魂を紡ぐもの

にゃら

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第1章

約束

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 翌日。学校に向かい教室に入るとまだ誰も来ていなかった。そういえば大地に「行くの早くね?」って言われたっけ。また成美か陽奈に何分前位に登校したらいいのか聞いておこう。それにしても誰もいない教室って静かだな。静かだけど意識を変えると様々な人の笑い声や泣き声が聞こえてくる。『記憶のカケラ』が沢山あるんだね学校って。
「おはよー」
 そんな事に意識を向けているといつのまにか何人かのクラスメイトが登校してきた。
「お、おはよう」
「シズクさん早いね。大体私が最初に来るんだけどね」
「そ、そうなんだ」
「私家が遠くてね。電車で来ているんだけど乗り換えとか考えたらどうしても早くなるの。シズクさんもそう?家遠いとか?」
「遠いような…近いような…」
「あははは!何それ!」
 色々誤魔化しながら話すのは大変だな…。
「おはよ」
 そんな会話をしていると陽奈が登校してきた。
「露木さんおはー」
「陽奈!おはよ」
「ん?シズクさんって前から露木さんと知り合い?名前で呼ぶくらいだし」
「あ、うん。陽奈と成美は少し前から知り合いなんだ」
「へぇ。何処で出会ったの?」
「え?えっと……」
 何て答えたら良いのだろう。さすがに私が死にかけている時とか話せないし…。
「あー。私のバイト先の常連だったの。それで年も同じだから仲良くなってね」
 確かに陽奈のバイト先であるカフェにはよく行く。行くのだけどもそれは知り合ってからだから違う。違うけど陽奈は「そういう事にしときなさい」と目で訴えているのが分かる。だからそういう事にするのが1番良いのだろう。
「へぇそうなんだ」
「おーい!潮田!」
「はーい!ごめん。呼ばれたから向こう行くね」
「あ、うん」
 何~?と言いながらシオタさんはほかのグループの輪に入って行った。今後話すこともあるだろうし名前を覚えておこう。それよりも
「陽奈ありがとね」
「全く…私の負担が2倍になるわ…あんたと私が同い年…ね」
「いいじゃない」
「私はそんな年寄りじゃない」
「言い方ひどっ!」
「それよりも変な話していないでしょうね?」
「うん。それは大丈夫」
「約束覚えているわよね」
「もちろん」

 その日は私が学校に通う前日の事。いつも通り3人でいつもの場所。陽奈のバイト先であるカフェに集まっていた。
「いい。あんたが人間じゃないって他の人に気付かれるような行動は絶対にしない事」
「なんで?」
「あのね…私は悪魔で何百歳です~。って自己紹介して受け入れられると思う?」
「はーい!私はそうなんだ!ってなりました!」
「成美…あんたは常識知らずのバカだから」
「酷い!」
 わざとらしく頬を膨らませ泣いたフリをする。
「ちょ!やめてよシズク!」
「あはは。変な顔!」
 その膨らませた頬を突っついてみたり潰したりして遊ぶ。
「玩具にしないで!」
「あんた達…人の話聞いている?」
「聞いているよ?」
 そう言いながら私は成美に触り続ける。
「ちょ…くすぐったいよ!」
 脇腹辺りを触り
「ん?成美大きくなった?」
 私の手は胸に到着した。
「わ、分かんないよ…ひゃ!」
「けしかりませんなぁ。私より大きくなろうとしている?」
「シ、シズクには勝てないって」
 モミモミ。
「公共の場なのだからそれくらいにしなさい」
 陽奈に手を掴まれ触るのを強制的に止められた。
「もぉ…。分かったよツルペ……陽奈!」
「あんた今ツルペタって言ったでしょ!」
「言ってないよ?埼玉県民」
「謝りなさい!私と埼玉の人に!」
「陽奈。うるさいよ。他のお客さんに迷惑」
「あんたねぇ…!」
 ふふっ。2人を揶揄うのは楽しいな。少し前の私だったらこんな事考えられなかった。成美に触れる事も出来なかっただろう。今こうやって何も考えず楽しめているのは2人のおかげだ。
「ありがとね」
「な、何よ急に」
「あ!陽奈照れている」
「うっさい!照れてなんか…」
 ホント…。私には勿体ないくらいの親友だ。
「ねぇシズク。陽奈と埼玉って何の関係があるの?陽奈埼玉県民じゃないよ?」
「前テレビで観たんだけど埼玉って貧」
「はいそこまで!それよりもシズクちゃんと分かっている?」
「分かっているよ。要するにバレなきゃ良いんでしょ?」
「そう。それともう1つ」
「何?」
「セクハラ禁止」
 ………えっ?
「少なくとも学校にいる間は守ってもらうから」
「陽奈だけ?」
「成美にも。もちろん他の女子にも」
「男子なら?」
「もっとダメ」
 そんな…。私の楽しみの1つが…。
 そうやって私には守らなくてはならない事が追加された。

「ねぇ陽奈」
 私の前に座っている陽奈に話しかける。成美は私の右隣だけどまだ来ていない。
「ん?何?」
「おっぱい触ったらセクハラ?」
「急に何言っているの?」
「いや…どこまで行ったらセクハラなんだろうって」
 1つ目の約束。バレない様にするのはどうとでもなるのだけど2つ目に関しては分からない。
「そりゃあ急に触ったらセクハラじゃない?」
「じゃあ許可取ったら良いの?」
「それなら大丈夫…か…いやでも友達同士のスキンシップ程度なら許可なくても良いの…か?」
「えー。どっちよ?」
「あー。私が悪かった。ケースバイケースで考えて頂戴」
 そう言って陽奈は向きを変える。どうやらこれでこの話は終わりらしい。ケースバイケースねぇ…。ふむふむ。
「はむ」
「わひゃっ!?」
 陽奈の叫び声でクラスメイトの視線がこっちに向く。
「な…!何すんのよ!」
 そう言いながら私の頭を叩く。…痛い。
「何って…耳甘噛みしただけだもん」
「あんたねぇ…それはセクハラだから」
「難しいこと分からな~い」
「全く…もういいや…」
「そういえば成美遅いね」
 周りに「何でも無い」と説明している陽奈に聞こえる様に話しかける。
「この雰囲気でよくもまぁ…あの子はいつも時間ギリギリに登校して来るからねぇ」
「そうなの?」
「そっ。昔は一緒に登校していたんだけど…。私まで遅刻しそうになったから今は別々」
 確かにいつも3人で集まる時は成美が1番最後だ。最後といっても時間ギリギリか2,3分遅れで来るのだけれども。
「心配にならない?」
「あー。多分あんたとは違う意味で心配はするよ」
「どういう意味?」
 すると陽奈は少し考え込んで
「成美に聞きなよ。今のあんたなら話してくれると思うよ」
 そう言ってまた向きを変えた。私はそれ以上聞かず始業のチャイムを待った。
「ギ、ギリギリセーフ!」
 そう言いながら大袈裟なアクション付きで成美が登校してきたのはチャイムが鳴る2分前だった。
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