44 / 61
新しい病院で
しおりを挟む
*遼介*
レモンイエローのフレアーをひるがえして、彩矢ちゃんはマンションへ駆けていった。
彩矢ちゃんの気持ちも考えないで、どうしてあんなことが出来たんだ。
いくら、拒まなかったからといって。びっくりして動けなかったのかも知れないのに。
かなり自暴自棄になっていた自分に気づく。松田先生にバレてもいい、バレた方がいい、彩矢ちゃんが離婚されて、俺のところに来てくれたら……。
そんな思いがあって逢いに来てしまった。
あんなことをして、彩矢ちゃんは怒っているかな。ひどく傷つけてしまったのかも知れない。
車に戻り、自宅アパートへ向かう。
途中、やっぱり謝ったほうがいい気がして、道路わきへ停車した。
電話をしてみると、LINEは早くもブロックされていた。
ひどくショックを受けて、あまりに軽率だった行動を深く後悔する。
もう二度と逢ってはくれない気がした。
意気消沈してアパートへ帰ると、有紀がいつになく明るい笑顔で迎えてくれた。
だけど今日はそれが鬱陶しく感じられて仕方がなかった。ご飯はいらないといって、すぐに風呂へ直行する。
風呂からあがると、有紀が待ちかまえていたように話しかけて来た。
どうしたというのか?
ずっと不機嫌で、無視していたのに。
姉貴が元気のない俺を心配をして、電話をくれたとのことだ。
実家であんなに元気に振る舞っていたのに、母も姉貴もお見通しだったというわけか。
どこまでも、いつまでたっても頼りない男なんだな。
彩矢ちゃんに完全に拒否されて、今はさらに失意のどん底にいる。
有紀がまだなにか言いたげに話しかけて来たけれど、とても聞いていられなかった。
疲れているからもう寝ると言って、寝室へ逃げた。
ベッドへ横になり、涙を浮かべていた彩矢ちゃんの顔を思い出していた。
ごめん、彩矢ちゃん……。
しばらくすると、有紀がベッドへ入ってきたので、寝たふりをする。
なにを思ったのか、すり寄ってきたので慌てた。
今まで、ずっと拒否し続けていたのに……。
谷さんはもうすぐ結婚してしまうから、諦めたということか。
だからって、……。
俺はもうそんな気にはなれない。
今日から新しい病院での勤務が始まる。
色々な科がある、中規模な総合病院だ。
真新しいユニホームに着替える。久しぶりの白衣に新鮮な喜びを感じた。五十代後半ぐらいか? 白髪混じりの事務長に各部所を案内され、挨拶まわりに連れていかれる。
三人の医師を紹介された。医師との相性が一番重要だけれど、普通の常識的な医師に見えたので、とりあえずホッとする。
外来、薬局、事務室、検査室、リハビリ等をまわって、一番緊張する病棟が最後だった。
ナースステーションでは、ちょうど申し送り前の朝のミーティングが始まっていて、たくさんの職員が勢ぞろいしていた。
連絡事項が終わったところで、事務長から紹介される。
「放射線の新しい技師さんです、」
事務長から簡単に振られた。
一斉の注目とともに、どよめきが起こる。
「うひゃ~、めっちゃイケメン!」
こんなことを恥じらいもなく大声で言うのは、いつも中年のおばちゃんナースだ。
「あ、佐野 遼介です。よろしくお願いします」
そう言って軽く頭をさげた。
「 佐野さ~ん、あとで胸の写真撮ってもらうからよろしくね~~!」
中年太りした化粧の濃いナースがウインクをして言うと、ギャハハハとナース達から笑い声があがった。
イケメンなどとはやし立てるけれど、ウケを狙っているだけだろう。別段、俺に興味がある訳ではない。いつものようにおちょくられて、ナースステーションを後にした。
