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これからどうぞよろしく
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「まあそんなわけで、わが息子ながら真面目で気概のあるやつなんだ」
梧桐のおじさんが、慧さんの背中を叩く。バシンバシンと豪快に叩くので、慧さんはちょっと噎せた。
「ちょっと。紅茶が零れるから」
「ははは」
ふたりのやりとりにわたしが笑うと、お父さんと梧桐のおじさんは目配せをした。
「実は、今日は詩乃に話があって、来て貰ったんだ」
お父さんが意味深な表情を、ずいっと向けてくる。
そうだ。
なんの理由もなく呼び出されたわけではない。
「はい」
警察の人がいるときに呼び出されるなんて、なにか悪いことがあっただろうか。
少し緊張して返事をした。そんなわたしの緊張など余所に、お父さんは両手を広げて前のめりに言った。
「詩乃に慧君との結婚を薦めたいと思ってね」
「――――はい?」
お客様の前だというのに、ついすっとんきょうな声がでる。
意味を瞬時に理解できず、けっこん? 結婚? と何度か口の中で繰り返した。
寝ぼけて幻聴をきいたのかも。瞬きをして目を覚まそうと試みる。
急に話しが飛躍した気がした。
お父さんは重大ミッションを達成したようで、鼻の穴を大きくし微笑んでいた。
梧桐のおじさんも満足げにうんうんと頷く。
え、初めましてだよね? 許嫁かなにか? なんで今、急に? この場ってお見合いだった?
「ええと、それは、わたしと慧さんが結婚……ってこと……」
「最近ストーカー被害で、外出もままならなかったじゃないか。詩乃がどんどん落ち込んでいくから、一連のことについて、梧桐に相談したんだ」
お父さんの言葉に、おじさんは頷いた。
随分と長く滞在しているなと思ったら、どうやらわたしについて相談をしてくれていたらしい。
慧さんも頷いたので、わたしの事情は把握していたようだ。
「詩乃には家でも外でも、常に守ってくれる存在が必要だ。警備会社に依頼するだけでは心配だし、そういった危険な相手というのは、下手に動くとより強硬な手段に出る傾向がある。
警察は事件性がないとパトロールしかできないし、現段階では頼ることができない。
そこで閃いたのが慧君だ」
助けを求めて彼を見たら、すっと視線を逸らした。
愛想の無い人なのかな。
おじさんは豪快で喋りやすいのに。
職業柄、感情をださないようにしているとか?
「梧桐の息子なら信頼できるし、警護に関してはプロ中のプロ。詩乃を安心して任せられる。
なによりいい男だろ。こんないい男と結婚すれば、現在のストーカーだけに留まらずファンなどと宣って活動する集団へのけん制にもなる。
ふたりが一緒になればすべてが早期解決させられるのでは、という結論に至った!」
自信満々に語ってくれたが、まったく頭にはいってこない。
彼の容姿が素敵なことに異論はない。
凛として格好良くて、多くの女性がふり向くであろう存在だ。
しかし、雑誌が出てからの被害を心配してくれていて嬉しいが、それがなぜ結婚につながるのか。
「あの、とてもありがたいお話です。梧桐さんのお力を貸していただけるなら心強いです。でも、急にそんな……」
慧さんはそれでいいのか。
ビジネスとして、警護依頼をするだけでも……。
「今日だって友達との約束をキャンセルしているし、一カ月後には大学が始まるのに、通学が怖くて休学しとようとまで悩んでいたじゃないか」
ストーカーから送られてきた手紙とチケットをペラリと見せられ、凍り付く。
捨てたはずだが、お父さんが拾ったらしい。
途端に血の気がひく。見たくもない。
さっと顔を逸らした。
「ーーーー詩乃、悪かった。父さんの責任だ。インタビューなど受けなければ良かった。まさか詩乃がこんなことになるなんて思わなかったんだ」
お父さんはずっと自分を責めていた。インタビューなど、受けれなければ良かったのだと。
「お父さんのせいじゃないよ」
早く普通に生活ができるところを見せて、安心させてあげたい。大丈夫だよって言いたいのに心配ばかりかけている。
「そうだぞ。犯罪者の行為が自分のせいだなんて思っちゃだめだ。
記事は素晴らしい内容だった。天笠は悪くない。そんなふうに責任を感じることはない。
わたしとしては嬉しいかぎりなんだ。慧は女っ気がなくて心配していたからね。
親バカながら、なかなかの色男だと思っているんだが、仕事一筋すぎて頑固な一面があってね。
聞けば付き合っている相手もいないと言うし、であれば、これが運命的なタイミングなのではないと。詩乃さんは美しいし礼儀正しいし、俺は大歓迎だ」
梧桐のおじさんは大仰に話した。
どんどん断り辛くなる。
「ま、まだ学生なんです。卒業したら働くつもりだし……」
「大学もあと一年じゃないか。しばらくは婚約者ということで、卒業したら正式に籍をいれるといい。それとも、彼じゃ不満かい? こんなにいい男はなかなかいないと思うけどね」
お父さんの中では決定事項のようだ。
「慧さんは素敵な方です。だからこそ、こんな子供ではご迷惑でしょう。慧さんのお気持ちだって……」
再度、慧さんに助けを求める。
黙っていないで、なんとか言って欲しい。
気持ちはありがたいが、とにかく急すぎる。
心に決めて人がいるとか、適当に言ってこの話をなかったことにしてほしい。
縋る目を向けるが、慧さんは無表情に告げた。
「問題ないです。そういうことらしいので、これからどうぞよろしく」
「なんで?!」
慌てふためいているのはわたしだけか。
思わず声を大きくした。
梧桐のおじさんが、慧さんの背中を叩く。バシンバシンと豪快に叩くので、慧さんはちょっと噎せた。
「ちょっと。紅茶が零れるから」
「ははは」
ふたりのやりとりにわたしが笑うと、お父さんと梧桐のおじさんは目配せをした。
「実は、今日は詩乃に話があって、来て貰ったんだ」
お父さんが意味深な表情を、ずいっと向けてくる。
そうだ。
なんの理由もなく呼び出されたわけではない。
「はい」
警察の人がいるときに呼び出されるなんて、なにか悪いことがあっただろうか。
少し緊張して返事をした。そんなわたしの緊張など余所に、お父さんは両手を広げて前のめりに言った。
「詩乃に慧君との結婚を薦めたいと思ってね」
「――――はい?」
お客様の前だというのに、ついすっとんきょうな声がでる。
意味を瞬時に理解できず、けっこん? 結婚? と何度か口の中で繰り返した。
寝ぼけて幻聴をきいたのかも。瞬きをして目を覚まそうと試みる。
急に話しが飛躍した気がした。
お父さんは重大ミッションを達成したようで、鼻の穴を大きくし微笑んでいた。
梧桐のおじさんも満足げにうんうんと頷く。
え、初めましてだよね? 許嫁かなにか? なんで今、急に? この場ってお見合いだった?
