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しおりを挟む「はい、島田内科医院です」
いつも人を小馬鹿にしたような受け答えをする、愛想のない受け付けの女が出た。
「あ、あの、いつもお世話になっている小山節子ですけど、いまスーパーから戻ったら、お婆ちゃんがぐったりしていて、今日は往診の日なのですが、すぐに見ていただけませんでしょうか?」
「小山節子さんですね、ちょっとお待ちください」
これはなんという曲なのか?
保留に切り替わり、今の心境ではとてもついていけない明るくリズミカルな電子音が流れる。
音楽がプツリと止んで、聞き慣れた医師の声がした。
「はい、小山さん? どうした婆さん、おかしいって?」
島田医師が嗄れた声でそう尋ねた。
「あ、先生、お忙しいところをすみません。いま買い物から戻ったら、お婆ちゃんがぐったりしていて、口からよだれを垂らしてるんです! 」
「そうか、……まぁ、もう歳だからな。ちゃんと息はしてるんだろう? ちょっとまだ外来の患者が残ってるんだ。あと二人だから、終わったらすぐに行くから」
「はい、じゃあ、お願いします!」
受話器を置き、次に何をすべきかを考えた。
往診に駆けつける寸前までは、生きていたことにしなければいけない。
素人判断だが、死後硬直はまだ来ていないように思う。
だけど、あきらかに体温が下がっていて、手がとても冷たく感じられた。この体を温めなければいけない。
しまい込んでいた電気毛布を取り出し、最大にまで温度を上げた。
医師と看護師が駆けつけるまで、これで温めていよう。
あとは、あとは何をすればいいのだろう。
死亡診断書を書いてもらったら、すぐに役所に行って火葬承諾書をもらわなければいけない。
家族や親戚になんと思われようとかまうものか。
遺体はできる限りすぐに火葬してもらおう。
医師はあと30分もしたら来るのだろうか? 外来患者が二人残っていると言っていたけれど。
医院からこの家までは車で10分ほどだ。
もう一度、電話を入れておいたほうがいいはずだ。
また受話器を持ち上げ、電話した。
「はい、島田内科医院です」
「先ほど往診をお願いした小山です! お婆ちゃんが、お婆ちゃんが、、先生に早く来てくださいとお伝えくださいっ!」
慌てふためいた様子でそれだけ言って、電話を切った。
あとは慌てて来る島田医師を待つだけだ。
スカーフを取らないまま、死亡診断書を書いてくれたら、なんとかなるかもしれない。
15分ほどして、玄関のチャイムが鳴った。
すぐに電気毛布をはずして隠し、玄関へ向かった。
心臓がバクバクと周りの人にまで聞こえそうなほどに打ちだした。
すばやく玄関の鍵を開ける。
「先生! お、お婆ちゃん、さっきから息をしてなくて、どうしましょう!」
冷静な頭でオタオタと動揺して見せた。
島田医師と太った中年の看護師が玄関で慌てて靴を脱いだ。
無言で母が寝ているリビングの隣の和室へ直行する。
島田医師がいきなり母の首に手を当てたので、思わず声が出そうなほど驚いた。
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