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「……素晴らしい」
ダンジョンの最深部。
灼熱のマグマが流れる巨大な空洞に、メモリーの感嘆の声が響いた。
彼女が見上げているのは、小山ほどもある巨体。
漆黒の鱗に覆われ、黄金の瞳を持つ伝説の魔物――『エンシェント・ドラゴン』だ。
その威圧感は圧倒的で、ただ呼吸をするだけで空気が震える。
普通の人間なら恐怖で腰を抜かすだろう。
だが、メモリーの瞳には「恐怖」ではなく「食欲」しか映っていなかった。
「シズル様、ご覧になりましたか! あの太腿の筋肉の盛り上がり! あれは間違いなく、運動量が豊富な『赤身』と、適度な『サシ(脂肪)』が融合した奇跡の部位です!」
メモリーはリュックからナイフとフォークを取り出し、カチカチと打ち鳴らした。
「尻尾の付け根も最高です! あそこはコラーゲンの塊。じっくり煮込めば、美容液も裸足で逃げ出すほどのプルプル食感になるはず!」
「……君は本当にブレないな」
隣で剣を構えるシズルが、呆れつつも笑みをこぼす。
彼の周囲には、すでに絶対零度の冷気が渦巻いている。
「だが、相手は伝説級だ。油断するなよ。……食材になる前に、こちらが焼肉にされるぞ」
「ご安心を。私の胃袋に『敗北』の二文字はありません!」
二人が戦闘態勢(と調理態勢)に入った、その時。
ドカーン!!
背後の岩壁が爆破され、土煙と共に大勢の騎士たちが雪崩れ込んできた。
「待てぇぇぇい!!」
聞き覚えのある、そして絶妙にイラッとする声。
土煙の中から現れたのは、黄金の鎧に身を包んだアラン王子だった。
「見つけたぞ、シズル! そしてメモリー!」
王子は剣を突きつけ、ヒロイックなポーズを決めた。
「貴様ら、こんな危険な場所で何をしている! まさか……シズル、貴様! メモリーをこのドラゴンの『生贄』にするつもりだな!?」
「は?」
シズルとメモリーの声が重なった。
「とぼけるな! 『伝説のドラゴンに生贄を捧げれば願いが叶う』という伝承がある! 貴様はメモリーを餌にして、禁断の力を手に入れようとしているのだろう!」
「アラン殿下。想像力が逞しいのは結構ですが……」
シズルが冷ややかにため息をつく。
「見てわからないか? 彼女は今、餌になるどころか、ドラゴンを『どう解体してやろうか』と品定めしている最中だ」
「騙されんぞ! メモリー、今助けてやるからな! あんな野蛮な公爵より、私の方が……」
王子が演説を続けようとした瞬間。
ゴォォォォォォ!!!
無視されたドラゴンが激怒し、灼熱のブレスを吐き出した。
ターゲットは、一番うるさいアラン王子だ。
「うわぁぁぁ!?」
王子は無様に転がり、間一髪で炎を回避した。
しかし、その余波で岩壁が溶け落ち、逃げ道が塞がれてしまう。
「キシャァァァ!」
ドラゴンが咆哮し、巨大な爪を振り上げる。
もはや問答無用。
ここにいる全員が「敵」と認定されたのだ。
「チッ……邪魔だ、アラン殿下!」
シズルが舌打ちし、氷の壁を作って王子の盾となる。
「くっ、助けるつもりか! だが礼は言わんぞ!」
「勘違いするな。貴方が死ぬと、あとで国との外交問題が面倒になるからだ!」
シズルは氷の刃を生成し、ドラゴンの首元へ放つ。
しかし、硬い鱗に弾かれ、砕け散った。
「硬い……! やはり魔法だけでは通じないか!」
「シズル様! 魔法ではなく、物理で叩いてください!」
メモリーが叫ぶ。
彼女はドラゴンの攻撃をヒラリとかわしながら、冷静に観察していた。
「あのドラゴンの鱗は、調理前の『魚の鱗』と同じです! 逆撫ですれば剥がれます! それに、右脇腹のあたり……あそこだけ鱗の色が違います!」
「右脇腹?」
「はい! 昔、誰かに傷つけられた古傷でしょう。あそこは肉質が硬くなっているはずですが、逆に言えば『守りが薄い』ということ! そこを狙って、まずは切り身にするのです!」
「……相変わらず、的確すぎて怖いな!」
シズルは苦笑し、一気に加速した。
「アラン殿下! 貴方はそこで囮になっていろ!」
「な、なんだと!? 私は王子だぞ!」
「王子だから目立つんだ! その派手な鎧で気を引け!」
シズルは王子の返事も待たず、ドラゴンの懐へ飛び込んだ。
アラン王子が「こっちを見るな!」と叫びながら逃げ回る隙に、シズルは氷の剣を巨大化させ、メモリーが指示した右脇腹へと肉薄する。
「ここか……!」
ザシュッ!!
