エリートSPと偽装婚約

邉 紗

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俺が夢中なんだよ

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パーティーがお開きとなる。

余韻を味わう参加者たちはまだちらほら残ってはいたが、わたしたちは早々に引き上げた。

「いいかい? どうしても挨拶をしなくてはならない人がいて行ってくるから、俺がいない間はここで待っていてくれ」

慧さんは神妙な顔をして、懇々とわたしを諭した。子どもに語り掛けるように、なんども同じ話を繰り返す。
留守番部屋として案内されたのは、ホテルの最上階にあるスイートルームだ。

「わかったけど……すごい……こんなに豪華なお部屋どうしたの?」

ごくりと唾を飲む。

「パーティーは疲れるからな、もしもの時のことを考えて休憩用にリザーブしておいたんだ。急に呼び出されて、部屋をとっておいてよかったよ」

こんなに豪勢な部屋は、一国の首相かハリウッドセレブだけかと思っていたが、念のためという理由で用意できてしまうなんて。

「話の長い人なんだ。はぁ、本当は挨拶なんてしらばっくれたいんだが……そうもいかなくて。
なるべく早く戻るから大人しくしていてくれよ。このフロアは一般客は入れないようにはなっているけれど、油断はしないでくれ」

「はい」

素直に頷くと慧さんは頭を撫でた。

「部屋からでなければ自由に過ごしていて。一泊できるから、シャワーを済ませて寝てしまってもかまわないよ」

美しい夜景、極上の部屋。童話の中の世界だ。

「うん。ありがとう」

慧さんは身なりを整えると足早に出て行った。
ぽつんと部屋に残される。部屋をぐるりと見回すと感嘆のため息がでた。
慧さんはやっぱり雲の上の人だ。わたしとは釣り合わないと思い知らされる。

「でも、スイートルームで休憩できるなんてお姫様になったみたい」

すべての出来事が非現実的だ。
釣り合わなすぎて、これならあと半年後、儚い夢だったのだと諦められそうだ。

せっかくなのだから、寝てしまうだなんてもったいない。
わたしは部屋を探索することにした。

あまりに豪華なので、理央に写真を撮って送る。
最近ではなんでも気軽に話せるのは、家族と理央と慧さんだけ。

『羨ましい! わたしも泊まってみたい。なんていう部屋?』

すぐに返信が来て、しばらくやり取りをした。

内装は、海外の宿泊者を意識してから、和洋の入り交じったデザインだ。景色や調度品に夢中になって部屋をひと回りすると、二時間ほど過ぎていた。

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