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サリナが夢見た「侯爵夫人」としての薔薇色の生活は、ユウナが屋敷を去ってから、わずか数時間でその色を血の混じった黒へと変えた。
主のいなくなった侯爵邸の寝室。そこはかつてユウナが夜ごと絶望に暮れた場所であり、今はサリナが勝利の美酒に酔いしれ、悦楽を貪るための舞台となっていた。
「ああ……っ、アラフ様……! すごい……お姉様とは、こんなに激しくなかったのでしょう?」
サリナは、アラフの逞しい腰に自ら跨り、誇らしげにその身体を揺らしていた。
ユウナから奪い取った「夫」という戦利品。その肌の熱さ、自分を求める強引な腕。すべてがサリナの征服欲を刺激し、彼女の感覚を麻痺させていく。ユウナが置いていった、あの感覚を鋭敏にする香油をたっぷりと肌に塗り込み、サリナは自ら快楽の泥沼へと沈んでいった。
「お前は本当に……いい身体をしているな、サリナ。ユウナのような痩せぎすの人形とは大違いだ。その、欲深い肉がたまらん」
アラフの声は低く、獣が獲物を値踏みするような不穏な響きを帯びていた。だが、絶頂の淵にいるサリナはそれに気づかない。彼女は潤んだ瞳でアラフを見つめ、艶めかしい声を張り上げた。
「もっと……もっと私を壊して! 私がお姉様より愛されているって、刻み込んで……っ!」
サリナは泣き叫ぶように喜び、アラフの肩に爪を立てた。
その瞬間、アラフの瞳の奥で、どろりとした暗い熱が弾けた。
これまでは「他人」であったサリナに対して、彼は外面のいい紳士を演じていた。しかし、離縁届に署名し、ユウナという唯一の「合法的なサンドバッグ」を失った今、彼の歪んだ支配欲は、目の前で淫らな声を上げる新しい「所有物」へと牙を剥いた。
「――そうか。望み通り、たっぷり可愛がってやろう」
唐突に、アラフの力が変わった。
彼は跨っていたサリナの腰を乱暴に掴むと、まるで荷物でも扱うかのように、彼女を寝台へと叩きつけた。
「あっ……!? アラフ、様……?」
空気が抜けるような声を上げたサリナを、アラフは逃がさない。彼はすぐさま彼女の上に覆いかぶさり、その両手首を一纏めにして、ベッドのヘッドボードへ力任せに押し付けた。
「おい、サリナ。お前は俺が優しい男だとでも思っていたのか? ユウナがなぜ、あんなに怯えた目で俺を見ていたか……その理由を、今から教えてやるよ」
アラフの口から漏れたのは、先ほどまでの甘い愛の囁きではない。低俗で、聞くに堪えない罵倒の数々だった。彼はサリナの柔らかな肌を慈しむことなく、むしろ痣を作ることを目的としているかのように、執拗に、暴力的に愛撫し始めた。
「痛っ……痛いです、アラフ様! もっと優しく……っ」
「優しく? 貴様、どの口でそんなことを言う。姉の男を寝取るような淫売が。ほら、もっと鳴けよ。お前のような汚い女には、これがお似合いだ!」
アラフの突進は、もはや交わりではなく、蹂躙だった。
準備も整わぬまま、無慈悲に貫かれる苦痛。ユウナが毎夜耐えていた地獄が、今、サリナの身に降りかかる。サリナは驚愕と恐怖に目を見開いた。彼女が欲しがったのは、甘い蜜に包まれた「侯爵夫人」の地位であって、このような獣の餌食になることではなかった。
「いや……嫌! やめて! 痛い、痛いから……っ!」
サリナは必死に身をよじり、彼を押し返そうとした。しかし、男の筋力には到底及ばない。アラフは彼女の悲鳴を聞くたびに、いっそ愉悦を感じているかのように顔を歪め、さらに激しく彼女を突き上げた。
「やめてだと? お前が望んだことだろう。俺のものになりたいと、お前が誘ったんだ。……いいか、お前は今日から、俺の許可なく泣くことも許さん。俺が飽きるまで、その身体を差し出し続けるんだよ。この、泥棒猫が!」
「ひっ、あ、ぁぁ……っ!」
サリナの脳裏に、昼間、屋敷を去り際にユウナが浮かべた微笑みが蘇る。
『お幸せにね、サリナ』
あの微笑みは、慈悲などではなかった。
これから始まる、終わりなき地獄への招待状だったのだ。
サリナの喉からは、もはや快楽の声は一滴も漏れなかった。ただ、恐怖と苦痛に染まった絶叫が、主の入れ替わった呪われた寝室に虚しく響き渡る。
「助けて……お姉様……シリウス様……っ!」
助けを求める名は、獣の咆哮のようなアラフの罵声にかき消されていく。
鏡に映る自分たちの姿――。そこには、憧れた侯爵夫人の姿などなく、ただ暴君に踏みにじられる哀れな犠牲者が一人、泣き叫んでいるだけだった。
ユウナが味わった何倍もの密度で、サリナの全身には絶望が刻み込まれていく。
