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「シズル様、見てください! あそこに『歩く巨大キノコ』が群れをなしています!」
北の山脈、その中腹。
険しい山道を登る一行の中で、メモリーの弾んだ声が響いた。
彼らが目指すのは、山頂付近にあるダンジョンの入り口。
護衛の騎士たちが警戒を強める中、メモリーだけはピクニック気分で目を輝かせている。
「……あれは『マタンゴ・ソルジャー』だ。毒の胞子を撒き散らす危険な魔物だぞ」
シズルが剣の柄に手をかけながら警告する。
しかし、メモリーはリュックから網とトングを取り出した。
「毒? 加熱すれば無毒化するタイプですわね。傘の部分が肉厚で、軸が白い……あれは間違いなく、バターソテーにするとアワビのような食感になる『極上エリンギ』の亜種です!」
「……君にはあれがエリンギに見えるのか?」
「見えます。私には、彼らの背中に『私をバター醤油で炒めて』という値札が貼ってあるように見えます!」
ズザザッ!
メモリーが斜面を滑り降りる。
騎士たちが「ああっ! メモリー様が自殺行為を!」と叫ぶが、それは杞憂だった。
「キエェェ!」
マタンゴが襲いかかるが、メモリーはひらりと躱し、トングで正確に『石突き(根元)』を挟んだ。
「捕獲! さあ、観念なさい!」
ジュッ。
即座に携帯コンロ(魔法石式)で炙り始める。
「キ……キノ……?」
魔物は状況が理解できないまま、香ばしいバターの香りに包まれて昇天した。
***
数時間後。
一行は中腹の広場で野営(ランチ休憩)をとることになった。
「いただきます!」
騎士たちの前には、メモリー特製の『マタンゴと森のハーブのクリームパスタ』が配られている。
恐る恐る口にした騎士団長が、カッと目を見開いた。
「う、美味い……! なんだこの歯応えは! 本当にキノコか!?」
「毒など微塵も感じません! むしろ、食べた瞬間から力が湧いてくるようです!」
「でしょう? ダンジョンの魔物は魔力をたっぷり蓄えていますから、滋養強壮に最適なのです」
メモリーは得意げに説明し、自分も大盛りパスタを吸い込んだ。
「ん~っ! 濃厚なクリームにキノコの出汁が溶け込んで……歩く疲れも吹き飛びますわ!」
隣で食べているシズルも、満足げにフォークを動かしている。
「……常識が崩れていくな。だが、悪くない」
シズルはナプキンで口を拭い、遠くの峰を見上げた。
「この調子なら、ドラゴンの肉も期待できそうだ。……伝説では、その肉は『食べる者の願いを叶える』とも言われているが」
「願い、ですか?」
メモリーが首を傾げる。
「はい。不老不死とか、万能の魔力とか」
「ふむ……。私の願いは『太らない体質』一択ですわね」
「……君らしいな」
シズルは微笑み、ふと真面目な顔になった。
「私は……そうだな。『愛する者と、明日も同じ食卓を囲むこと』。それが叶えば十分だ」
「シズル様……」
なんて謙虚で、素敵な願いなのだろう。
メモリーは胸がキュンとした。
(つまり、明日の朝ごはんの献立も私に任せたいということですね! 責任重大です!)
「任せてください! ドラゴンを狩ったら、最高のステーキにして、明日も明後日も一緒に食べましょう!」
「ああ。約束だ」
二人が指切りをしようとした、その時。
ギャァァァァァァァ!!!
上空から、鼓膜を引き裂くような咆哮が轟いた。
巨大な影が、太陽を遮る。
「て、敵襲ーッ!!」
騎士が叫ぶ。
見上げれば、翼長10メートルはあろうかという巨大な怪鳥――『ロックバード』が、鋭い爪を立てて急降下してきていた。
「で、でかい……! あんなのどうやって倒すんだ!?」
騎士たちが狼狽える中、メモリーだけが恍惚の表情で涎を拭った。
「シズル様……! あれは……!」
「ああ、強敵だ。下がっていろメモリー!」
「違います! あれは、一羽で50人前の唐揚げができる『空飛ぶ鶏肉』です!!」
メモリーはリュックから、ゴルド商会から押収した『特大スパイスボトル』と『業務用小麦粉』を取り出した。
「唐揚げの下味は、醤油とニンニク、そして生姜! 揉み込む時間がないのが残念ですが、揚げたてにスパイスをかければ問題ありません!」
「……君はあの怪鳥を『揚げる』つもりなのか?」
「当然です! あんなに立派なモモ肉、放置するなんて国家の損失ですわ!」
メモリーはフライパン(武器)を構え、叫んだ。
「総員、戦闘準備! ……ではなく、調理準備! 油の温度を180度に上げてください! 今夜のメインディッシュが落ちてきますよー!!」
もはや魔物討伐ではない。
これは命がけの『仕入れ』である。
シズルは剣を抜き、楽しそうに笑った。
「やれやれ。……花嫁の望みとあらば、落としてやるか」
一閃。
氷の刃が空を切り裂き、巨大な食材が地上へと舞い降りる。
この日、山脈に漂った『巨大唐揚げ』の香ばしい匂いは、麓の村まで届き、「山の神が宴会をしている」と伝説になったという。
北の山脈、その中腹。
険しい山道を登る一行の中で、メモリーの弾んだ声が響いた。
彼らが目指すのは、山頂付近にあるダンジョンの入り口。
護衛の騎士たちが警戒を強める中、メモリーだけはピクニック気分で目を輝かせている。
「……あれは『マタンゴ・ソルジャー』だ。毒の胞子を撒き散らす危険な魔物だぞ」
シズルが剣の柄に手をかけながら警告する。
しかし、メモリーはリュックから網とトングを取り出した。
「毒? 加熱すれば無毒化するタイプですわね。傘の部分が肉厚で、軸が白い……あれは間違いなく、バターソテーにするとアワビのような食感になる『極上エリンギ』の亜種です!」
「……君にはあれがエリンギに見えるのか?」
「見えます。私には、彼らの背中に『私をバター醤油で炒めて』という値札が貼ってあるように見えます!」
ズザザッ!
