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22.エミリアとフルール sideクロード
十六歳のころ。王宮で、大きなお茶会が開かれることになった。
それはただの社交の場ではない。
婚約者同士が共に出席し、関係の良好さを示しながら、王家とのつながりを深める、そんな意味を持つ重要な席だった。
当然、私はエミリアが並んで出席するものと考えていた。だが、ここ最近のエミリアの体調が気になっていた。それにフルールが何度も「一緒に行きたい」とねだってきたのだ。
その無邪気な声が頭に残り、私は少し迷い始めていた。
もしエミリアに無理をさせて体調を崩させてしまったら。それこそ彼女を傷つけてしまうのではないか。そんな不安が胸をよぎった。
私はエミリアの部屋を訪れ、できるだけ穏やかな声で言った。
「今度、王家で大きなお茶会があるのだけど……エミリアは体調が悪いから、フルールと行ってもいいかな?」
エミリアは一瞬だけ驚いたような顔をしたが、すぐに微笑んだ。
「最近は体調も良いので……長い時間でなければ、行けますが……」
控えめにそう言う。その言葉を聞いて、私は少し考えた。
だが、ふとフルールの顔が浮かぶ。楽しみにしていた、あの輝くような表情。それにやっぱり無理をさせてエミリアの体調が悪くなったら。そう思うと、私は首を横に振った。
「いや、やめておこう。もっと元気になってからにしよう。今回は、ゆっくり休んでいてくれ」
そう言って説得すると、エミリアは少しだけ寂しそうに微笑んだ。けれど、すぐに頷いた。
「……わかりました」
その様子を見て、私は安心した。きっと、これでよかったのだと。
その夜、私はフルールにお茶会の話を伝えた。
「本当!?」
フルールは目を輝かせ、勢いよく私に飛びついた。
「やった! 絶対素敵なお茶会になるわ!」
その無邪気な喜び方に、私は思わず笑ってしまう。
お茶会当日。
フルールはその愛嬌を存分に発揮した。明るく人懐こい笑顔で、王家の人々ともすぐに打ち解けていく。特に、第三王女殿下と、その婚約者であるフィリップ殿下とはすぐに親しくなった。
社交の場でも、フルールは輝いていた。周囲の視線が自然と彼女へ集まる。その光景を見ながら、私は誇らしく思った。
フルールと共に時間を過ごし、彼女と一緒にいることが当たり前になった頃だった。
フルールが、震える声で言った。
「……クロード。私……あなたのことを好きになってしまったの……ごめんなさい」
少し俯きながら、ぎゅっと手を握りしめている。彼女の瞳には涙が浮かんでいた。
今にも溢れそうに揺れている。
私はその場で立ち尽くした。
フルールのことを、可愛いと思っていたのは事実だ。けれど、それが家族としての愛情なのか、
それとも、もっと別の感情なのか。自分でも、はっきりとは分からなかった。だから、その時は何も答えられなかった。
だが、その日を境に、すべてが変わった。
フルールが私に触れ、ふとした拍子に、切なそうな目でこちらを見るたびに、そしてエミリアと並んでいる私を、どこか寂しそうに見つめる姿に気づくたびに胸が締めつけられるように痛んだ。
気づけば、その感情は日ごとに強くなっていく。
どうしようもなく恋しいと思う気持ちが、増していった。
フルールが、私にとってどれほど大切な存在なのか、彼女が、どれほど私の心の中を占めていたのか、それを、はっきりと自覚してしまったのだ。
そして、あの日。
フルールの気持ちを知りながら、それでも父が決めた婚約をなかったことにする勇気を持てずにいた、あの日。
本来なら聞かれるはずのなかった会話をエミリアに聞かれてしまった。
気づいたとき、彼女は、静かに、こちらを見ていた。その表情は、驚くほど穏やかだった。責めるでも、怒るでもない。ただ、何も言わずに私たちを見ていた。
けれどその瞳の奥に、わずかに揺れる悲しみがあることを、私は見逃さなかった。胸が強く締めつけらるようだったが、だが同時に、私は思った。
これは、神が、私に決断を迫っているのだと。
誰かに決められた人生ではなく、自分自身で選ぶ人生。その選択をする時が来たのだと。
そして私は、未来を思い描いた。長い時間を共に過ごし、隣で笑い合いながら生きていける相手はだれなのか。それは、フルールしか考えられなかった。
父から叱責されることは分かっている。
それでも構わないと思った。
どんな困難が待っていようと、彼女の手を取り、共に歩んでいきたい。フルールが他の男と並び、幸せそうに笑う姿など想像することさえ耐えられなかった。
もちろん、エミリアに対する罪悪感はあった。
だが、その罪悪感だけで彼女と結婚するのは、それこそ彼女に対して不誠実ではないか。そう思った。
エミリアは優しい。きっと理解してくれる。それにもし彼女に行く場所がなければ、ずっとこの邸にいてくれてもいい。今まで通り、この家で暮らせばいいのだ。そうすれば、何も変わらないはずだ。
フルールも、エミリアも、私も。
そうだ。これまで通り、皆で仲良く暮らせばいいのだ。
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