氷の大剣が、鱗の隙間に突き刺さる。
ドラゴンが苦痛の悲鳴を上げ、暴れ狂う。
「今です、シズル様! そのまま切り開いて、フィレ肉を確保してください!」
メモリーがリュックから『巨大バット(肉受け用)』を取り出して駆け寄る。
「待てメモリー! 危ない!」
「危なくありません! 新鮮なお肉が、地面に落ちて汚れる方が危機的状況です!」
暴れるドラゴンの足元を、ゴキブリのような俊敏さで駆け抜ける令嬢。
その姿に、アラン王子は呆然と呟いた。
「……あれは、本当に私が知っているメモリーなのか? あんなに……逞しい女だったか?」
「ああ、そうだとも」
ドラゴンの尻尾攻撃を紙一重でかわしながら、シズルが誇らしげに答える。
「彼女はただの令嬢ではない。食欲のために神すら食らう、最強の美食家(グルマン)だ。……貴方には扱いきれんよ」
シズルは剣を振り抜き、ドラゴンの動きを止めた。
「トドメだ! ……晩飯のメインディッシュ、頂戴する!」
氷の絶対零度が、ドラゴンの巨体を包み込む。
それは攻撃魔法であると同時に、『瞬間冷凍保存』の術式でもあった。
カチーン……!
数秒後。
そこには、氷像となったエンシェント・ドラゴン(鮮度抜群)が鎮座していた。
「やりましたわ……!」
メモリーがうっとりと氷像を見上げる。
「見事なサシ……。これならステーキ、しゃぶしゃぶ、ローストビーフ……一年は夢の肉生活が送れます!」
「……ふぅ。骨が折れたな」
剣を収めたシズルが、肩で息をする。
その背後で、腰を抜かしたアラン王子と騎士たちが、ポカンと口を開けていた。
伝説の魔物を、こうもあっさりと(食材として)処理するカップル。
彼らの常識は、音を立てて崩壊していた。
ダンジョンの最深部。
灼熱のマグマが流れる巨大な空洞に、メモリーの感嘆の声が響いた。
彼女が見上げているのは、小山ほどもある巨体。
漆黒の鱗に覆われ、黄金の瞳を持つ伝説の魔物――『エンシェント・ドラゴン』だ。
その威圧感は圧倒的で、ただ呼吸をするだけで空気が震える。
普通の人間なら恐怖で腰を抜かすだろう。
だが、メモリーの瞳には「恐怖」ではなく「食欲」しか映っていなかった。
「シズル様、ご覧になりましたか! あの太腿の筋肉の盛り上がり! あれは間違いなく、運動量が豊富な『赤身』と、適度な『サシ(脂肪)』が融合した奇跡の部位です!」
メモリーはリュックからナイフとフォークを取り出し、カチカチと打ち鳴らした。
「尻尾の付け根も最高です! あそこはコラーゲンの塊。じっくり煮込めば、美容液も裸足で逃げ出すほどのプルプル食感になるはず!」
「……君は本当にブレないな」
隣で剣を構えるシズルが、呆れつつも笑みをこぼす。
彼の周囲には、すでに絶対零度の冷気が渦巻いている。
「だが、相手は伝説級だ。油断するなよ。……食材になる前に、こちらが焼肉にされるぞ」
「ご安心を。私の胃袋に『敗北』の二文字はありません!」
二人が戦闘態勢(と調理態勢)に入った、その時。
ドカーン!!
背後の岩壁が爆破され、土煙と共に大勢の騎士たちが雪崩れ込んできた。
「待てぇぇぇい!!」
聞き覚えのある、そして絶妙にイラッとする声。
土煙の中から現れたのは、黄金の鎧に身を包んだアラン王子だった。
「見つけたぞ、シズル! そしてメモリー!」
王子は剣を突きつけ、ヒロイックなポーズを決めた。
「貴様ら、こんな危険な場所で何をしている! まさか……シズル、貴様! メモリーをこのドラゴンの『生贄』にするつもりだな!?」
「は?」
シズルとメモリーの声が重なった。
「とぼけるな! 『伝説のドラゴンに生贄を捧げれば願いが叶う』という伝承がある! 貴様はメモリーを餌にして、禁断の力を手に入れようとしているのだろう!」
「アラン殿下。想像力が逞しいのは結構ですが……」
シズルが冷ややかにため息をつく。
「見てわからないか? 彼女は今、餌になるどころか、ドラゴンを『どう解体してやろうか』と品定めしている最中だ」
「騙されんぞ! メモリー、今助けてやるからな! あんな野蛮な公爵より、私の方が……」
王子が演説を続けようとした瞬間。
ゴォォォォォォ!!!
