魂を紡ぐもの

にゃら

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第2章

ようこそ

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「ようこそ桜井加奈さん」
 部屋に入るとそこには男の人が2人いた。1人はよく知っている大地。もう1人は初めて見た男の人。お父さんには若いしお兄さんには顔が全く違う。
「大地。久しぶり」
「こんばんは。佳奈」
「へぇ。大地って桜井加奈のこと佳奈って呼んでるんだ」
「何よ。元カノさんは名前で呼ばれたことないの?ってかなんで一緒にいるわけ。あんな嘘までついて」
「ひ・み・つ」
 この女はやっぱり嫌いだ。
「大地はここで何をしてるの?」
「ん~手伝いってとこですかね」
「ここ病院だよね。じゃあ将来は医者?」
「いや…そういう訳ではないけど」
「じゃあ」
 なぜここにと言おうとするとそれを邪魔するかのように男の人が私にコーヒーを渡し
「本題に入っても良いですか?」
 そう続けた。
コーヒーを受け取り1口飲み頷く。
「桜井加奈さん。貴女は最近変わったことありますか?例えば生活とか」
「別に何も変わらないけど」
「それは本当に?」
 じっと目を見られる。まるで嘘を見透かされているかのように。思わず目をそらし顔を伏せる。
「……」
「言いにくいなら無理して言わなくても構いません。特に『死』に関する事は言いにくいですしね」
「それは…」
「ただ、その件が原因で貴女には沢山の霊が憑いてしまっています」
 当時大好きだった彼を目の前で失った。警察はそれを事故と処理したが私の頭の中は空っぽになった。彼の両親は私を責めてもおかしくないのに「あいつの分までしっかりと生きて」と優しく接してくれた。それが逆に辛かった。なんで誰も私を責めないのか。それが不安で堪らなかった。そんな時出会ったのが今の仲間達だ。私は頭の中を埋める様に仲間達とつるんだ。それが悪い事かなんてその時の私には分からなかった。そんな私をずっと見て来たかの様にこの男は話す。
「どうして…」
「このままいくと死にますよ?」
 思わず顔を上げる
「死ぬって…そんな…」
「大丈夫ですよ。まだ間に合いますから」
 優しい笑顔を見せる男の人。
「どうしたらいいですか」
「治療を行います」
「治療ですか」
「はい。まず貴女にはここで眠ってもらいます。貴女の場合ですと夢の中で2週間生活してもらうと思いますが」
「どういう意味」
 話が分からない。夢の中で生活とか。そんな自由自在に夢って操れるものなの?
「今は分からなくても大丈夫です」
 変わらず優しい笑顔。
「貴女が夢の中にいる間に憑いているモノを落とします」
「寝ないとダメですか?」
「そうですね。深層世界に触れていきますので」
「そうですか」
「その間何があっても良いように結界を張りますので安心して眠って下さい」
「解りました。お願いします」
 カップを置き、頷く。分からない事だらけだが何故か彼に反論出来る気がしない。生きるためだから仕方ない。まだまだしたい事は沢山ある。
「ではベッドへ案内します」
「あの…大地に案内してもらっても良いですか?」
「構いませんよ」
「ありがとう。えっと…貴方の名前は?」
 今更ながら彼の名前を知らなかった
「今はサクマと名乗っています」
 変わらず優しい笑顔。だけどどこか寂しい笑顔でサクマが答えた。
「じゃあ佳奈行こうか」
 大地に促され部屋を出た。
 2人が部屋から出ていくのを確認し、サクマにコーヒーを渡す。
「随分優しいわね」
「そうかい…美味しいよ」
 サクマはコーヒーを1口啜り答える。
「嘘つき」
 私の淹れるコーヒーは正直美味しくない。ただサクマにはあまり関係がないのだろう。
「味覚戻るといいね」
 私の呟きに寂しい表情を見せる。
「それでも誰かに煎れて貰ったのは美味しいですよ。だから嘘ではないですね」
 じっとサクマの顔を見る。
 いつからだろうか。初めて出会った時はあんなに敵対していたのに今ではサクマの事を常に考えてしまう。
 いつからだろうか。あれ程嫌っていて消そうとしたこともあったのに今ではいないと寂しいと感じるのは
「……したのでしょ?」
「え?ゴメン。聞いてなかった」
「味見したのでしょ?」
「したよ。美味しかった」
「そう…」
「またそうやって考える!良いの!私がこうしたいのだから」
 相変わらず人の事ばかり気にする。その優しさが結局自分の身を脅かしているのに。その優しさに甘えてしまう自分は嫌いだ。心地良い時間と思ってしまう。
「そろそろ行きましょうか」
「そうね。もう寝ているだろうし…ねえサクマ」
「なんだい?」
「大好き」
「ありがとう」
 いつからだろうか。こうして本気で言っている事に対してありがとうと言ってくれるようになったのは。


