魂を紡ぐもの

にゃら

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第1章

部活

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 放課後。今日になって気付いたのだがどうやら私と一般的な高校生とでは基本スペックが違うらしい。特にはっきりと現れたのは体育と歴史の授業。体育の時間に行われた体力測定。念の為と思い少し手を抜いてしたのだが…。その記録がどれもオリンピックレコードを出す記録だったみたいで周りを困惑させてしまった。もう少し手を抜こう。歴史に関しては私が実際に見たのとは違う話になっていた。まぁ…だからと言ってそれ違いますよ。とわざわざ教える事はないだろう。後から陽奈に怒られそうだし…。実際怒られたし。
「成美遅いね」
 授業が終わって
「ちょっと待ってて!」
 と言い残しダッシュで教室から出て行ってから10分程経っている。
「何しているんだか…」
 はぁと深い溜息を吐きながら陽奈が答える。
「トイレ…にしては長いよね。便秘?」
「あんたはもう少しオブラートに包んで話しなさいよ」
「薔薇の木を伐採して参りますわ!」
「どこで覚えたそんな言葉…」
 そんな会話をしながら待つ事更に10分。
「お待たせ!」
 勢い良く教室の扉を開け成美が帰って来た。
「遅かったね」
「何していたわけ?」
「ほら昨日話したじゃん?重大発表があるって。その準備に思ったより時間掛かっちゃった!」
 そう言いながら私と陽奈に手紙を渡して行く。
「部活を作ります!」
 教室中に響く声で宣言した。誰か居たら確実にうるさいって言われそうだ。誰も居なくて良かったね成美。
「……何言っているの?」
 私より先に陽奈が反応する。
「いや~。昔から憧れていたんだよね。自分で部活作って楽しむ高校生ってやつに!シズクも来たしこれはチャンス!って思ってね」
「全くもって説明になっていないしそもそも何の部活よ」
「決めてない」
「…はぁ!?それなのに部活作るって!?」
「そう!」
「なんか…頭痛くなってきた…」
 そう言いながら机に伏せる陽奈。
「シズクは?どっかの部活からスカウトされている?」
「陸上部からはされたよ」
 今日の体育の時間が原因で顧問の先生から入って!と言われたけど
「でも私は成美が作る部活に入りたいな」
「流石シズク!話が分かる!」
 親指を立ててグッド!のポーズを取る成美を片目に
「あんた達ねぇ…せめて何するか決めてから話しなさいよ…。それに部活の新規申請って5人以上必要でしょ?そもそもの人数が足りてないからね」
 溜息混じりで陽奈が話す。
「その辺は大丈夫!愛好会か研究会だと3人でも申請できるから!部室もあるよ。ついて来て!」
 そう急かされ私達は鞄を持って教室から出て行く。
 成美について行った先は図書室だった。
「川井先生!来たよ~!」
「神埼うるさい。図書室では静かに」
 カワイと呼ばれた女の人が応じる。茶色のロングの髪に青色のピアスを吐けている。2人とそんなに年は変わらないだろう。多分20代だと思う。
「何で図書室?」
「ほら私1年の時から図書委員でしょ?それで川井先生と仲良くなってね!」
「だから説明になっていないから」
「用があるのはこっち」
 そう言って図書室の奥へと入って行く。私達は黙ってそれについて行く。
「こ・こ!」
 『図書準備室』と書かれた部屋の前で止まった。
「今日からここが部室です!」
「勝手に使って良いの?」
「大丈夫!ちゃんと許可は取ってる!ねー!川井先生!」
 そう言いながら走って川井先生の許に走って行く。
「だから神埼うるさい。それと走るな」
「先生良いのですか?」
 追い付いた陽奈が言う。
「ああ。何なら私が顧問だしな。神埼との約束だからな」
「何するかも決まっていないんですよ?」
「ん?そうなのか?なら早めに活動内容を書いた申請書持って来てくれ」
 多分だけれどもこの先生成美の勢いに負けて顧問を引き受けてくれたのだろう。名前は貸すが迷惑はかけないでくれ。とか言っていそうなイメージだ。
「あっ!1つ言うの忘れていた」
「…何?」
「先生からね1個だけお願いされていたの。月1回図書室の大掃除手伝うって」
 陽奈はぁと深い溜息を吐き、頭を掻きながら
「…分かった。どうせ止めたって無駄でしょ?」
 そうしぶしぶ了承した。
 こうして部活名もとい愛好会名不明。活動内容不明の謎しかない愛好会が新しく作られることになった。
「それじゃ私バイトあるから」
 陽奈の言葉をきっかけに私達は図書室を後にする。
「ねぇシズク」
「何?」
 下駄箱で靴に履き替えている私に成美が話しかけてくる。陽奈はさっさとバイトに向かった。大分慌てていたから遅刻ギリギリなのだろう。下駄箱には昨日同様何通か手紙が入っていた。
「なんか…ゴメンね」
「何が?」
「ほら…養子だって隠していたし。今日も無理矢理連れ回したし」
 私と目線を合わさずずっと俯いている。
「成美は成美でしょ?誰の子供とか私には関係ないよ」
 親が立派だから子も立派に育つとは限らないし。
「それに」
 私は話を続ける。
「私は成美のおかげで変わる事が出来た。成美が居なければ今の私は存在していない。だから私は色々な景色を見せてくれる成美が大好きだな」
「そっか…ありがと」
 ようやく目線を上げ真っ直ぐ私を見て
「でもシズクには私達にまだ言っていない事があるよね」
 瞳はくっきりと私を写していた。だからだ。だから私はこの2人と一緒に居る道を選んだのだ。何物にも代える事が出来ない2人を。嘘や隠し事が通じない2人を。
「あるよ」
 ゆっくりと頷く。
「それはまだ言えない事なの?」
 少しだけ。ほんの少しだけ眉をピクリと動かし
「うん」
 そう告げた。
 木々が風にゆれガサガサと音を立て一瞬の静寂が訪れる。
「分かった」
 大切な2人にすべてを話したい。話しても2人はそれを受け入れてくれると思っている。それでも話す事は出来ない。完全に2人を巻き込みたくないという私のエゴだ。私のエゴなのに成美は
「あ、でも困ったらちゃんと教えてよね。私達だってシズクの手伝い位出来るからね」
 そう笑って許してくれる。そしてその言葉は奇しくも昨日私がサクマに告げた言葉と類義していた。
「頼りにしているよ。リーダー」
「よし!じゃあ陽奈のバイト先に行きますか!」
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