婚約破棄?ナニソレ美味しいの?あ、美味しかったです

夏乃みのり

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29話

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全ての嵐が、過ぎ去った。
王国には、穏やかで平和な日常が戻ってきた。

そして、私のカフェ「ラヴィアンローズ」は、以前にも増して、空前の大繁盛を遂げていた。
「救国の聖女が経営する伝説のカフェ」。そんな大層な呼び名までつき、王家御用達の栄誉まで賜った。今や、この国の社交と文化、そして流行が生まれる中心地となっていた。

「お嬢様、本日の新作スイーツの試食でございます」

ピエールが、自信満々の顔で、キラキラと輝くケーキを運んでくる。
彼は今や、国中の誰もがその名を知る、天才パティシエだ。しかし、私に対するぶっきらぼうな態度は、相変わらずだった。

「うん、美味しいわ。さすがね、ピエール」

「ふん、当たり前だ」

私の褒め言葉に、彼はそっぽを向きながらも、口元は嬉しそうに緩んでいる。

「お嬢様、午後からはヴァインラント王国からの商談が入っております。こちらが資料です」

グレイソンが、完璧なタイミングで書類を差し出す。
彼もまた、「英雄を支えた伝説の執事」として、様々なところから引く手あまたらしいが、全て断って私の右腕であり続けてくれている。

「ありがとう、グレイソン。助かるわ」

父上も、すっかり元気を取り戻し、今では私の良き相談役として、リール公爵家の運営と、私の事業を穏やかに見守ってくれている。家の財政も、完全に立て直すことができた。

私は、カフェのテラス席に座り、活気に満ちた店内を眺めた。
客たちの楽しそうな笑い声。ピエールの作る甘い香り。庭に咲き誇る美しいバラ。
これだわ。これこそが、私が本当に求めていた「悠々自適ライフ」の、一つの完成形なのだ。

婚約破棄をされたあの日、私が夢見たのは、ただ怠惰に過ごすだけの生活だったかもしれない。
でも、今は違う。
信頼できる仲間たちと、自分の好きな仕事に情熱を注ぎ、そして、その結果として人々に喜んでもらえる。
こんなに満ち足りた日々が訪れるなんて、あの頃の私には、想像もできなかった。

私は、穏やかな陽光の中で目を閉じ、この幸せな瞬間を、胸いっぱいに吸い込んだ。
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