祝・婚約破棄! 喜んだ悪役令嬢の末路は…?

夏乃みのり

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盛大な婚約の祝宴が明けた、翌朝。
アシュフォード城の、陽光がたっぷりと降り注ぐテラスでは、穏やかで、満ち足りた時間が流れていた。

「いやはや、辺境の酒は、実に効くのう! 昨夜は、少し飲みすぎてしまったようだ」

シュヴァルツ公爵ルドヴィークは、豪快に笑いながら、香り高い薬草茶をすすった。

「望むところです、公爵閣下。我が領地の酒を気に入っていただけて、光栄です」

リアムも、その隣で、満足げに頷いている。
サーシャは、そんな、すっかり意気投合した父と未来の夫の姿を、微笑ましい気持ちで眺めていた。
昨夜の宴は、本当に素晴らしいものだった。
両家の者たちが、身分や立場を超えて、心から笑い合い、飲み、語り合った。
ああ、わたくしの未来は、こんなにも温かい人々と、美味しい食事と、そして、愛する人の笑顔に満ちているのだと、心の底から実感できた夜だった。

そんな、平和で、幸せな空気を切り裂くように。
一人の伝令兵が、そのテラスへ、息を切らしながら駆け込んできた。
その肩には、シュヴァルツ家の獅子の紋章が、誇らしげに刺繍されている。

「だ、旦那様! 王都より、緊急の密書にございます!」

伝令兵から、厳重に封蝋された手紙を受け取ったルドヴィークの表情が、すっと引き締まる。
その場の和やかな雰囲気は、一瞬にして、緊張の色を帯びた。

ルドヴィークは、ナイフで素早く封を切ると、その書面に、鋭い視線を走らせた。
そして。
彼の表情が、まず、驚きに。
次いで、信じられないといった呆れに。
そして最後には、獰猛な肉食獣のような、獰猛で、満足げな笑みへと、変わっていった。

「…ふん。馬鹿者どもが、ようやく、幕引きの時を迎えたようだな」

彼は、そう吐き捨てると、その密書を、サーシャとリアムの方へ、差し出した。

「お前たちも、読んでおけ。あの愚かな王子と、小娘の、滑稽な末路をな」

サーシャは、リアムと顔を見合わせると、おそるおそる、その密書を受け取った。
そこに、シュヴァルツ家の腹心の部下による、几帳面な文字で綴られていたのは、まさに、青天の霹靂とでも言うべき、衝撃的な内容だった。

サーシャは、その内容を、静かに、淡々と、読み上げていく。

『ご報告申し上げます。
先日、王宮にて催されました宮廷音楽会におきまして、リリアナ嬢が、突如、毒を盛られたと訴え、倒れるという騒ぎが発生いたしました』

「まあ…」

『しかし、その場におりました王宮侍医の冷静な検分により、毒殺は、リリアナ嬢が、不在のサーシャお嬢様を陥れるために企てた、自作自演の狂言であったことが、即日、白日の下に晒される結果に』

「…なんと、浅はかな…」

『この、王太子妃候補による前代未聞の醜聞により、王家の威信は完全に失墜。
リリアナ嬢は、王太子妃候補の資格を剥奪の上、すべての身分を取り上げられ、平民として、実家の男爵家へ強制送還。
また、その実家も、監督不行き届きの責を問われ、近々、爵位を召し上げられる見込みにございます』

そこまで読んで、サーシャは、ふう、と一つ、小さな息をついた。
彼女の心には、驚きはあったが、もはや、怒りも、憐れみも、何も湧いてはこなかった。

「…自業自得ですわね。人を陥れようとする者は、いつか、その刃が、自分自身に返ってくる。ただ、それだけのことですわ」

リアムは、黙って、サーシャの肩を、その大きな手で、優しく抱き寄せた。

「当然の報いだ。お前を傷つけようとした者は、誰であれ、相応の罰を受ける。それだけの話だ」

ルドヴィークは、獰猛な笑みを浮かべたまま、続きを読むよう、娘に顎でしゃくってみせた。
そして、密書の最後には、さらに、衝撃的な事実が、記されていた。

『…また、この一連の騒動の責任、および、国政を著しく停滞させた無能さを、国王陛下、並びに、重臣会議にて厳しく追及され、エドワード王子殿下は、昨日付で、正式に、王太子の地位を廃されることが、決定いたしました。
次期国王には、聡明で知られる、第二王子であるアーサー殿下が、新たに擁立される運びとなります』

愚かな王子と、浅はかな少女。
彼らが、自分たちの手で掴んだはずの未来は、彼ら自身の、その愚かさによって、完璧に、粉々に、砕け散ったのだ。

「愚か者どもめが! だが、これでようやく、あの卒業パーティーで、我が娘が受けた無念も、完全に晴れようというものだ!」

ルドヴィークが、高らかに叫んだ。
そうだ。
これで、すべてが終わったのだ。
サーシャを、ずっと、心のどこかで縛り付けていた、過去の忌まわしい因縁が、今、完全に、清算された。
彼女の心は、最後の澱が、すっと洗い流されたかのように、どこまでも、清々しく、晴れ渡っていた。

ルドヴィークは、椅子から、勢いよく立ち上がった。

「よし! 決めたぞ! 今宵は、祝杯だ! 昨日の婚約祝いよりも、もっと、もっと、盛大に祝うぞ!」

その言葉に、リアムも、力強く頷く。

「賛成です、公爵閣下。我がアシュフォードの、最高の酒と、最高の料理を用意させましょう」

その、頼もしい二人の顔を見て、サーシャは、くすくすと、楽しそうに笑った。

「ふふっ、では、わたくしも、じっとしてはいられませんわね。お二人と、そして、この国の新しい門出のために。このわたくしが、腕によりをかけて、最高の祝杯にふさわしい、特別なお料理を、ご用意させていただきますわ」

その夜。
アシュフォード城の大広間には、再び、三人の、高らかな笑い声が響き渡っていた。
それは、ただの婚約祝いではない。
忌まわしい過去との、完全な決別。
そして、サーシャとリアム、シュヴァルツ家とアシュフォード家、さらには、この国の、輝かしい、新しい未来の始まりを祝福する、どこまでも、どこまでも、喜びに満ちた、最高の祝杯だった。
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