「ええと、それは、わたしと慧さんが結婚……ってこと……」
「最近ストーカー被害で、外出もままならなかったじゃないか。詩乃がどんどん落ち込んでいくから、一連のことについて、梧桐に相談したんだ」
お父さんの言葉に、おじさんは頷いた。
随分と長く滞在しているなと思ったら、どうやらわたしについて相談をしてくれていたらしい。
慧さんも頷いたので、わたしの事情は把握していたようだ。
「詩乃には家でも外でも、常に守ってくれる存在が必要だ。警備会社に依頼するだけでは心配だし、そういった危険な相手というのは、下手に動くとより強硬な手段に出る傾向がある。
警察は事件性がないとパトロールしかできないし、現段階では頼ることができない。
そこで閃いたのが慧君だ」
助けを求めて彼を見たら、すっと視線を逸らした。
愛想の無い人なのかな。
おじさんは豪快で喋りやすいのに。
職業柄、感情をださないようにしているとか?
「梧桐の息子なら信頼できるし、警護に関してはプロ中のプロ。詩乃を安心して任せられる。
なによりいい男だろ。こんないい男と結婚すれば、現在のストーカーだけに留まらずファンなどと宣って活動する集団へのけん制にもなる。
ふたりが一緒になればすべてが早期解決させられるのでは、という結論に至った!」
自信満々に語ってくれたが、まったく頭にはいってこない。
彼の容姿が素敵なことに異論はない。
凛として格好良くて、多くの女性がふり向くであろう存在だ。
しかし、雑誌が出てからの被害を心配してくれていて嬉しいが、それがなぜ結婚につながるのか。
「あの、とてもありがたいお話です。梧桐さんのお力を貸していただけるなら心強いです。でも、急にそんな……」
慧さんはそれでいいのか。
ビジネスとして、警護依頼をするだけでも……。
「今日だって友達との約束をキャンセルしているし、一カ月後には大学が始まるのに、通学が怖くて休学しとようとまで悩んでいたじゃないか」
ストーカーから送られてきた手紙とチケットをペラリと見せられ、凍り付く。
捨てたはずだが、お父さんが拾ったらしい。
途端に血の気がひく。見たくもない。
さっと顔を逸らした。
「ーーーー詩乃、悪かった。父さんの責任だ。インタビューなど受けなければ良かった。まさか詩乃がこんなことになるなんて思わなかったんだ」
お父さんはずっと自分を責めていた。インタビューなど、受けれなければ良かったのだと。
「お父さんのせいじゃないよ」
早く普通に生活ができるところを見せて、安心させてあげたい。大丈夫だよって言いたいのに心配ばかりかけている。
「そうだぞ。犯罪者の行為が自分のせいだなんて思っちゃだめだ。
記事は素晴らしい内容だった。天笠は悪くない。そんなふうに責任を感じることはない。
わたしとしては嬉しいかぎりなんだ。慧は女っ気がなくて心配していたからね。
親バカながら、なかなかの色男だと思っているんだが、仕事一筋すぎて頑固な一面があってね。
聞けば付き合っている相手もいないと言うし、であれば、これが運命的なタイミングなのではないと。詩乃さんは美しいし礼儀正しいし、俺は大歓迎だ」
梧桐のおじさんは大仰に話した。
どんどん断り辛くなる。
「ま、まだ学生なんです。卒業したら働くつもりだし……」
「大学もあと一年じゃないか。しばらくは婚約者ということで、卒業したら正式に籍をいれるといい。それとも、彼じゃ不満かい? こんなにいい男はなかなかいないと思うけどね」
お父さんの中では決定事項のようだ。
「慧さんは素敵な方です。だからこそ、こんな子供ではご迷惑でしょう。慧さんのお気持ちだって……」
再度、慧さんに助けを求める。
黙っていないで、なんとか言って欲しい。
気持ちはありがたいが、とにかく急すぎる。
心に決めて人がいるとか、適当に言ってこの話をなかったことにしてほしい。
縋る目を向けるが、慧さんは無表情に告げた。
「問題ないです。そういうことらしいので、これからどうぞよろしく」
「なんで?!」
慌てふためいているのはわたしだけか。
思わず声を大きくした。
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