「寝るまで一緒にいてくれる?」
 ベッドに入り大地に向け言う。正直怖い。
「寝るまでいます。報告もあるし」
 相変わらず変な敬語だ。
「ありがと」
 それにしてもなぜ彼らには分かったのだろうか。私の性格が変わったこと。彼が原因となったこと。目の前で死んだこと。まるでその場にいたかの様に分かっていた。警察の関係者かとも思ったけど違う。あれは事故だって認められた。じゃあ彼らは何者?人間とは思えない…じゃあ大地も人間じゃない…。
「最初に会った時に渡した紙は持ってる?」
「持ってるよ」
 そう。この紙を大地から貰ってから私の中で変な感覚が生まれた。たまに見せる大地の変な表情。たまに起きた変な現象。この紙がなければ何も起きなかったのかも知れない。
「その紙は夢の中に持っていけます。決してなくさないで。なくすと大変な事が起きますから」
「分かった」
 本当は分かっていない。夢の中に実際のモノを持っていく事が出来るなんて聞いた事がない。それでも私は怖くて聞くことが出来ない。
「眠れないの?」
「そうね。色々考えてしまって」
「大丈夫ですよ。もうじき薬が効いてくるから」
「それって…」
 どういう意味と聞こうとしたが身体がふらつき、言葉が出ない。
「おやすみ。せめていい夢を」
 その言葉を最後に眠ってしまった。


「眠りましたか?」
 2人が部屋に入ってくる
「あぁ。色々感じ取っていたみたい」
「そうですか」
「それでこれからどうするの?」
「どうもこうもいつも通りだろ?」
「違うわよ。いいの?大地はそれで。いつも通り彼女の記憶から私たちの記憶を無くして」
 相変わらず人の感情や表情に鋭い。だからこそこういう人間を見つけるのが得意なわけだ。
「仕方ないことだ。彼女の為だから」
「そう…じゃあ始めるわ。サクマもいい?」
「構いませんよ」
 本音を言うなら忘れて欲しく無い。せっかく出会えたのに忘れられてしまうのはやっぱりどこか寂しいものがある。ただ…俺はこの世に存在しないモノなのだから忘れた方が良い。シズクの事もサクマの事も。忘れた方が良い。知らなくて良い世界だってある。
「ルクスよ!契約の元シズクが命じる!導く桜井加奈の魂を封印せよ!」
 佳奈の身体が光りだす。この時いつもシズクはどこか辛そうな表情を見せる。昔何かあったのだろうか。とても大切な人を亡くしたのを思い出しているような顔だ。
 それが俺だったら良いのに…。
 なんて思うのは昔の名残なのか、それとも今の感情なのかよく分からない。そもそも昔どうやってシズクと出会って告白してその後どうなったのか覚えていない。じゃあ今の感情なのかと思えばそれも違う。確かにシズクは可愛いし笑顔も素敵だ。だが本性は最悪だ。腹が減ったと言って人を起こすし買い物したいと言って3人の荷物持ちにされるし。
 じゃあこの感情はなんだ。
 分からない。それで今は良い気がする。
「……終わったわ」
 さっきまでの辛そうな表情はなく笑顔のシズクがそこにはいた。やっぱ笑顔だと可愛いと思う。
「なに大地?変な顔して」
「いや別に」
 鋭い女だ。考えている事が分かっているのかと思ってしまう。
「そう…サクマも自分でやってくれないし…もう疲れた!」
「前にも言いましたが」
「はいはい。対等な関係の為ね。分かってる」
 わざとらしく頬を膨らませている。こういうシズクを見ると外見相応の幼さを感じる。まぁ、実際の年齢は知らないし知りたくもない。
「あぁお腹空いたな」
「何か作ろうか。彼女も眠りについたし」
「ありがと」
 3人で部屋を出る。残ったのは輝きを失いゆっくり眠る佳奈と時間だけだった。
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