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第一章
アリスの憂鬱
しおりを挟む「王族によくそんな口を聞けたものだ。」
「…」
キン、と刃が格子に当たる音が鳴り響く。私の首の横には彼の構えた剣がある。この歳になって初めてこんなに美しい剣を見た。
綺麗に磨かれたその剣に、血の跡は一つもない。
ああ、今からこの剣に首を切られて死ぬのかと呑気に考えている自分がいる。
お父さん、お母さん…。
「……」
「……」
「…?」
死を覚悟して目を瞑り、両親の事を思い浮かべていた時だった。
いくら待っていても自分の身に何も起こらず、恐る恐る目を開ける。
結論から言えば、剣は私の目の前にあった。
けれどその剣は私の身体を通過する事もなく、ピタリと止まっていた。
微動だにしないそれをただ見つめていると、王子の視線が何処かに注がれているのが分かる。
一体、何処を見て…。
「…っ、」
「攫ってきた女をどうするつもりだ?兄さん。」
王子の視線を辿り、そこにあったものは、もう一人の男の姿だった。彼もまた身なりがきちんとしていて、「兄さん」と言っている事から二人が兄弟の関係であるのが分かる。
兄と同じ藍色の目をこちらに向けた弟の手は剣を持つ腕をしっかりと掴み、牽制していたのだった。
「レオ。お前こそ何故この女を庇うのだ」
「庇ってなんかいないさ。ただ、利用価値がありそうだと考えただけ。そういう訳で、今は剣を収めてこの女を風呂に入れてあげてはどうかな?」
「どういう訳だ、それは」
「俺はこの女を利用したいだけだ。」
何処かで聞いた事がある。第一王子には顔が似ている双子の弟が居るとーー。
それが今目の前に居る人なら、納得できる。
何故ならこの二人、暗闇の中でも分かるくらいに瓜二つなのだ。
その二人が何を話しているのかと言えば、私の処遇だった。聞いていても分かる。不服そうなレン王子の声色。レオ王子はどうやら私を利用したいらしい。
神聖な河原に入った私をお風呂に入れようとしてくれるなんて。なんと優しいことか。お風呂なんていつぶりだろう、と浮ついた気持ちでいたその時。
「この女はあの場所に入ったのだ。しかも無断でだぞ?、」
「ああ、そう言えばそうだな、」
「本来なら処刑されるはずの女を生かしておくのも許されないだろう?」
また話の雲行きが怪しくなってきて、私はゴクリと息を飲んだ。
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