13 / 13
13
エントランスに緊張が走る中、騒ぎを聞きつけた同僚たちが一人、また一人と足を止め始めた。
理人の隣に立つ、凛としたオーラを放つ美女。その誰もが、彼女が誰であるか分からず、ただその輝くような美しさに見惚れていた。
「おい、高橋の隣にいる人、誰だ……? どこかのモデルか?」
「信じられないくらい綺麗だな。……えっ、まさか、あの人……」
ざわめきが波紋のように広がり、誰かが「美咲さんじゃないか?」と声を上げた。その瞬間、エントランスの空気は爆発したような驚きに包まれた。
「ええっ!? あの地味な事務員の美咲さん!?」
「嘘だろ、あんな美人だったのかよ!」
信じられないという顔で、誰もが釘付けになる。美咲はそんな視線の中を、理人の手にエスコートされながら、背筋を伸ばして悠然と歩いた。
そこへ、顔を真っ赤にした佐伯部長が怒鳴り込んできた。
「高橋! お前というやつは……! 職務放棄して何を――」
理人は歩みを止め、佐伯の前で深く頭を下げた。
「部長、身勝手な行動で多大なご迷惑をおかけしたこと、心よりお詫び申し上げます。……ですが、これには理由があるんです」
理人は鋭い視線を明日音へと向けた。彼女は蛇に睨まれた蛙のように立ち尽くし、真っ青な顔で唇を震わせている。
「彼女、明日音さんが、私の大切なパートナーである美咲を盗撮し、執拗に脅迫していたんです。この写真を見てください。会社の名誉を傷つけようとしたのは、彼女の方です」
理人が提示した証拠に、佐伯部長は絶句した。
「……明日音、これは本当か?」
「っ、それは……私はただ、高橋くんが……!」
明日音は言い訳をしようとしたが、理人の氷のような冷たい瞳に射すくめられ、言葉を失った。
「明日音……。君には失望したよ。一時の感情で同僚を陥れるような人間に、この仕事を任せるわけにはいかない。……来なさい、別室で詳しく話を聞く」
佐伯部長の厳しい言葉に、明日音は唇を噛み締め、うなだれたまま連行されていった。彼女の華やかなキャリアが、自らの嫉妬心によって音を立てて崩れ去った瞬間だった。
---
静まり返ったフロアに、理人の明るい声が響いた。
「皆さん、騒がせてすみません! これが俺の最高の自慢の彼女、美咲です。もう二度と、眼鏡の奥に隠したりしませんから!」
理人の宣言に、一瞬の間をおいて、割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。
「最高だよ高橋! 美咲さん、お幸せに!」
「お似合いすぎる! 二人ともカッコいいぞ!」
これまで地味な事務員として、誰の目にも留まらなかった美咲。けれど今は、誰もが彼女を祝福し、その笑顔に魅了されていた。
美咲は潤んだ瞳で理人を見上げた。
「……理人くん、私、もう逃げない。あなたの隣で、胸を張って歩いていくわ」
「ああ、約束だ」
理人は周囲の目も構わず、美咲の腰を強く抱き寄せた。
そして、オフィスの中心で、あの日一目惚れした彼女の唇に、甘く、深い誓いのキスを落とした。
眼鏡を外した魔法は、もう解けることはない。
二人の物語は、光溢れるこの場所から、新しく始まっていくのだった。
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。
石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。
すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。
なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
余命わずかな私は、好きな人に愛を伝えて素っ気なくあしらわれる日々を楽しんでいる
ラム猫
恋愛
王城の図書室で働くルーナは、見た目には全く分からない特殊な病により、余命わずかであった。悲観はせず、彼女はかねてより憧れていた冷徹な第一騎士団長アシェンに毎日愛を告白し、彼の困惑した反応を見ることを最後の人生の楽しみとする。アシェンは一貫してそっけない態度を取り続けるが、ルーナのひたむきな告白は、彼の無関心だった心に少しずつ波紋を広げていった。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも同じ作品を投稿しています
※全十七話で完結の予定でしたが、勝手ながら二話ほど追加させていただきます。公開は同時に行うので、完結予定日は変わりません。本編は十五話まで、その後は番外編になります。
王太子の賭けに負けた氷の貴公子。くじで選ばれた私への態度は、義務ですか?それとも本気ですか?
恋せよ恋
恋愛
王太子の賭けの景品は、私でした。
「氷の貴公子」と称される侯爵嫡男ウィリアムとの婚約。
それは運命ではなく、ただの罰ゲーム。
「義務を果たすだけだ」と冷たく言い放つ彼なのに、
なぜか至近距離で甘く囁き、私を離してくれなくて……?
不器用な執着攻め×勘違い令嬢の、すれ違い溺愛の物語
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
✽全28話完結
✽辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
✽他誌にも掲載中です。
✽2026.4/11 エブリスタ用に使用している表紙に変更しました。
→表紙はイラストをGrok タイトルをChatGPTでAI生成しています。
貴方なんて大嫌い
ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と
いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている
それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い