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24話
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作戦決行の前夜。
王都は、嵐の前の静けさに包まれていた。
私は、カフェ「ラヴィアンローズ」のテラスで、一人、夜空に浮かぶ月を見上げていた。
明日になれば、この国の運命を賭けた戦いが始まる。緊張していない、と言えば嘘になる。
「……眠れないのか?」
静かな声と共に、カイルが隣にやってきた。彼も、明日は最前線で指揮を執る身だ。
「あなたこそ。少しは休んでおかないと、体がもたないわよ」
「君の顔を見たら、落ち着いた。これが、俺にとっての休息だ」
彼はそう言って、私の隣に腰を下ろした。
しばらく、二人で黙って月を見ていた。心地よい沈黙だった。
やがて、カイルが静かに口を開いた。
「俺は、騎士の家系に生まれたわけじゃない。ヴァインラントの、貧しい村の出身だ。力だけが取り柄で、ただ、大切なものを守れる強い男になりたいと、それだけを願って剣を振るってきた」
彼は、自分の過去を、ぽつり、ぽつりと語り始めた。
「騎士団長にまでなれたが、どこか満たされない思いがあった。守るべき国も、王もいる。だが、俺個人の、命を懸けて守りたい『何か』が、見つかっていなかった」
カイルは、私の方に向き直った。その青い瞳が、月の光を受けて、真摯に輝いている。
「ミリアーナ。君に出会って、初めてそれが見つかった」
「……カイル……」
「国とか、任務とか、そういうものを、今だけ全部取り払って聞いてほしい。俺は、ミリアーナ、君を愛している」
彼の、飾り気のない、まっすぐな言葉。
私の心臓が、大きく、そして甘く締め付けられる。
「この戦いが終わったら、俺の妻になってはくれないだろうか。俺と共に、隣国で生きてほしい」
予期せぬ、プロポーズの言葉だった。
悠々自適ライフを送るはずが、いつの間にか、国の危機を救い、隣国の騎士団長に求婚されている。人生とは、わからないものだわ。
私は、戸惑っていた。恋愛なんて、ずっと先の事だと思っていたから。
でも、彼の隣にいる時の、この不思議な安心感。彼がくれる、温かい信頼。それを、嘘だとは思えなかった。
「……今は、この戦いに集中させてほしいの」
私は、なんとかそれだけを答えるのが精一杯だった。
「でも、あなたのその言葉、決して忘れないわ。だから……必ず、生きて私の元へ帰ってきて」
それは、私の精一杯の、返事だった。
カイルは、私の答えを聞くと、優しく微笑んだ。そして、私の右手の甲をとり、そこに、誓いのキスを落とした。
「ああ、約束する。必ず、君の元へ」
交わされた、言葉と、誓い。
明日の決戦を前に、二人の心は、確かに一つに結ばれた。
夜空の月だけが、その静かで情熱的な瞬間を、見守っていた。
王都は、嵐の前の静けさに包まれていた。
私は、カフェ「ラヴィアンローズ」のテラスで、一人、夜空に浮かぶ月を見上げていた。
明日になれば、この国の運命を賭けた戦いが始まる。緊張していない、と言えば嘘になる。
「……眠れないのか?」
静かな声と共に、カイルが隣にやってきた。彼も、明日は最前線で指揮を執る身だ。
「あなたこそ。少しは休んでおかないと、体がもたないわよ」
「君の顔を見たら、落ち着いた。これが、俺にとっての休息だ」
彼はそう言って、私の隣に腰を下ろした。
しばらく、二人で黙って月を見ていた。心地よい沈黙だった。
やがて、カイルが静かに口を開いた。
「俺は、騎士の家系に生まれたわけじゃない。ヴァインラントの、貧しい村の出身だ。力だけが取り柄で、ただ、大切なものを守れる強い男になりたいと、それだけを願って剣を振るってきた」
彼は、自分の過去を、ぽつり、ぽつりと語り始めた。
「騎士団長にまでなれたが、どこか満たされない思いがあった。守るべき国も、王もいる。だが、俺個人の、命を懸けて守りたい『何か』が、見つかっていなかった」
カイルは、私の方に向き直った。その青い瞳が、月の光を受けて、真摯に輝いている。
「ミリアーナ。君に出会って、初めてそれが見つかった」
「……カイル……」
「国とか、任務とか、そういうものを、今だけ全部取り払って聞いてほしい。俺は、ミリアーナ、君を愛している」
彼の、飾り気のない、まっすぐな言葉。
私の心臓が、大きく、そして甘く締め付けられる。
「この戦いが終わったら、俺の妻になってはくれないだろうか。俺と共に、隣国で生きてほしい」
予期せぬ、プロポーズの言葉だった。
悠々自適ライフを送るはずが、いつの間にか、国の危機を救い、隣国の騎士団長に求婚されている。人生とは、わからないものだわ。
私は、戸惑っていた。恋愛なんて、ずっと先の事だと思っていたから。
でも、彼の隣にいる時の、この不思議な安心感。彼がくれる、温かい信頼。それを、嘘だとは思えなかった。
「……今は、この戦いに集中させてほしいの」
私は、なんとかそれだけを答えるのが精一杯だった。
「でも、あなたのその言葉、決して忘れないわ。だから……必ず、生きて私の元へ帰ってきて」
それは、私の精一杯の、返事だった。
カイルは、私の答えを聞くと、優しく微笑んだ。そして、私の右手の甲をとり、そこに、誓いのキスを落とした。
「ああ、約束する。必ず、君の元へ」
交わされた、言葉と、誓い。
明日の決戦を前に、二人の心は、確かに一つに結ばれた。
夜空の月だけが、その静かで情熱的な瞬間を、見守っていた。
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