メモリーが斜面を滑り降りる。
騎士たちが「ああっ! メモリー様が自殺行為を!」と叫ぶが、それは杞憂だった。
「キエェェ!」
マタンゴが襲いかかるが、メモリーはひらりと躱し、トングで正確に『石突き(根元)』を挟んだ。
「捕獲! さあ、観念なさい!」
ジュッ。
即座に携帯コンロ(魔法石式)で炙り始める。
「キ……キノ……?」
魔物は状況が理解できないまま、香ばしいバターの香りに包まれて昇天した。
***
数時間後。
一行は中腹の広場で野営(ランチ休憩)をとることになった。
「いただきます!」
騎士たちの前には、メモリー特製の『マタンゴと森のハーブのクリームパスタ』が配られている。
恐る恐る口にした騎士団長が、カッと目を見開いた。
「う、美味い……! なんだこの歯応えは! 本当にキノコか!?」
「毒など微塵も感じません! むしろ、食べた瞬間から力が湧いてくるようです!」
「でしょう? ダンジョンの魔物は魔力をたっぷり蓄えていますから、滋養強壮に最適なのです」
メモリーは得意げに説明し、自分も大盛りパスタを吸い込んだ。
「ん~っ! 濃厚なクリームにキノコの出汁が溶け込んで……歩く疲れも吹き飛びますわ!」
隣で食べているシズルも、満足げにフォークを動かしている。
「……常識が崩れていくな。だが、悪くない」
シズルはナプキンで口を拭い、遠くの峰を見上げた。
「この調子なら、ドラゴンの肉も期待できそうだ。……伝説では、その肉は『食べる者の願いを叶える』とも言われているが」
「願い、ですか?」
メモリーが首を傾げる。
「はい。不老不死とか、万能の魔力とか」
「ふむ……。私の願いは『太らない体質』一択ですわね」
「……君らしいな」
シズルは微笑み、ふと真面目な顔になった。
「私は……そうだな。『愛する者と、明日も同じ食卓を囲むこと』。それが叶えば十分だ」
「シズル様……」
なんて謙虚で、素敵な願いなのだろう。
メモリーは胸がキュンとした。
(つまり、明日の朝ごはんの献立も私に任せたいということですね! 責任重大です!)
「任せてください! ドラゴンを狩ったら、最高のステーキにして、明日も明後日も一緒に食べましょう!」
「ああ。約束だ」
二人が指切りをしようとした、その時。
ギャァァァァァァァ!!!
上空から、鼓膜を引き裂くような咆哮が轟いた。
巨大な影が、太陽を遮る。
「て、敵襲ーッ!!」
騎士が叫ぶ。
見上げれば、翼長10メートルはあろうかという巨大な怪鳥――『ロックバード』が、鋭い爪を立てて急降下してきていた。
「で、でかい……! あんなのどうやって倒すんだ!?」
騎士たちが狼狽える中、メモリーだけが恍惚の表情で涎を拭った。
「シズル様……! あれは……!」
「ああ、強敵だ。下がっていろメモリー!」
「違います! あれは、一羽で50人前の唐揚げができる『空飛ぶ鶏肉』です!!」
メモリーはリュックから、ゴルド商会から押収した『特大スパイスボトル』と『業務用小麦粉』を取り出した。
「唐揚げの下味は、醤油とニンニク、そして生姜! 揉み込む時間がないのが残念ですが、揚げたてにスパイスをかければ問題ありません!」
「……君はあの怪鳥を『揚げる』つもりなのか?」
「当然です! あんなに立派なモモ肉、放置するなんて国家の損失ですわ!」
メモリーはフライパン(武器)を構え、叫んだ。
「総員、戦闘準備! ……ではなく、調理準備! 油の温度を180度に上げてください! 今夜のメインディッシュが落ちてきますよー!!」
もはや魔物討伐ではない。
これは命がけの『仕入れ』である。
シズルは剣を抜き、楽しそうに笑った。
「やれやれ。……花嫁の望みとあらば、落としてやるか」
一閃。
氷の刃が空を切り裂き、巨大な食材が地上へと舞い降りる。
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