぶ。
メモリーは「ああ、まだいたのですね」という顔で、懐をごそごそと探った。
「アラン殿下。私の答えはこれです」
彼女が差し出したのは、一本の立派なニンジンだった。
厨房の片隅にあった、「馬のエサ用」と書かれた箱から無意識に掴んできたものだ。
泥付きで、野性味あふれる一本である。
「……は? なんだこれは」
「餞別(せんべつ)です」
メモリーはニッコリと笑った。
それは慈愛に満ちた、聖母のような微笑みだった。
「殿下。貴方様のお話は、とても素晴らしいものでした。ですが、私にはその慈悲を受け取る資格がありません」
「そ、そうか。やはり反省して……」
「いいえ。貴方様のその溢れ出るナルシシズムと勘違いを受け止めるには、私の胃袋は小さすぎます」
メモリーは王子の手に、強引にニンジンを握らせた。
「お腹が空くと、人はイライラして判断力が鈍るそうです。今の殿下に必要なのは、私の謝罪ではなく、ベータカロテンですわ」
「はぁ!? べーた……なんだと!?」
「皮ごと齧るのがおすすめです。歯ごたえがあって、イライラ解消にぴったりですよ。では、ごきげんよう!」
言い逃げである。
メモリーは素早く身を翻し、シズルの馬車へと飛び乗った。
「ちょ、待て! 貴様、私を馬扱いしたな!?」
王子の抗議の声が響くが、時すでに遅し。
シズルも優雅に乗り込むと、御者に合図を送った。
「出せ」
「はいっ!」
鞭の音が響き、馬車が動き出す。
取り残されたアラン王子は、呆然と立ち尽くしていた。
その手には、泥付きのニンジンが一本、虚しく握られている。
「……アラン様ぁ、そのニンジン、どうするんですかぁ?」
「う、うるさい! ……捨てろ! いや、待て……くそっ、なんか旨そうな匂いがするじゃないか……!」
実はそのニンジンも、王宮御用達の最高級農園で採れた特級品だったのだ。
食い意地の張ったメモリーが選んだものに、ハズレはないのである。
***
馬車の中。
窓の外へ遠ざかる王宮を見ながら、メモリーは大きく伸びをした。
「ふぅ……やっと解放されました。これでもう、ドレスのサイズを気にしてコルセットを締め上げる必要もありませんわ!」
対面に座るシズルが、肩を震わせて笑っていた。
「くくっ……ははは! 傑作だったぞ、メモリー」
氷の公爵が、声を上げて笑っている。
その姿は年相応の青年のようで、意外と親しみやすい。
「元婚約者に『馬のエサ』を渡して去る令嬢など、前代未聞だ」
「あら、失礼な。あれは最高級の甘味ニンジンですよ? 私が自分のおやつにしようか迷って、泣く泣く差し上げたのです」
「君にとっては、宝石よりも野菜の方が価値が高いようだな」
「当然です。宝石は食べられませんが、野菜は私の血肉になりますから」
メモリーは真顔で答える。
シズルは楽しげに目を細め、組んだ足を組み替えた。
「気に入った。やはり君は面白い。……さて、我が屋敷までは一時間ほどだ」
「一時間……。空腹で餓死するには十分な時間ですわね」
メモリーが深刻な顔で腹部を押さえる。
するとシズルは、馬車の備え付けの棚を開けた。
そこには、焼き菓子やドライフルーツがぎっしりと詰まった小瓶が並んでいた。
「当面の『燃料』だ。好きなだけ食え」
「……!」
メモリーの目が、この日一番の輝きを見せた。
「シズル様! 貴方様は神ですか? それとも食の神の使いですか!?」
「ただの雇い主だ。……さあ、食べて見せろ。俺の食欲を刺激してくれ」
「仰せのままに!」
メモリーはクッキーの瓶に手を伸ばす。
王都を走る馬車の中、サクサクという軽快な音が響き渡る。
それは、メモリーの新しい人生――「美味しくて幸せな日々」の始まりを告げるファンファーレのようだった。
一方、王宮では。
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