いつだって見られている

なごみ

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往診に来るのはいつも午後2時前後。


あと、3時間ほどしかない。


医院に電話して、今日は都合が悪いからと言って断ろうか?


……そうだ!


あの医師が往診に来る直前に亡くなったということに出来ないだろうか?


警察は無理でも、あの初老の医師なら騙せるかも知れない。


でも、この首の跡……。


スカーフを巻けば隠せるけれど医師はスカーフを取って調べるだろうか?


わからない。でも、もうそれしか方法はないように思われる。


バレたらバレたでしょうがない。とにかくこれしか方法はないのだ。


やってみよう。



まだ10月になったばかりで、家の中にいてスカーフを巻くような季節ではないけれど、母は元々寒がりだ。


スカーフを首に巻いていても、おかしいとは思われないだろう。


私が買い物から帰ってきたら、母が苦しんでいるからすぐに来てと、島田内科に電話をしよう。


母の箪笥の小引き出しから、くたびれた化繊のスカーフを出した。


よくもやってくれたな! と言わんばかりに、眼を見開いて睨みつけている母の眼を指で押さえた。


手を離すと眼は半開きになったが、気にしているヒマはない。


お買い物バッグをつかむと急ぎ足でいつものスーパーへ出かけた。



早くしないと死後硬直やらなんやらで、うまく誤魔化せなくなるかも知れない。


ここは一応札幌市ではあるが、市街からは離れた小樽に近い田舎町である。


徒歩3分のマルトモスーパーは、午前中ということもあってか客は少なかった。


入るとすぐに、秋の味覚である柿や梨、葡萄などが店頭に並べられていた。


いつあっても困らない卵と牛乳、人参、玉ねぎを買った。


肉や魚も買いたいところだが、そんなものまで見ている暇はなかったし、これから葬儀が始まることなどを考えれば、お料理どころではなくなるだろう。


小走りで帰ったので汗をかいた。


タオルで顔を拭きながら、固定電話の受話器を持ち上げた。


震える手で、すでに登録されている島田医院を選んで押した。













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