六華 snow crystal 3

なごみ

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新しい病院で

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*遼介*

レモンイエローのフレアーをひるがえして、彩矢ちゃんはマンションへ駆けていった。


彩矢ちゃんの気持ちも考えないで、どうしてあんなことが出来たんだ。


いくら、拒まなかったからといって。びっくりして動けなかったのかも知れないのに。


かなり自暴自棄になっていた自分に気づく。松田先生にバレてもいい、バレた方がいい、彩矢ちゃんが離婚されて、俺のところに来てくれたら……。


そんな思いがあって逢いに来てしまった。


あんなことをして、彩矢ちゃんは怒っているかな。ひどく傷つけてしまったのかも知れない。


車に戻り、自宅アパートへ向かう。


途中、やっぱり謝ったほうがいい気がして、道路わきへ停車した。


電話をしてみると、LINEは早くもブロックされていた。


ひどくショックを受けて、あまりに軽率だった行動を深く後悔する。


もう二度と逢ってはくれない気がした。





意気消沈してアパートへ帰ると、有紀がいつになく明るい笑顔で迎えてくれた。


だけど今日はそれが鬱陶しく感じられて仕方がなかった。ご飯はいらないといって、すぐに風呂へ直行する。


風呂からあがると、有紀が待ちかまえていたように話しかけて来た。


どうしたというのか?


ずっと不機嫌で、無視していたのに。


姉貴が元気のない俺を心配をして、電話をくれたとのことだ。


実家であんなに元気に振る舞っていたのに、母も姉貴もお見通しだったというわけか。


どこまでも、いつまでたっても頼りない男なんだな。


彩矢ちゃんに完全に拒否されて、今はさらに失意のどん底にいる。


有紀がまだなにか言いたげに話しかけて来たけれど、とても聞いていられなかった。


疲れているからもう寝ると言って、寝室へ逃げた。


ベッドへ横になり、涙を浮かべていた彩矢ちゃんの顔を思い出していた。


ごめん、彩矢ちゃん……。


しばらくすると、有紀がベッドへ入ってきたので、寝たふりをする。


なにを思ったのか、すり寄ってきたので慌てた。


今まで、ずっと拒否し続けていたのに……。


谷さんはもうすぐ結婚してしまうから、諦めたということか。


だからって、……。


俺はもうそんな気にはなれない。






今日から新しい病院での勤務が始まる。


色々な科がある、中規模な総合病院だ。


真新しいユニホームに着替える。久しぶりの白衣に新鮮な喜びを感じた。五十代後半ぐらいか? 白髪混じりの事務長に各部所を案内され、挨拶まわりに連れていかれる。


三人の医師を紹介された。医師との相性が一番重要だけれど、普通の常識的な医師に見えたので、とりあえずホッとする。


外来、薬局、事務室、検査室、リハビリ等をまわって、一番緊張する病棟が最後だった。


ナースステーションでは、ちょうど申し送り前の朝のミーティングが始まっていて、たくさんの職員が勢ぞろいしていた。


連絡事項が終わったところで、事務長から紹介される。


「放射線の新しい技師さんです、」


事務長から簡単に振られた。


一斉の注目とともに、どよめきが起こる。


「うひゃ~、めっちゃイケメン!」


こんなことを恥じらいもなく大声で言うのは、いつも中年のおばちゃんナースだ。


「あ、佐野 遼介です。よろしくお願いします」


そう言って軽く頭をさげた。


「 佐野さ~ん、あとで胸の写真撮ってもらうからよろしくね~~!」


中年太りした化粧の濃いナースがウインクをして言うと、ギャハハハとナース達から笑い声があがった。


イケメンなどとはやし立てるけれど、ウケを狙っているだけだろう。別段、俺に興味がある訳ではない。いつものようにおちょくられて、ナースステーションを後にした。







仕事内容はほとんど変わらないので、職員にさえ慣れれば、特に問題はないように思われる。


夕方、今日の仕事はほぼ終わり、自販機で飲み物を買っていたら、背後から声をかけられた。


「あら、佐野さんじゃない!」


振り返ってみると、以前同じ病院だった北村沙織だった。


「あ、北村。ここの病院だったのか」


「まだ、来たばかりよ。一週間前に」


今時のナースは白衣をばかりではない。ほっそりとした北村は、濃紺のユニホームが似合っていた。


相変わらず見た目は綺麗だが、なにか企んでいそうな、危ない気配を感じる女だ。


「そうか、俺は今日からなんだけど」


「へ~  奇遇ね、色々話したいこともあるし、今度飲みに行きましょうよ」


「えっ、あ、う、うん」


さすがに即座には断れず、あいまいな返事で誤魔化す。


「今日はこれから夜勤なの。じゃあね!」



北村が結婚退職して、東京へ行ったのは四年前だったかな?  離婚をして戻ってきたのだろうか? とにかく、あまり関わりたくない感じの女だ。


まぁ、それ以外は特に問題もなく初日の仕事を終えた。やはり、宅配の仕事よりは楽だし、向いていると思った。やりがいと、楽しささえ感じられる。


この病院でずっと働けたらいいけれど。


彩矢ちゃんも働きたいと言っていたけれど、どこの病院で働くのだろう。


二人の子供を、保育所に預けて働くのは大変だろうな。


五時半を過ぎてタイムカードを押し、更衣室で着替える。


職員通用口から外に出ると、九月になって少し日は短くなってはいるものの、日没前のこんな明るいうちに帰れることに驚く。


以前なら家に帰ると、食べて風呂に入って寝るだけだったけれど。


早く帰ってなにをしよう……。


有紀ももうアパートに帰っているのだろうか。あまり早く帰りたくない。今の二人の状況で、あの狭いアパートは居心地が悪すぎる。


パチンコでもして帰ろうかと思ったけれど、ギャンブルはやっぱりやめておこうと思い、本屋に立ち寄る。


雑誌を数冊立ち読みしたあと、文庫本を二冊買って、アパートへ帰った。


アパートの玄関をあけると見慣れない靴が二足あった。誰が来てるのだろう。


リビングへのドアを開けると、室蘭の両親がソファに座っていた。


「どうしたんだよ、急に!」


心配げに俺を見つめる両親に、思わず叫んでいた。





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