いつだって見られている

なごみ

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今夜、泊まるのは妹夫婦だけで良かったか?


義姉夫婦は家が近いのだから、自宅で寝ると思うし、兄夫婦は明日でなければ着かないと連絡が入ったのだから、布団は二組あれば良い。


母の弟が地方に住んでいるのだが、もうアルツハイマーで長いこと施設に入ったままだし、親戚づきあいもないのだから後で連絡だけすればいいと思う。


日菜と健太が弁当が入った袋を両手に下げて帰って来た。お茶やジュースのペットボトルも買って来てくれた。


幕の内、カルビ丼、海苔巻きにいなり寿司のセットなど、色々な弁当を座卓テーブルの上に広げた。


 皆それぞれ好みのお弁当をとって、食べ始めた。


妹の宏美も客であると勘違いして、お弁当を食べている。


「宏美!  こんな日くらい手伝いなさいよ。あなたはお客じゃないんですからね」


「身内しかいないじゃないの。何をしろっていうのよ」


「コップを出したり、おつまみ出したりしなさいよ。そこに買って来たのがあるから。あと、あなたと賢治さんのお布団そこの押し入れに入ってるから自分達で敷いてよね」


「え~  泊まれってこと?  車で30分なんだから帰って寝るわよ。疲れが取れないもの」


「通夜の日くらい泊まるでしょ、普通。実の母親なのよ、信じられない」


「出来るだけ遅くまで残ってるわよ。お姉ちゃんだって、私たちがいたら、朝ご飯とかなにかと大変でしょ。お互い年なんだから無理しない方がいいって」


確かに身内しかいないのだし、体裁を考えることもないのかも知れない。


それに出来るだけ母のそばに人がいない方がいいのだから、無理に泊まってもらうことなどない。


「そうね、そうだわ。無理しない方がいいわ。宏美の言う通りよ」


「なんか、やけに素直だね。いつも自分の意見は絶対に譲らないのに」


疑わしげに見つめられて少し動揺する。


「歳をとると体が一番大切だもの。きちんと睡眠はとらないとね。私は昨日も夜中に何度も起こされて寝不足だから、寝させてもらうことにするわ」


「あら、そうなの?  それじゃあ、わたし泊まるわよ。ろうそくの灯りとお線香、絶やしちゃいけないんでしょ?」


「そ、そんなのはいいわ、日菜と健太にも手伝わせるから。交代でやらせるわよ」


「そうね、若い人に任せた方がいいわね。じゃあ、お願いするわ」


妹夫婦に発見される危険性はこれで取り除かれたと言うことだ。


近所に住む義姉夫婦だって泊まらずに帰るのだから、あとはうちの家族だけだ。


少しほっとして母の棺を見ると、義姉が母のスカーフに手を伸ばしていた。


「義姉さん、何してるんですか!」


 義姉の和歌子の背中がビクッと反応した。


「あら、嫌ねぇ。誰もとったりしないわよ。だけどもったいないわね。これってまだ新しいじゃない」


まったく義姉は油断もスキもあったものではない。


「82年間つましく暮らして来た人なんですから、最期くらいは贅沢させてもいいじゃないですか」


「確かにね。お義母さんって毛玉のついた、くたびれた服ばかり着ていたわよね。亡くなったご主人の保険金とか結構な貯金だってあったと思うのに、溜め込んでばかりいて一体なにが楽しいのかしらって思ってたわ」


蔑むような薄笑いを浮かべた。


 義姉はブランド品やグルメが大好きで、お金もないのにいつまでも散財癖が抜けない。


今も消費者金融の返済に追われ、自転車操業ばかり繰り返していると聞いた。


そんな生活の一体なにが楽しいのかと、こっちのほうが聞きたくなる。


父が死んだ時、わたしに入った遺産をあてにして借金を申し込まれた。


遺産といっても半分は妻である母のものだったし、残りの半分を3人の兄弟で分けたのだから、200万もなかったのである。


なのに夫からもなんとかしてやってくれと泣きつかれ、仕方なく100万貸したけれど、義姉には返済する気など全くない。


 返っては来ないと諦めて貸したものだったけれど、だからと言って気持ちの整理がついているわけはない。


だけど未だに借金しかない人からの返済など、いくら期待してもどうにもならないのである。



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