夜はまだ、始まったばかりだった。
主のいなくなった侯爵邸の寝室。そこはかつてユウナが夜ごと絶望に暮れた場所であり、今はサリナが勝利の美酒に酔いしれ、悦楽を貪るための舞台となっていた。
「ああ……っ、アラフ様……! すごい……お姉様とは、こんなに激しくなかったのでしょう?」
サリナは、アラフの逞しい腰に自ら跨り、誇らしげにその身体を揺らしていた。
ユウナから奪い取った「夫」という戦利品。その肌の熱さ、自分を求める強引な腕。すべてがサリナの征服欲を刺激し、彼女の感覚を麻痺させていく。ユウナが置いていった、あの感覚を鋭敏にする香油をたっぷりと肌に塗り込み、サリナは自ら快楽の泥沼へと沈んでいった。
「お前は本当に……いい身体をしているな、サリナ。ユウナのような痩せぎすの人形とは大違いだ。その、欲深い肉がたまらん」
アラフの声は低く、獣が獲物を値踏みするような不穏な響きを帯びていた。だが、絶頂の淵にいるサリナはそれに気づかない。彼女は潤んだ瞳でアラフを見つめ、艶めかしい声を張り上げた。
「もっと……もっと私を壊して! 私がお姉様より愛されているって、刻み込んで……っ!」
サリナは泣き叫ぶように喜び、アラフの肩に爪を立てた。
その瞬間、アラフの瞳の奥で、どろりとした暗い熱が弾けた。
これまでは「他人」であったサリナに対して、彼は外面のいい紳士を演じていた。しかし、離縁届に署名し、ユウナという唯一の「合法的なサンドバッグ」を失った今、彼の歪んだ支配欲は、目の前で淫らな声を上げる新しい「所有物」へと牙を剥いた。
「――そうか。望み通り、たっぷり可愛がってやろう」
唐突に、アラフの力が変わった。
彼は跨っていたサリナの腰を乱暴に掴むと、まるで荷物でも扱うかのように、彼女を寝台へと叩きつけた。
「あっ……!? アラフ、様……?」
空気が抜けるような声を上げたサリナを、アラフは逃がさない。彼はすぐさま彼女の上に覆いかぶさり、その両手首を一纏めにして、ベッドのヘッドボードへ力任せに押し付けた。
「おい、サリナ。お前は俺が優しい男だとでも思っていたのか? ユウナがなぜ、あんなに怯えた目で俺を見ていたか……その理由を、今から教えてやるよ」
アラフの口から漏れたのは、先ほどまでの甘い愛の囁きではない。低俗で、聞くに堪えない罵倒の数々だった。彼はサリナの柔らかな肌を慈しむことなく、むしろ痣を作ることを目的としているかのように、執拗に、暴力的に愛撫し始めた。
「痛っ……痛いです、アラフ様! もっと優しく……っ」
「優しく? 貴様、どの口でそんなことを言う。姉の男を寝取るような淫売が。ほら、もっと鳴けよ。お前のような汚い女には、これがお似合いだ!」
アラフの突進は、もはや交わりではなく、蹂躙だった。
準備も整わぬまま、無慈悲に貫かれる苦痛。ユウナが毎夜耐えていた地獄が、今、サリナの身に降りかかる。サリナは驚愕と恐怖に目を見開いた。彼女が欲しがったのは、甘い蜜に包まれた「侯爵夫人」の地位であって、このような獣の餌食になることではなかった。
「いや……嫌! やめて! 痛い、痛いから……っ!」
サリナは必死に身をよじり、彼を押し返そうとした。しかし、男の筋力には到底及ばない。アラフは彼女の悲鳴を聞くたびに、いっそ愉悦を感じているかのように顔を歪め、さらに激しく彼女を突き上げた。
「やめてだと? お前が望んだことだろう。俺のものになりたいと、お前が誘ったんだ。……いいか、お前は今日から、俺の許可なく泣くことも許さん。俺が飽きるまで、その身体を差し出し続けるんだよ。この、泥棒猫が!」
「ひっ、あ、ぁぁ……っ!」
サリナの脳裏に、昼間、屋敷を去り際にユウナが浮かべた微笑みが蘇る。
『お幸せにね、サリナ』
あの微笑みは、慈悲などではなかった。
これから始まる、終わりなき地獄への招待状だったのだ。
サリナの喉からは、もはや快楽の声は一滴も漏れなかった。ただ、恐怖と苦痛に染まった絶叫が、主の入れ替わった呪われた寝室に虚しく響き渡る。
「助けて……お姉様……シリウス様……っ!」
助けを求める名は、獣の咆哮のようなアラフの罵声にかき消されていく。
鏡に映る自分たちの姿――。そこには、憧れた侯爵夫人の姿などなく、ただ暴君に踏みにじられる哀れな犠牲者が一人、泣き叫んでいるだけだった。
ユウナが味わった何倍もの密度で、サリナの全身には絶望が刻み込まれていく。
夜はまだ、始まったばかりだった。
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