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殺害をこころみて
しおりを挟む叫んだところで、誰も助けになど来てくれるはずもなかった。
哀しくも呆気なく、卑劣な体育教師によってわたしの純潔は奪われた。
村井先生は起き上がってズボンのファスナーを上げると、呆然自失して横たわっていたわたしを携帯カメラでバシャバシャ撮った。
「いいか、裸の写真をクラスメイトに見られたくなかったら、この事は誰にも言うな」
そんな脅しの文句を残して、先生はアパートを出ていった。
あの時すぐに警察とか児童相談所に通報していればよかったのだ。
相談できる人もなく、まだ14歳だったわたしは、村井の言葉にひどく脅えた。
クラス中に裸の写真がバラ撒かれるなんて。
わたしの恥ずかしい写真が世界中に拡散される!!
そんな事になったら、たとえ自殺したところで少しも浮かばれないような気がした。
元々低かったわたしの自己肯定感はどん底にまで落ちた。
こんな薄汚れたわたしなど、サッサと抹殺されてしまえばいい。
どうにでもなれと投げやりな気分になっても、その後の村井との関係は思い出すだけで身の毛のよだつものだった。
村井は週に一度は来るようになり、その度に脅され、オモチャにされた。
とても口には出来ないような事まで強要され、この地獄から抜け出すにはもう死ぬしかないと思った。
人生に絶望していたので、死ぬことはそれほど怖くはなかったけれど。
ただ、担任の村井を許すことができなかった。
あんな鬼畜以下の人間が、なんの罰も受けずにのうのうと生き続けるなんて。
道連れにしてやるか、死ぬほどの苦しみでも与えてやらなければ死んでも死に切れない。
まだ子供だったわたしの復讐は、いま思えば軽はずみで短絡的なものだった。
もっと社会的に抹殺されるようなダメージを与えることだって出来たはずなのに。
まくらの下に果物ナイフを隠し、村井がやって来る日を待ちかまえた。
殺人犯になったってかまわない。
あんな男は死んだほうがいいんだ。
わたしのような不幸な犠牲者をまた生むよりはずっといい。
三月も過ぎて、雪解けもかなり進んだ頃だったと思う。
そろそろ今日あたり、村井の訪問があるような気がした。
午後の四時を過ぎた頃、予想どおり玄関のブザーが鳴った。
村井先生に違いない。
もうすぐ殺そうと思っている人間と対面することに、いつもとは違った恐怖を感じた。
本当に殺せるだろうか。
あの頑強な体育教師を。
玄関ドアを開けるとやはり村井だった。
女子生徒からキモがられているだけあって、見るからにだらしなく、風采の上がらない中年男。
そんな男がわたしのはじめての相手だったのだ。
あらためて激しい憎しみの感情が込みあげた。
「よぉ! 待ってたか? 俺に逢えなくて寂しかっただろ。ハハハッ」
くだらない冗談を言いながら、村井はまるでわが家のような気軽さで靴を脱いだ。
「相変わらず寒い家だな。そろそろ俺が来る頃だなと思ったら、気をきかせて暖房ぐらい入れておけ」
村井はぐるりと部屋を見まわし、ストーブのスイッチを押した。
寒いと言いながらも、すぐにダウンのジャケットを脱いだ。
「今日はグズグズしてられないんだ。仕事が残ってるからまた学校に戻らないといけない。年度末はやる事が多くて嫌になるな。生徒は問題児ばっかりで親はアホ。教師なんてバカバカしくて真面目になんかやってられねぇよ。おい! ボケっとしてないでサッサと服を脱げ!」
こんな横柄な物言いにも、すっかり慣れてしまっている自分が哀しい。
だけど、それも今日で終わりだと思うと、それほど苦痛には感じなかった。
言われるがままにフリース素材のルームウェアを脱ぎ、隣の和室のせんべい布団に横たわった。
これから自分がしようとしていることを思って、恐怖と緊張で身体が震えた。
太鼓腹した村井がブリーフ一枚の姿で、横たわっているわたしの布団に入ってきた。
毛深いスネ毛の生えた足が、わたしの太腿にあたり、ザワっと鳥肌が立った。
「今日は前からか? バックからか? どっちがいい?」
鼻息を荒くした村井が、わたしの身体にのしかかりショーツに手をかけた。
「………ま、前がいいです」
村井の顔から目をそむけ、震える声で答えた。
「フハハッ! そうか、美穂は前からが好きかぁ。よーし、今日はこれでもかってくらいヒーヒー言わせてやるからな」
ニヤニヤと卑猥な笑みを浮かべて、わたしの唇をむさぼった。
村井の唇が首筋を這い、短い無骨な指がわたしの胸を撫でまわした。
ねっとりとした気色の悪い舌の感触が、首から胸のほうへと降りていく。
ーー殺《や》るなら今しかない。
まくらの下に隠した果物ナイフをつかみ、思いっきり村井の背中に突き刺した。
うぐっ!!
「な、なんだ? 美穂、お、、おまえ、なにをした?」
村井先生の背中から真っ赤な血が流れて、白いシーツにポタポタと垂れた。
「わっ、わーーーーっ!! ち、血だ!!」
青ざめて、慌てふためいている村井先生をみて、わたしも気が動転した。
とうとう、とうとう、やってしまった。
ーーわたしは人殺しだ。
「なんてことをしてくれたんだ、このクソガキがっ!!」
致命的なほどの傷ではなかったのか?
先生は逃げようとしたわたしの肩をつかむと、思いっきり平手打ちした。
ぶたれた衝撃で押入れの襖にぶつかり、ガタンと戸が外れた。
尻もちをついて、その場にうずくまったわたしもすっかりパニックを起こし、握っていた果物ナイフを自分の左手首に当てた。
「バカ、美穂、止めろ!!」
村井先生の驚愕した顔が歪んでみえた。
「こっちに来ないで!! 先生を殺して、わたしも死にます!」
「バ、バカッ、美穂、やめろーーっ!!」
迷うことなく手首に当てたナイフを思いっきり引いた。
真っ赤な鮮血が飛び散り、自分の顔に降りかかった。
先生の叫び声。
恐怖で引き攣った顔。
これで、これで、、、、 死ねる。
………やっと自由になれる。
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