魂を紡ぐもの

にゃら

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第2章

味見

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「来た」
 私はそう呟き、コーヒーの入ったマグカップを置いた。
「彼女がそうなのですか?」
「うん。前と少しだけ雰囲気が違うのは誰かさんが余計なことでもしたんでしょ」
 のんびりコーヒーを飲んでいる大地を睨む。目を合わそうとしない。
「連絡していたでしょ?」
「何のことか分からない」
「携帯みた」
「プライバシー!」
「私の事好きって言ったくせに」
「だから覚えてないって!」
 忘れるなんて酷いけど生きている時の話だし忘れていても仕方ないか。
「それより彼女の迎え俺が行くから」
「ダメ。私が行く」
「なんで?」
「お腹すいたから」
「答えになってない」
「分からなくて良いの…知らない方が良いこともあるからね」
「何だよそれ」
「早く行ってあげてください。それとやりすぎないように」
「分かっているよ」
 残っていたコーヒーを一気に飲み、ソファーから腰を上げる。待たされて約2週間。途中でつまみ食いしそうになったけど我慢した。今日の為に。大地の邪魔があったけど仕方ない。人間とはそういう生き物なのだから。でも今の彼女じゃ少し物足りないな。最高の状態にしないと意味が無い。せっかく我慢したのだし。それに……もう昔の私じゃないのだから。
「どんな味がするのかな。楽しみ」
 玄関ドアを開け、桜井加奈を見る。あぁ美味しそうだ。

「何ここ…」
 大地から貰った紙に書かれていた住所に来るとそこにあったのは
「病院だよね…ここ」
 どうみても病院だった。こんなところに病院があるなんて聞いた事がない。それになぜ大地がこんな場所の住所を教えてくれたのか分からない事だらけだ。大地が仮にこの家の子だとすると…上手くいけば欲しいものが沢山手に入る。とにかく大地に会って話を聞かないと。
「どこから入るんだろ」
 玄関から普通に入って良いものだろうか。裏から入れる場所があるのではないか。なんて考えていたら入口の玄関のドアが開いた。
  背筋がぞっとした。
そこには笑っていたがどこか不気味な雰囲気の少女がそこにはいた。
「ようこそ桜井加奈」
「なんで私の名前…」
「大地に会いに来たんでしょ。でも残念ね。大地には会えない」
「何よそれ。てかあんた誰よ」
「私の名前はシズク。大地とは昔好きって言われた関係」
 この女ムカつく!嫌いだ!
「元カノが私に何の用よ」
「別に付き合っていた訳じゃないし。今の大地にはあまり興味ない」
「じゃあ何の用!」
「今興味あるのは貴女。桜井加奈」
「どういう意味よ」
 彼女がゆっくりと私に近付いてくる。笑いながら。
 近付く。彼女は笑っている。
 近付く。彼女から目をそらすことができない。
 近付く。
    怖い・・・
 近付く。 
    逃げ出したい 
 近付く。
 身体が言うことを聞かない。足が震える。何故か分からないが彼女が怖い。
「やめ…こない…で」
 彼女は目の前にいた。
「いただきます」
 唇が重なった。

 我慢が出来なかった。唇が離れ
「ごちどうさま」
 そう呟いた。思っていた通り彼女は最高だ。美味しい。全て食べたいところだがサクマに怒られてしまうし、なにより昔の私ではない。
「な、何するの!?」
「何って…味見?」
「ふざけないでよ!」
「別にふざけて…あ、そうだ桜井加奈」
 私は桜井加奈を見た。顔が赤くなっているのは怒っているからだろう。それにしても
「まさか人まで殺しているなんて。流石に気が付かなかったわ」
「…え」
 彼女の顔から血の気が引いていくのが分かる。彼女の後ろには何人もの『記憶のカケラ』が有るのだがまさか死人のカケラが残っているとは思わなかった。陽奈が最悪と言っていたのは多分このカケラを視たから。
「安心して。別に警察に突き出そうとか思っていないから」
「違う!私は殺してなんか!」
「そっ。まあいいわ。別に桜井加奈の言い訳に興味ないから」
「あれは事故なのよ…事故…」
「だから興味ないから。ただ、桜井加奈。貴女が感じているものは解決してあげる」
「どういう…意味」
「簡単に言うなら霊に取り憑かれている状態ってとこね」
「そんな」
「詳しくは中で話してあげる」
 扉を開き
「大地も待っているわよ」
 そう笑って伝える。
「助けてあげる」
 最後にそう伝え彼女を家へ招いた。
 扉が閉まったその瞬間その建物は跡形もなく消え、周りには木々が生い茂っていた。
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