無視されたドラゴンが激怒し、灼熱のブレスを吐き出した。
ターゲットは、一番うるさいアラン王子だ。
「うわぁぁぁ!?」
王子は無様に転がり、間一髪で炎を回避した。
しかし、その余波で岩壁が溶け落ち、逃げ道が塞がれてしまう。
「キシャァァァ!」
ドラゴンが咆哮し、巨大な爪を振り上げる。
もはや問答無用。
ここにいる全員が「敵」と認定されたのだ。
「チッ……邪魔だ、アラン殿下!」
シズルが舌打ちし、氷の壁を作って王子の盾となる。
「くっ、助けるつもりか! だが礼は言わんぞ!」
「勘違いするな。貴方が死ぬと、あとで国との外交問題が面倒になるからだ!」
シズルは氷の刃を生成し、ドラゴンの首元へ放つ。
しかし、硬い鱗に弾かれ、砕け散った。
「硬い……! やはり魔法だけでは通じないか!」
「シズル様! 魔法ではなく、物理で叩いてください!」
メモリーが叫ぶ。
彼女はドラゴンの攻撃をヒラリとかわしながら、冷静に観察していた。
「あのドラゴンの鱗は、調理前の『魚の鱗』と同じです! 逆撫ですれば剥がれます! それに、右脇腹のあたり……あそこだけ鱗の色が違います!」
「右脇腹?」
「はい! 昔、誰かに傷つけられた古傷でしょう。あそこは肉質が硬くなっているはずですが、逆に言えば『守りが薄い』ということ! そこを狙って、まずは切り身にするのです!」
「……相変わらず、的確すぎて怖いな!」
シズルは苦笑し、一気に加速した。
「アラン殿下! 貴方はそこで囮になっていろ!」
「な、なんだと!? 私は王子だぞ!」
「王子だから目立つんだ! その派手な鎧で気を引け!」
シズルは王子の返事も待たず、ドラゴンの懐へ飛び込んだ。
アラン王子が「こっちを見るな!」と叫びながら逃げ回る隙に、シズルは氷の剣を巨大化させ、メモリーが指示した右脇腹へと肉薄する。
「ここか……!」
ザシュッ!!
氷の大剣が、鱗の隙間に突き刺さる。
ドラゴンが苦痛の悲鳴を上げ、暴れ狂う。
「今です、シズル様! そのまま切り開いて、フィレ肉を確保してください!」
メモリーがリュックから『巨大バット(肉受け用)』を取り出して駆け寄る。
「待てメモリー! 危ない!」
「危なくありません! 新鮮なお肉が、地面に落ちて汚れる方が危機的状況です!」
暴れるドラゴンの足元を、ゴキブリのような俊敏さで駆け抜ける令嬢。
その姿に、アラン王子は呆然と呟いた。
「……あれは、本当に私が知っているメモリーなのか? あんなに……逞しい女だったか?」
「ああ、そうだとも」
ドラゴンの尻尾攻撃を紙一重でかわしながら、シズルが誇らしげに答える。
「彼女はただの令嬢ではない。食欲のために神すら食らう、最強の美食家(グルマン)だ。……貴方には扱いきれんよ」
シズルは剣を振り抜き、ドラゴンの動きを止めた。
「トドメだ! ……晩飯のメインディッシュ、頂戴する!」
氷の絶対零度が、ドラゴンの巨体を包み込む。
それは攻撃魔法であると同時に、『瞬間冷凍保存』の術式でもあった。
カチーン……!
数秒後。
そこには、氷像となったエンシェント・ドラゴン(鮮度抜群)が鎮座していた。
「やりましたわ……!」
メモリーがうっとりと氷像を見上げる。
「見事なサシ……。これならステーキ、しゃぶしゃぶ、ローストビーフ……一年は夢の肉生活が送れます!」
「……ふぅ。骨が折れたな」
剣を収めたシズルが、肩で息をする。
その背後で、腰を抜かしたアラン王子と騎士たちが、ポカンと口を開けていた。
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彼らの常識は、音を立てて崩壊していた。
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