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第一章 名医の条件、仁医の条件
深謀遠慮
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時を同じくして、グスタヴス家は噂の渦中にあった。
現当主の葬儀が出来ない。
葬儀を延期させて頂きますと、セシリャが公表したからだ。
邸内は勿論、腹に一物を抱える分家も上を下への大騒ぎだ。
弔問の準備をしていた準皇族、貴族、準貴族は面食らい、グスタヴス家の動向を注視した。
遺言書がない限り、イシリエン帝国では配偶者と嫡子が遺産を相続する。
ただし、女性に爵位と領地の相続権はない。
嫡男が未成年の場合、成年まで後見人(大半は正妻か嫡女)が付く。
グスタヴス家の爵位と領地は嫡子の性別が分かるまで保留し、それ以外の遺産をセシリャが相続するという事だ。
男児が生まれたら我が家の娘をっ!と考える家にとっても、女児が生まれたら我が家の息子をっ!と考える分家にとっても、再婚するなら我が家の息子をっ!と考える家にとっても、現当主の葬儀は恙無く終えて欲しい。
それが分かっているからこそ、セシリャは葬儀を延期した。
『あの日の外出は突然決まった事、セバスティオンが知ったのは朝で、私が知ったのは夕方、内通者がいなければ暗殺者は送れません。
犯人が誰であれ、葬儀の延期は避けたいでしょう。
必ず動きますわ』
セシリャの自室はグスタヴス邸(別邸)の中央にあり、右が衣装室、左が夫婦の寝室になっている。
ロテュスの彫刻と刺繍がそこかしこにあるのは、ロテュスは想い出の花ですのと、彼女が言ったからだ。
ソファーにゆったりと座り、フィリップから贈られたネックレスを撫でるセシリャ。
その目には冷たい光が宿っている。
『私にとって、ロテュスは想い出の花、故郷の花ですわ。
身売り婚と揶揄され、社交界に馴染めない私を慮って、フィリップ様は事あるごとにロテュスを象った装飾品を贈って下さいました。
貴婦人にそぐわない振る舞いも、今となっては良い経験ですわ。
何も出来ない、何も知らないが許される身ではありませんもの』
腹を括ったセシリャの微笑みは怖い。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花というが、これでは花のはの字も寄り付かない。
立てば恐怖、座っても恐怖、微笑む姿は鬼のようだ。
本人には言えないが。
翌日、事が動いた。
グスタヴス邸の庭師の一人が失踪したのだ。
彼の弟子が朝食を運んだ時に気付き、セシリャの耳に入った。
すぐに捜索が始まったが、部屋はもぬけの殻、メモや手紙の一枚さえ残っていない。
にっちもさっちもいかなくなり、セシリャは従兄弟を頼った。
彼は二年前に哨鎧騎士団に入団しており、身分は低いが、その分融通が利く。
翌日の夜、従兄弟が吉報(庭師が見付かった)と凶報(遺体になっていた)を持って来た。
グスタヴス邸は蜂の巣をつついたようになり、その音に叩き起こされたセシリャは貴婦人として恥ずかしくない程度に身形を整え、動物園の熊のように玄関をうろついていた従兄弟を落ち着かせ、そのまま哨鎧騎士団の詰所に向かった。
現当主の葬儀が出来ない。
葬儀を延期させて頂きますと、セシリャが公表したからだ。
邸内は勿論、腹に一物を抱える分家も上を下への大騒ぎだ。
弔問の準備をしていた準皇族、貴族、準貴族は面食らい、グスタヴス家の動向を注視した。
遺言書がない限り、イシリエン帝国では配偶者と嫡子が遺産を相続する。
ただし、女性に爵位と領地の相続権はない。
嫡男が未成年の場合、成年まで後見人(大半は正妻か嫡女)が付く。
グスタヴス家の爵位と領地は嫡子の性別が分かるまで保留し、それ以外の遺産をセシリャが相続するという事だ。
男児が生まれたら我が家の娘をっ!と考える家にとっても、女児が生まれたら我が家の息子をっ!と考える分家にとっても、再婚するなら我が家の息子をっ!と考える家にとっても、現当主の葬儀は恙無く終えて欲しい。
それが分かっているからこそ、セシリャは葬儀を延期した。
『あの日の外出は突然決まった事、セバスティオンが知ったのは朝で、私が知ったのは夕方、内通者がいなければ暗殺者は送れません。
犯人が誰であれ、葬儀の延期は避けたいでしょう。
必ず動きますわ』
セシリャの自室はグスタヴス邸(別邸)の中央にあり、右が衣装室、左が夫婦の寝室になっている。
ロテュスの彫刻と刺繍がそこかしこにあるのは、ロテュスは想い出の花ですのと、彼女が言ったからだ。
ソファーにゆったりと座り、フィリップから贈られたネックレスを撫でるセシリャ。
その目には冷たい光が宿っている。
『私にとって、ロテュスは想い出の花、故郷の花ですわ。
身売り婚と揶揄され、社交界に馴染めない私を慮って、フィリップ様は事あるごとにロテュスを象った装飾品を贈って下さいました。
貴婦人にそぐわない振る舞いも、今となっては良い経験ですわ。
何も出来ない、何も知らないが許される身ではありませんもの』
腹を括ったセシリャの微笑みは怖い。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花というが、これでは花のはの字も寄り付かない。
立てば恐怖、座っても恐怖、微笑む姿は鬼のようだ。
本人には言えないが。
翌日、事が動いた。
グスタヴス邸の庭師の一人が失踪したのだ。
彼の弟子が朝食を運んだ時に気付き、セシリャの耳に入った。
すぐに捜索が始まったが、部屋はもぬけの殻、メモや手紙の一枚さえ残っていない。
にっちもさっちもいかなくなり、セシリャは従兄弟を頼った。
彼は二年前に哨鎧騎士団に入団しており、身分は低いが、その分融通が利く。
翌日の夜、従兄弟が吉報(庭師が見付かった)と凶報(遺体になっていた)を持って来た。
グスタヴス邸は蜂の巣をつついたようになり、その音に叩き起こされたセシリャは貴婦人として恥ずかしくない程度に身形を整え、動物園の熊のように玄関をうろついていた従兄弟を落ち着かせ、そのまま哨鎧騎士団の詰所に向かった。
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