仕事内容はほとんど変わらないので、職員にさえ慣れれば、特に問題はないように思われる。
夕方、今日の仕事はほぼ終わり、自販機で飲み物を買っていたら、背後から声をかけられた。
「あら、佐野さんじゃない!」
振り返ってみると、以前同じ病院だった北村沙織だった。
「あ、北村。ここの病院だったのか」
「まだ、来たばかりよ。一週間前に」
今時のナースは白衣をばかりではない。ほっそりとした北村は、濃紺のユニホームが似合っていた。
相変わらず見た目は綺麗だが、なにか企んでいそうな、危ない気配を感じる女だ。
「そうか、俺は今日からなんだけど」
「へ~ 奇遇ね、色々話したいこともあるし、今度飲みに行きましょうよ」
「えっ、あ、う、うん」
さすがに即座には断れず、あいまいな返事で誤魔化す。
「今日はこれから夜勤なの。じゃあね!」
北村が結婚退職して、東京へ行ったのは四年前だったかな? 離婚をして戻ってきたのだろうか? とにかく、あまり関わりたくない感じの女だ。
まぁ、それ以外は特に問題もなく初日の仕事を終えた。やはり、宅配の仕事よりは楽だし、向いていると思った。やりがいと、楽しささえ感じられる。
この病院でずっと働けたらいいけれど。
彩矢ちゃんも働きたいと言っていたけれど、どこの病院で働くのだろう。
二人の子供を、保育所に預けて働くのは大変だろうな。
五時半を過ぎてタイムカードを押し、更衣室で着替える。
職員通用口から外に出ると、九月になって少し日は短くなってはいるものの、日没前のこんな明るいうちに帰れることに驚く。
以前なら家に帰ると、食べて風呂に入って寝るだけだったけれど。
早く帰ってなにをしよう……。
有紀ももうアパートに帰っているのだろうか。あまり早く帰りたくない。今の二人の状況で、あの狭いアパートは居心地が悪すぎる。
パチンコでもして帰ろうかと思ったけれど、ギャンブルはやっぱりやめておこうと思い、本屋に立ち寄る。
雑誌を数冊立ち読みしたあと、文庫本を二冊買って、アパートへ帰った。
アパートの玄関をあけると見慣れない靴が二足あった。誰が来てるのだろう。
リビングへのドアを開けると、室蘭の両親がソファに座っていた。
「どうしたんだよ、急に!」
心配げに俺を見つめる両親に、思わず叫んでいた。
レモンイエローのフレアーをひるがえして、彩矢ちゃんはマンションへ駆けていった。
彩矢ちゃんの気持ちも考えないで、どうしてあんなことが出来たんだ。
いくら、拒まなかったからといって。びっくりして動けなかったのかも知れないのに。
かなり自暴自棄になっていた自分に気づく。松田先生にバレてもいい、バレた方がいい、彩矢ちゃんが離婚されて、俺のところに来てくれたら……。
そんな思いがあって逢いに来てしまった。
あんなことをして、彩矢ちゃんは怒っているかな。ひどく傷つけてしまったのかも知れない。
車に戻り、自宅アパートへ向かう。
途中、やっぱり謝ったほうがいい気がして、道路わきへ停車した。
電話をしてみると、LINEは早くもブロックされていた。
ひどくショックを受けて、あまりに軽率だった行動を深く後悔する。
もう二度と逢ってはくれない気がした。
意気消沈してアパートへ帰ると、有紀がいつになく明るい笑顔で迎えてくれた。
だけど今日はそれが鬱陶しく感じられて仕方がなかった。ご飯はいらないといって、すぐに風呂へ直行する。
風呂からあがると、有紀が待ちかまえていたように話しかけて来た。
どうしたというのか?
