いつだって見られている

なごみ

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 だけど気を抜いてなどいられない。


遺体を焼却してしまうまでは安心できないのだ。


まだ、お昼前だ。


早く役所に行って、火葬承諾書をもらってこなくては。


島田医師と看護師が車で帰って行ったのを見届けて、死亡診断書をバッグに入れた。


あとは印鑑も必要だろうか?


乱れた髪を手櫛でサッと直し、バッグと車のキーをつかんで家をでた。


本来なら、家族の誰かを呼んで母のそばにいてもらうべきなのだろうけれど、そんな常識に従っているわけにはいかない。


役所は空いていて、すぐに火葬承諾書をもらうことが出来た。


なのに火葬場が混んでいて、早くても明日の午後になると言う。


なんてこと……。




こうなったら意地でもこのスカーフだけは、誰にも取らせないようにしなければならない。


こんなくたびれたスカーフでは、はずされて捨てられないとも限らない。


二階に上がり、クローゼットの棚の奥からオレンジ色の小箱を取り出した。


まだ一度も使用したことのないエルメスのスカーフ。


二年前、介護のストレスで衝動買いをした。


とても高価なものだが、殺人犯の汚名を着ることを考えたら安いものだ。


死んだ母にはくたびれた化繊のスカーフのほうがよく似合っているけれど。


時計を見ると、もう1時を過ぎている。グズグズしてはいられない。


どうしたって葬儀屋を呼ばなければならないし、家族や親戚にもそろそろ連絡を入れなければいけない。


母の首からくたびれた化繊のスカーフをはずした。


まだ手の跡が赤く残っていた。


母のタンスから綿素材の寝巻きを出し、パジャマを脱がせて、着替えさせた。


割り箸を使って、肛門と膣に脱脂綿を詰める。


鼻腔と口の中にも脱脂綿をつめた。


死化粧もしてあげよう。


ちりめん皺になっている母の顔にファンデーションを塗り、チークと口紅をのせると、少しだけ華やいだような顔立ちになった。


首にもファンデーションを塗った。コンシーラのほうがもっといい。


スカーフなどしなくてもわからないくらい目立たなくなった気もするが、不安がぬぐえず、エルメスのスカーフを巻いた。


寝間着姿にスカーフはどんなに寒がりの母でも似合わないが仕方がない。


葬儀屋に連絡を入れ、夫の携帯にも電話した。


「もしもし?  あ、パパ?」


『どうした?  電話なんて、なんかあったのか?』


「母がさっき亡くなったの」


『マジか?  今朝はいつもと変わりなかったけどな?』


「ええ、スーパーから帰ったらぐったりしていて、島田先生にすぐに来てもらったんだけど、間に合わなくて、、急性心不全だって」


『そうか、わかった。すぐに帰れると思う。じゃあ、後でな』


「ええ、じゃあ、お願い」


高校生の娘と中学に通っている息子にはメールで知らせておいた。



30分ほどして、葬儀屋がやって来た。


故人に手を合わせたあと、今後の打ち合わせをした。


通夜は執り行わず、明日の告別式のみにしてもらい、その後火葬場へ向かうことに決めた。


湯灌など身体を拭いて清める儀式などは省いてもらった。なにをやるにもお金はかかるので、葬儀屋のほうも無理にとは言えない。


家族が来る前に、さっさと死装束に替えてもらい、安い棺の中へ納めてもらった。


母の棺は仏壇の前に置かれた。


葬儀は会館やセレモニーホールなどを使用ぜず、自宅で近親者のみで執り行うことに勝手に決めた。


兄と妹は不満を漏らすかも知れないが、面倒を見てきたのは私である。


文句など言わせてたまるものか。













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