断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり

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雲一つない青空。
太陽の光が降り注ぐ、アレクセイ公爵邸の広大な庭園。


そこに広がっていたのは、結婚式というよりは、もはや「建国祭」と呼ぶべき光景だった。


「……すごい。本当に全員来てる」


私は控室の窓から外を覗き、思わず呟いた。
庭園には、見渡す限りの人、人、人。
三千人を超える招待客がひしめき合っている。


最前列には、煌びやかな正装に身を包んだ各国の王族や外交官たち。
その隣のブロックには、私が業務改善を手伝った商会の会長や、物流ギルドの荒くれ者たち。
さらに後ろには、王城の騎士団や文官、侍女たちが有給を取って大集合している。


そして、一番賑やかなのが、一般開放された「友人席」だ。
下町のパン屋のおばちゃん、酒場の親父、情報屋の兄ちゃん、スラムの子供たち……。
彼らが貴族たちと同じ料理を食べ、楽しそうに笑い合っている。


(普通ならありえない光景だわ……)


身分の壁を超えた、カオスで、でも温かい空間。
パン屋のおばちゃんが隣国の公爵夫人に「あんた、肌ツヤいいわねぇ!」と話しかけ、夫人が「あら、貴女のパン、美味しいですわ!」と返している。
奇跡のコラボレーションだ。


「ラミリア様、そろそろお時間です」


マダム・ロコが、感極まった声で私を呼んだ。
私は鏡の前に立った。


そこに映っていたのは、自分でも見惚れるほどの花嫁姿だった。
純白のシルクドレスは、光の加減で虹色に輝く最高級品。
デコルテを美しく見せるデザインに、繊細なレースの刺繍。
髪には、ガリレオ氏が徹夜で作った「オーロラのダイヤモンドティアラ」が輝いている。


「……最高よ、ラミリアちゃん。私のデザイナー人生で、一番の傑作だわ」


マダム・ロコが涙を拭う。


「ありがとうございます、マダム。……このドレス、とても軽くて動きやすいです」


「当たり前よ! 貴女のことだから、式中も走り回るかもしれないと思って、機能性も重視したのよ!」


さすがマダム。私のことをよく分かっている。


「にゃあ」


足元で声がした。
見ると、スノーが首元に蝶ネクタイをつけ、背中に小さなクッションを背負っている。
リングボーイならぬ、リングキャットだ。


「スノーも決まってるね。今日は大役、頼んだよ?」


「みゃっ(任せとけ)」


スノーは自信満々に尻尾を立てた。


コンコン。
扉がノックされ、意外な人物が入ってきた。
国王陛下だ。


「……準備はいいか、ラミリア嬢」


「陛下? どうしてこちらに?」


「新婦の父役がいないと聞いてな。……私がエスコート役を買って出た」


陛下は照れくさそうに腕を差し出した。


「息子の不始末で、そなたには苦労をかけた。……せめてもの償いだ。この国の父として、そなたを送り出させてくれ」


「陛下……。はい、喜んで!」


私は陛下の腕に手を添えた。
いよいよ、本番だ。


***


ファンファーレが鳴り響く。
庭園のざわめきが一瞬で止み、全員の視線がレッドカーペットの先に集まった。


私は陛下の隣を歩き、ゆっくりとバージンロードを進んだ。
一歩進むごとに、歓声と拍手が波のように押し寄せる。


「ラミリア様ー! お綺麗ですー!」
「おめでとう! 幸せになれよー!」
「姐さん! 今日イチ輝いてるッスよ!」


右からも左からも、祝福のシャワー。
フラワーシャワーの花びらが舞う中、私は涙をこらえるのに必死だった。
こんなにたくさんの人に愛されて、祝われて。
私は世界一の果報者だ。


そして。
長いカーペットの先、祭壇の前に彼が待っていた。


アレクセイ様。
純白の礼服に身を包み、銀色の髪を風になびかせている。
その姿は、この世のものとは思えないほど神々しく、美しかった。


彼は私を見た瞬間、目を見開き、息を呑んだように動きを止めた。
その瞳が、熱く揺れている。


私が祭壇の前までたどり着くと、陛下が私の手をアレクセイ様に託した。


「アレクセイ。……国の宝を託すぞ。心して守れ」


「言われるまでもありません、兄上」


アレクセイ様は力強く私の手を取り、引き寄せた。
そして、私にしか聞こえない声で囁いた。


「……反則だ、ラミリア」


「え?」


「綺麗すぎる。……今すぐ参列者を全員追い出して、私だけのものにしてしまいたい」


「もう、独占欲が強すぎますよ」


「本気だ。……心臓が止まるかと思った」


彼は私の指をギュッと握りしめた。
その手が少し震えているのが分かって、私は愛おしさで胸がいっぱいになった。


祭壇には神官長が待っていた。
厳かな誓いの言葉が始まる……かと思いきや。


「えー、本日の誓いの言葉は、新郎新婦のご希望により、オリジナルのものとなっております」


神官長が咳払いをした。


「新郎、アレクセイ・フォン・ルークス公爵。貴方は、病める時も健やかなる時も、彼女の残業を阻止し、適切な睡眠時間を確保させ、美味しい紅茶と猫のある生活を提供することを誓いますか?」


会場からドッと笑いが起きた。


「誓います。……命に代えても」


アレクセイ様が大真面目な顔で答える。


「新婦、ラミリア・バーンスタイン。貴女は、富める時も貧しき時も、彼の偏食を管理し、冷え切った心を温め、たまには仕事を忘れて彼を甘やかすことを誓いますか?」


「はい、誓います。……利息付きで」


私が答えると、アレクセイ様が嬉しそうに微笑んだ。


「では、指輪の交換です」


「にゃーん!」


タイミングよく、スノーが祭壇に飛び乗ってきた。
背中のクッションには、二つの指輪が輝いている。


「おお! 猫が!」
「賢い! 可愛い!」


参列者たちがメロメロになる中、アレクセイ様はスノーから指輪を取り、私の薬指に嵌めた。
私も彼の手を取り、少し大きめの指輪を彼の薬指に滑らせる。


「……これで、お前は私の妻だ」


アレクセイ様が私のベールを上げた。
視線が絡み合う。
周囲の音が消え、世界には二人しかいないような感覚。


「愛している、ラミリア」


「私もです、アレクセイ様」


彼が顔を寄せ、唇が触れ合った。
優しく、深く、永遠を誓う口づけ。


その瞬間。


パァァァァンッ!!


魔法の花火が打ち上がった。
アレクセイ様の無自覚な魔力が溢れ出し、空に七色の光の粒子となって舞い散ったのだ。
さらに、庭園中のバラが一斉に満開になり、季節外れの桜まで咲き乱れる。


「うわぁぁぁ!」
「すげえ! 公爵様の愛が爆発したぞ!」
「これは伝説になるわね!」


大歓声の中、私たちは額を合わせたまま笑い合った。


「……やってしまいましたね、アレクセイ様」


「構わん。私の喜びを表現するには、これでも足りないくらいだ」


***


その後の披露宴は、予想通りカオスで最高に楽しいものとなった。


ガストン料理長渾身のフルコースは、貴族も平民も唸らせる絶品だった。
特に、高さ5メートルもある巨大ウェディングケーキが登場した時は、会場が揺れるほどの歓声が上がった。
(魔法で補強してあるので倒れない仕様だ)


「ラミリア様、これ食べて! 俺が焼いたパン!」
「こっちの焼き鳥も美味いぞ!」
「いや、東方のスパイス料理をぜひ!」


私は友人たちから次々と食べ物を差し出され、リスのように頬張った。
アレクセイ様も、普段なら絶対に食べないような庶民的な料理を、「ラミリアの友人が勧めるなら」と食べている。
意外と気に入ったようで、「この焼きそばという料理、我が家のメニューに加えよう」と真顔で言っていた。


宴もたけなわ。
エルフの楽団とドワーフの太鼓隊による即興ライブが始まり、会場はダンスホールと化した。
堅苦しいマナーなんて関係ない。
国王陛下までが、マダム・ロコに手を取られて踊っている。


「……楽しいですね、アレクセイ様」


私たちはメインテーブルから、その幸せな光景を眺めていた。


「ああ。……お前の言う通りだ。身分など関係ない。笑い合える者がこれほどいるとはな」


アレクセイ様はワイングラスを揺らし、目を細めた。


「ラミリア。お前がこの景色を作ったのだ。……お前は、やはり最高の『華』だ」


「いいえ、アレクセイ様」


私は彼の肩に頭を預けた。


「これは、貴方が私を受け入れてくれたから咲いた華です。……私一人では、何もできませんでした」


「……謙虚な妻だ」


彼は私の手を握りしめた。


「だが、今日からはもっと欲張っていい。……さあ、私たちも踊ろうか」


「えっ、私、ダンスはあまり得意では……」


「任せろ。私がリードする。……一生、エスコートしてやるから」


アレクセイ様の手を取り、私はフロアへと降り立った。
スポットライトが私たちを照らす。
音楽が、ワルツの調べに変わる。


私たちは踊った。
くるくると回る世界の中で、彼の瞳だけが私を映している。
足がもつれそうになっても、彼がすぐに支えてくれる。
その安心感が、何よりも心地よかった。


「……幸せか? ラミリア」


耳元で問われる。


「はい! 今、世界で一番幸せです!」


私は大声で答えた。
恥ずかしげもなく。
だって、本当にそうなのだから。


「そうか。……なら、私もだ」


アレクセイ様が満面の笑みを浮かべた。
氷の公爵が、太陽のように笑っている。
その笑顔を見られただけで、私は生まれてきてよかったと思えた。


盛大な拍手と、祝福の光に包まれて。
私たちの結婚式は、この国の歴史上、最も賑やかで、最も温かい伝説として語り継がれることになるのだった。


(……まあ、翌日から大量の祝儀の集計とお礼状書きで、嬉しい悲鳴を上げることになるんですけどね!)


それはまだ、少し先のお話。
今はただ、この幸せな瞬間に浸っていたかった。
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