ずっと不機嫌で、無視していたのに。
姉貴が元気のない俺を心配をして、電話をくれたとのことだ。
実家であんなに元気に振る舞っていたのに、母も姉貴もお見通しだったというわけか。
どこまでも、いつまでたっても頼りない男なんだな。
彩矢ちゃんに完全に拒否されて、今はさらに失意のどん底にいる。
有紀がまだなにか言いたげに話しかけて来たけれど、とても聞いていられなかった。
疲れているからもう寝ると言って、寝室へ逃げた。
ベッドへ横になり、涙を浮かべていた彩矢ちゃんの顔を思い出していた。
ごめん、彩矢ちゃん……。
しばらくすると、有紀がベッドへ入ってきたので、寝たふりをする。
なにを思ったのか、すり寄ってきたので慌てた。
今まで、ずっと拒否し続けていたのに……。
谷さんはもうすぐ結婚してしまうから、諦めたということか。
だからって、……。
俺はもうそんな気にはなれない。
今日から新しい病院での勤務が始まる。
色々な科がある、中規模な総合病院だ。
真新しいユニホームに着替える。久しぶりの白衣に新鮮な喜びを感じた。五十代後半ぐらいか? 白髪混じりの事務長に各部所を案内され、挨拶まわりに連れていかれる。
三人の医師を紹介された。医師との相性が一番重要だけれど、普通の常識的な医師に見えたので、とりあえずホッとする。
外来、薬局、事務室、検査室、リハビリ等をまわって、一番緊張する病棟が最後だった。
ナースステーションでは、ちょうど申し送り前の朝のミーティングが始まっていて、たくさんの職員が勢ぞろいしていた。
連絡事項が終わったところで、事務長から紹介される。
「放射線の新しい技師さんです、」
事務長から簡単に振られた。
一斉の注目とともに、どよめきが起こる。
「うひゃ~、めっちゃイケメン!」
こんなことを恥じらいもなく大声で言うのは、いつも中年のおばちゃんナースだ。
「あ、佐野 遼介です。よろしくお願いします」
そう言って軽く頭をさげた。
「 佐野さ~ん、あとで胸の写真撮ってもらうからよろしくね~~!」
中年太りした化粧の濃いナースがウインクをして言うと、ギャハハハとナース達から笑い声があがった。
イケメンなどとはやし立てるけれど、ウケを狙っているだけだろう。別段、俺に興味がある訳ではない。いつものようにおちょくられて、ナースステーションを後にした。
仕事内容はほとんど変わらないので、職員にさえ慣れれば、特に問題はないように思われる。
夕方、今日の仕事はほぼ終わり、自販機で飲み物を買っていたら、背後から声をかけられた。
「あら、佐野さんじゃない!」
振り返ってみると、以前同じ病院だった北村沙織だった。
「あ、北村。ここの病院だったのか」
「まだ、来たばかりよ。一週間前に」
今時のナースは白衣をばかりではない。ほっそりとした北村は、濃紺のユニホームが似合っていた。
相変わらず見た目は綺麗だが、なにか企んでいそうな、危ない気配を感じる女だ。
「そうか、俺は今日からなんだけど」
「へ~ 奇遇ね、色々話したいこともあるし、今度飲みに行きましょうよ」
「えっ、あ、う、うん」
さすがに即座には断れず、あいまいな返事で誤魔化す。
「今日はこれから夜勤なの。じゃあね!」
北村が結婚退職して、東京へ行ったのは四年前だったかな? 離婚をして戻ってきたのだろうか? とにかく、あまり関わりたくない感じの女だ。
まぁ、それ以外は特に問題もなく初日の仕事を終えた。やはり、宅配の仕事よりは楽だし、向いていると思った。やりがいと、楽しささえ感じられる。
この病院でずっと働けたらいいけれど。
彩矢ちゃんも働きたいと言っていたけれど、どこの病院で働くのだろう。
二人の子供を、保育所に預けて働くのは大変だろうな。
五時半を過ぎてタイムカードを押し、更衣室で着替える。
職員通用口から外に出ると、九月になって少し日は短くなってはいるものの、日没前のこんな明るいうちに帰れることに驚く。
以前なら家に帰ると、食べて風呂に入って寝るだけだったけれど。
早く帰ってなにをしよう……。
有紀ももうアパートに帰っているのだろうか。あまり早く帰りたくない。今の二人の状況で、あの狭いアパートは居心地が悪すぎる。
パチンコでもして帰ろうかと思ったけれど、ギャンブルはやっぱりやめておこうと思い、本屋に立ち寄る。
雑誌を数冊立ち読みしたあと、文庫本を二冊買って、アパートへ帰った。
アパートの玄関をあけると見慣れない靴が二足あった。誰が来てるのだろう。
リビングへのドアを開けると、室蘭の両親がソファに座っていた。
「どうしたんだよ、急に!」
心配げに俺を見つめる両親に、思わず叫んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる