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第4章

命or令嬢??

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「この辺でいいだろ。大人しくしてろよ」

そう私に告げてから仲間の元に戻っていく耳のいい人。

この状況、なんとかならないかしら…

そう思って辺りを見回すと、尖った石が目についた。
これで縄を切れるかも……
バレないようにそっと端により、手の縄を切ってみる。

なかなかうまくいかず、自分の手も傷つけてしまう。

「ふぅ……うぅ…」

痛くても我慢しながら切ろうとする。

「おい、お前何してるんだ?」
「…ふーふぅ(何も)」
「そうか…そういえば喋りずらいだろう。叫ばないと約束できるか?」

こくこくと何度も頷く。
すると、するりと口に巻いてあった布が外される。

「あの、なんで私を誘拐したんですか?」
「だってお前あの王太子と踊ったんだろ?」
「え?踊ってませんけど…」

王太子と踊ったのは私じゃない。ユリアだ。
じゃあ、この人たちは私をユリアと勘違いしてる?

「いや、踊っただろう。下からの情報によれば、青い瞳に黒髪の女だって聞いたぞ」
「写真とかは見てないんですか?」
「ああ」
「「……」」

もしかして…いや、もしかしなくても、これはイベの一つなんじゃないか?!

「あなたの名前をうかがっても?」
「俺はジャンだ」
「ジャンさん、私の名前はルシアです。王太子様と踊ったのは、私ではなく、ユリアという人です」
「マジ?」
「本当です」

目を見て真摯に訴えてみると、意外にもすんなりと信じてくれた。

「つってもな~、このまま解放するわけにはいかないし…」
「解放してください」
「俺の話聞いてた?解放するわけにはいかないって言ったんだよ」
「えぇ…」
「まあでも、お前はそのユリアってやつと姉妹かなんかなんだろ?写真は見てないが、外見的に特徴はほぼほぼ一致してるし」

そんなに適当でいいのか。
なら、この中のだれかを女装させてユリアだって言えばいいじゃない!

「まあ、王太子の野郎が来るまで大人しく待ってな」
「……」

これがイベの一つなら、こうしていても助かるかもしれない。
思い出せ、これはどんな内容だったっけ?

「おい!来たぜ!準備しろ!!」
「……!」

そうリーダーっぽい人が言うと、一斉に空気がピリッとする。

「ここか…ユリア嬢がいるというのは」

ああ、来てしまった…一番来て欲しくない人が!
後ろから太陽の光を浴びて、キラキラとする金髪に、鋭く細められた青く光る双眸。

「ルーク様…」

もう、早く縄切れて!

「ほんとに一人か?」
「ああ」
「はっ、バカじゃねえの?ほんとに一人で来やがったぞ!」
「お前たちが一人で来いと言ったんだろう」
「いや、だがよ…」

悪漢たちがなんか言い負けてない?!

「やっちまえ!」

正義であるルークが、悪である男たちに負けるはずないけど…
なんか、すごくもやもやする。

「さあ、ユリア嬢を返してもらおうか」
「……あ!」

思い出した!確か…

8人の悪漢たちをルークは斬り伏せていく。
そしてついに最後の一人になった悪漢は、ユリアの首にナイフを近づけ、ルークに剣を捨てるように言った。ルークは大人しく剣を捨てる。そして、後ろから別の男が、切りかかって、ルークは重傷を負ってしまうが、命からがらユリアを助ける。

…だった。
そこまで思い出して、顔がさっと青ざめる。

いや、待て待て待て!
ユリアならまだしも、ルシアを守って傷つくとか絶対だめだ。
その後、助かる保証がどこにもない!

「……!」

考えながらも、縄を擦り付けていると、やっとの思いで縄を切る。
男たちはルークを倒すのに必死で私の縄がほどけてるのに気づいていない。

「おらぁ!」
「くっ…」

悪漢8人の相手は、流石にきついはず。
こうなったら、おしとやかな令嬢を演じてる場合じゃない!

「…待ってください!」
「「「……」」」

急に私が大声を張り上げたので、一瞬だけ静かになる。

「あの!多勢に無勢とか良くないです。そんなこともわからないんですか!」
「うるせえ!」

完全にバカにした言い方にムカついたのか、男の一人がナイフを向けて突進してくる。
私はそれを軽くかわすと、男の手首をひねりナイフを落とさせる。
その痛みで怯んだ隙にうなじに攻撃を入れ気絶させた。

「このアマァ!」

それを呆然と眺めていた男たちは、男が倒れた瞬間、ルークに向かっていた半分くらいがこっちに来る。

「っ…!!」
「…?!」

えっ、今、ルシアって言った?!
なんでわかって…!

考えながらも、何人かの男たちを地に伏せさせていく。
物語上の都合かもしれないけど、すごく弱かった。
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