【完結】終わりを望むのは、罪かしら 

楽歩

文字の大きさ
22 / 57

22.エミリアとフルール sideクロード


 十六歳のころ。王宮で、大きなお茶会が開かれることになった。

 それはただの社交の場ではない。

 婚約者同士が共に出席し、関係の良好さを示しながら、王家とのつながりを深める、そんな意味を持つ重要な席だった。

 当然、私はエミリアが並んで出席するものと考えていた。だが、ここ最近のエミリアの体調が気になっていた。それにフルールが何度も「一緒に行きたい」とねだってきたのだ。


 その無邪気な声が頭に残り、私は少し迷い始めていた。


 もしエミリアに無理をさせて体調を崩させてしまったら。それこそ彼女を傷つけてしまうのではないか。そんな不安が胸をよぎった。

 私はエミリアの部屋を訪れ、できるだけ穏やかな声で言った。



「今度、王家で大きなお茶会があるのだけど……エミリアは体調が悪いから、フルールと行ってもいいかな?」

 エミリアは一瞬だけ驚いたような顔をしたが、すぐに微笑んだ。



「最近は体調も良いので……長い時間でなければ、行けますが……」

 控えめにそう言う。その言葉を聞いて、私は少し考えた。



 だが、ふとフルールの顔が浮かぶ。楽しみにしていた、あの輝くような表情。それにやっぱり無理をさせてエミリアの体調が悪くなったら。そう思うと、私は首を横に振った。



「いや、やめておこう。もっと元気になってからにしよう。今回は、ゆっくり休んでいてくれ」

 そう言って説得すると、エミリアは少しだけ寂しそうに微笑んだ。けれど、すぐに頷いた。



「……わかりました」

 その様子を見て、私は安心した。きっと、これでよかったのだと。



 その夜、私はフルールにお茶会の話を伝えた。

「本当!?」

 フルールは目を輝かせ、勢いよく私に飛びついた。



「やった! 絶対素敵なお茶会になるわ!」

 その無邪気な喜び方に、私は思わず笑ってしまう。



 お茶会当日。

 フルールはその愛嬌を存分に発揮した。明るく人懐こい笑顔で、王家の人々ともすぐに打ち解けていく。特に、第三王女殿下と、その婚約者であるフィリップ殿下とはすぐに親しくなった。


 社交の場でも、フルールは輝いていた。周囲の視線が自然と彼女へ集まる。その光景を見ながら、私は誇らしく思った。


 フルールと共に時間を過ごし、彼女と一緒にいることが当たり前になった頃だった。

  フルールが、震える声で言った。



「……クロード。私……あなたのことを好きになってしまったの……ごめんなさい」

 少し俯きながら、ぎゅっと手を握りしめている。彼女の瞳には涙が浮かんでいた。

 今にも溢れそうに揺れている。



 私はその場で立ち尽くした。

 フルールのことを、可愛いと思っていたのは事実だ。けれど、それが家族としての愛情なのか、
 それとも、もっと別の感情なのか。自分でも、はっきりとは分からなかった。だから、その時は何も答えられなかった。



 だが、その日を境に、すべてが変わった。

 フルールが私に触れ、ふとした拍子に、切なそうな目でこちらを見るたびに、そしてエミリアと並んでいる私を、どこか寂しそうに見つめる姿に気づくたびに胸が締めつけられるように痛んだ。

 気づけば、その感情は日ごとに強くなっていく。

 どうしようもなく恋しいと思う気持ちが、増していった。

 フルールが、私にとってどれほど大切な存在なのか、彼女が、どれほど私の心の中を占めていたのか、それを、はっきりと自覚してしまったのだ。

 
 そして、あの日。



 フルールの気持ちを知りながら、それでも父が決めた婚約をなかったことにする勇気を持てずにいた、あの日。

 本来なら聞かれるはずのなかった会話をエミリアに聞かれてしまった。


 気づいたとき、彼女は、静かに、こちらを見ていた。その表情は、驚くほど穏やかだった。責めるでも、怒るでもない。ただ、何も言わずに私たちを見ていた。


 けれどその瞳の奥に、わずかに揺れる悲しみがあることを、私は見逃さなかった。胸が強く締めつけらるようだったが、だが同時に、私は思った。



 これは、神が、私に決断を迫っているのだと。

 誰かに決められた人生ではなく、自分自身で選ぶ人生。その選択をする時が来たのだと。



 そして私は、未来を思い描いた。長い時間を共に過ごし、隣で笑い合いながら生きていける相手はだれなのか。それは、フルールしか考えられなかった。



 父から叱責されることは分かっている。

 それでも構わないと思った。

 どんな困難が待っていようと、彼女の手を取り、共に歩んでいきたい。フルールが他の男と並び、幸せそうに笑う姿など想像することさえ耐えられなかった。



 もちろん、エミリアに対する罪悪感はあった。

 だが、その罪悪感だけで彼女と結婚するのは、それこそ彼女に対して不誠実ではないか。そう思った。


 エミリアは優しい。きっと理解してくれる。それにもし彼女に行く場所がなければ、ずっとこの邸にいてくれてもいい。今まで通り、この家で暮らせばいいのだ。そうすれば、何も変わらないはずだ。

 フルールも、エミリアも、私も。


 そうだ。これまで通り、皆で仲良く暮らせばいいのだ。


あなたにおすすめの小説

幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。

たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。 彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。 『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』 「……『愛している』、ですか」 いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。

心の中にあなたはいない

ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。 一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

婚約者の王太子が平民と結婚するそうです──どうぞ、ご勝手に【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王太子エドモンが平民との“真実の愛“を宣言した日、王国の均衡は崩れた。 エドモンの婚約者である公爵令嬢エヴァは、公衆の面前で婚約破棄され、更には婚約者のいるクラウディオ・レンツ公爵との結婚を命じられる。 ──そして舞踏会の夜。 王太子妃になった元平民ナタリーは、王宮の礼儀も政治も知らぬまま混乱を引き起こす。 ナタリーの暴走により、王家はついにエヴァを敵に回した。 王族は焦り、貴族は離反し、反王派は勢力を拡大。 王国は“内乱寸前”へと傾いていく。 そんな中、エヴァの前に跪いたのは王太子の従弟アレクシス・レンツ。 「僕と結婚してほしい。  僕以外が王になれば、この国は沈む」 冷静で聡明な少年は、エヴァを“未来の国母”に据えるためチャンスを求めた。 「3ヶ月以内に、私をその気にさせてご覧なさい」 エヴァは、アレクシスに手を差し伸べた。 それからの2人は──? ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。視点が頻繁に変わります。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。